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343.お姉ちゃんにお姉ちゃんが出来た

 まだ保育園に入れないイヴは、保育所で友達と並んでお昼寝の時間だった。なのに眠らず、あれこれと考えている。幼いなりに、イヴは姉になる覚悟を決めた。


 まずは弟をお腹に入れたママを大切にする。パッパがママによじ登らないようにする。もし乗ったら、私が邪魔をする。


 真剣に考えながら、用意された寝具の上で転がった。預かる子の大きさや種族がバラバラなので、保育所の寝具は上掛けのみ持参になっている。下は柔らかな絨毯が敷かれ、その上に寝転がるのだ。枕は自由、あってもなくてもいい。


 ママが用意した上掛けを体に巻き付けながら、イヴは唸った。パッパがこの前ママに乗っかった。隠そうとしたけど、あれはママも苦しかったに違いない。少し泣いてたし、変な声を上げていた。


 パッパはママを虐めた? でも次の日は一緒に仲良く手を繋いでいた。大人は難しい。結局、よく理解できないので、ママが「嫌だ」と言ったら、パッパの邪魔をすることにした。


 そこで寝落ちしたイヴは、おやつの時間に目をこすりながら起き上がる。用意された果物とお菓子から、お菓子を選んだ。魔獣の子が果物を齧り、歯に刺さって抜いてもらっている。その隣で、いつも一緒に遊ぶ友達に話しかけた。


「ゴルぅ、私お姉ちゃんになるの」


「そうなんだ」


「それで、お姉ちゃんって……何するの?」


 4歳、魔族の年齢で言ったら卵の殻を付けてヨチヨチ歩く雛にも満たない。幼いイヴは、お姉ちゃんになる決意はしたが、何をしたら姉になるのか理解していなかった。


 相談されたゴルティーも同様だ。卵のまま7年を過ごした琥珀竜は、首を傾げた。ぐるりと周囲を見回す。それから何かを思いついたようで、声を張り上げた。


「アイカ、ちょっといい?」


「なに?」


 リリスより2歳半年上のアイカは、素直に近づいた。もうすぐ保育園へ移動になる彼女は、ルーシアの次女だ。つまり、上に姉がいる。


「アイカのお姉ちゃんって、何してる?」


「ライラお姉ちゃん? えっとね、勉強してるわ。あと私と遊んでくれる。それから……ママのお手伝いもしてたっけ」


 思い出せる範囲で、丁寧に答えるアイカは母親であるルーシアに似ていた。外見ではなく、中身である。ややおっとりしたところがあり、のんびりした口調で話した後、お菓子に手を伸ばした。


「あのね、イヴはお姉ちゃんになるの」


「あ、いいなぁ。羨ましい」


 素直に羨ましいと言われ、イヴは得意げに胸を張った。姉になるのはまだ1年以上先の話だが、イヴはその辺は理解できていない。弟が出来たんだから、すぐにお腹から出てくると思っているのだ。


 ちなみに赤子が腹にいる話は、おしゃまなマーリーンから聞いた。彼女は一人っ子で、祖父や叔母が可愛がっている。アデーレが祖母なのだが、イヴが知らない話をたくさん知るお姉さん的存在だった。


 そんなマーリーンは、今日お休みだ。母イポスの育児休暇が終わる前に、ちょっと小旅行に行くのだとか。


「私のお姉ちゃんになってもいいよ」


 よくわからない理論は、子どもの特権だ。アイカは目を輝かせた。母ルーシアは二人産んだので、しばらく妹や弟を産む気はないと言っていた。だから諦めていたけど、イヴが妹になるなら嬉しい。


「ホント? ありがとう、妹か。私ちゃんと可愛がるね」


「うん!」


 ぐっと抱きついたイヴの黒髪を撫でるアイカは、憧れていた姉の肩書きを堪能した。その日、お迎えが来るまで「私の妹なんだから」と宣言しながら、イヴを連れ回したのは……まあ、当然の結果だったかも知れない。


 イヴも笑顔で付いて回っていたので、保育士達も微笑ましげに「いいわね」と相槌を打つだけだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >パッパがママによじ登らないようにする。もし乗ったら、私が邪魔をする。 イヴ姫、逆にママがパッパによじ登ったら、こっそりと応援してあげて下さいね。
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