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332.太公戦の先陣は吸血鬼王

「魔王様、頑張れ!」


「アスタロト太公様、おめでとうございます!」


 応援やアデーレの妊娠祝いなど、さまざまな声が飛び交う。一番手はアスタロトに決まったらしい。


 魔力を凝らせた虹色の刃を持つ剣が愛用の武器だが、アスタロトはしゅるりと爪を長く伸ばした。と同時に、普段は表に出さないコウモリの翼や角を見せる。にやりと笑う口元に、牙が収まりきれず覗いた。


 この姿を取ることは滅多にない。何かしら心境の変化があったようだ。ルシファーは武器を取り出すことをせず、空の手で対峙した。


「爪でいいのか?」


「ええ、これが本来の形ですからね。参ります」


 宣言した直後、アスタロトの姿が消えた。ルシファーはひとつ息を吐いて、上空からの攻撃に備える。翳した右手に、キンと甲高い音が響いた。手首を狙ったアスタロトの爪を、一振りで払う。


 爪を軸に体を捻り、ルシファーの後ろへ着地したアスタロトは、そのまま左手の爪を伸ばした。背中から狙われたルシファーは、予備動作なく数歩動く。服を掠めたものの、ケガはない。ぎりぎりを攻めるアスタロトに対し、ルシファーは余裕を持って応じた。


「っ!」


 ここからリズムが変わった。アスタロトの鋭い爪がルシファーの髪を切り落とし、頬に一筋の傷を刻む。息もつかせぬ素早い攻撃を繰り返し、頬や首筋の傷を増やしていく。


「お覚悟!」


「そう簡単に首を取らせるか」


 出産祝いにしても首は渡せない。止めとばかりに突き出された爪を、右手を犠牲に握った。手のひらを切り裂く生々しい感覚を堪え、左手の手刀を起点に爪を折る。ぱきん! 甲高い音が響き、集まっていた観衆の声が遠のいた。


 静まり返ったあと、わっと再び歓声が広場を埋め尽くす。


「アスタロト大公閣下!」


「魔王様! すげぇ!!」


「最後の方、早すぎた」


 沸き立つ人々に左手を振り、ルシファーはほっと肩の力を抜いた。後半の連続攻撃はちょっとヤバかった。そう呟いて笑い、ぴりっと走る頬の傷を消していく。


「右手も痛むのでは?」


「ん? お前の爪の傷は消えにくい」


 文句を言いながら、開いた右手はまだ薄く傷跡が残っていた。それもすぐ消える。折った爪を差し出せば、アスタロトは受け取って収納へ放り込んだ。足元に散らばった髪を風で拾い、ルシファーも同様に収納へ投げる。


 魔力の強い者の髪、爪、体液などは魔法の媒体になる。故に、当人達は常に回収を心がけてきた。過去に放置して呪われた経験があるアスタロトは、特に神経質だ。


「ありがとうございました」


「剣の方が楽だな」


 挨拶を済ませたところへ、飛び出したのはルキフェルだった。上空を飛ぶ水色の髪の青年は、一度舞い降りてから紺色の裾を捌く。


「次は僕が行くよ」


「では、敗者は退場するとしましょう」


 一礼したアスタロトが数歩下がり、足元の影にするりと身を沈めた。戦いの最中に使われたら、追うのが大変だ。模擬戦は見せ物の側面が強いため、姿が見えなくなる戦い方を避けたのだろう。


 吸血鬼王の退場に拍手が送られ、期待の眼差しが瑠璃竜王へ向けられる。ルキフェルは気負った様子なく、いつも通りだった。


「いつでもいいぞ」


「うん、今回はいつもと違うよ」


 戦いにおいて上空に陣取ることが有利なのは、誰もが知っている。空中でルキフェルは竜化した。腕など一部ではなく、全身が鱗に覆われていく。


 巨大なドラゴン姿を取ったルキフェルは、その二つ名に相応しい青紫の鱗を煌めかせて咆哮を上げた。ぐぉおおぉおぉ! 大気を揺るがす圧倒的な力を誇示し、瑠璃竜王は魔王へ狙いを定めた。


「ふむ、武器は何がいいか」


 ドラゴン退治は昔から槍か剣、だがどちらも相応しくない気がした。急降下する大質量を前に、ルシファーは口元に笑みを浮かべる。


「久しぶりに魔法勝負も悪くない」













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