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327.初戦から盛り上がる魔王チャレンジ

 魔王チャレンジは、宣言をもって始まる。集まった挑戦者は得意な武器や魔法で、ルシファーへ攻撃する権利を得た。この戦いは基本、魔王対挑戦者の形で行われる。第三者の介入は、その時点で大公達に排除されるのが恒例だった。


「ぐぁあああぅ!」


 気合を入れた魔狼の咆哮に、ルシファーは素手で応じた。飛び掛かる爪の一撃を、がっちりと掴んで止める。後ろに押されたが、ぐっと力を込めて笑った。


「力勝負で来たか! こういうのは久しぶりだ」


 嬉しそうに笑うルシファーが、押される左手の力をふっと緩める。つんのめるように前に転がる狼は、丸まって受け身を取った。一回転して起き上がり、そのまま再び攻撃に転じる。


 魔狼の巨体が、魔王の上に覆い被さった。普通ならそのまま潰される心配をするが、数歩後ろへ避けたルシファーが威圧を放つ。本能的に威嚇し返した魔狼の突進を、手のひらで押し留めた。


 力勝負であっても、ルシファーに勝つことは容易ではない。善戦する魔狼に対し、他の魔獣が応援に回った。頑張れと遠吠えし、そこだ行けと吠え立てる。盛り上がる周囲に煽られて、魔狼は興奮度を高めた。だが、これは失敗の一歩だ。


 魔獣は他の魔族より、獣に近い。本能が強く、興奮しすぎると理性的な戦いが難しくなるのだ。フェンリルの挑戦者もこれにもれず、ただ闇雲に飛びついた。押し倒したと思った獲物がおらず、不思議そうに周囲を見回す。


 首筋にひやりと冷たい手刀が触れ、魔狼は地面に伏せていた。突進した勢いを利用して跳躍した魔王ルシファーが、落下スピードを利用して叩きのめした形だ。どこまでも魔法や武器を使わず、同じ土俵で戦ったこと。それがルシファーなりの敬意だった。


 魔獣で挑戦者となるのは、他の魔族よりハードルが高い。それは、森の王者と称えられるフェンリルであっても同様だった。鋭い牙も今回は出番がなく、地に伏せたフェンリルはくーんと鼻を鳴らす。彼は次のセーレであり、ヤンの孫に当たる。


 立派な戦いを繰り広げた彼には、大きな肉の塊が褒美として与えられた。それ以外に、リリスとイヴからリボンを贈られる。首に巻いて結ばれた赤いリボンを、魔狼は誇った。立ち上がってリボンを見せびらかし、仲間の元へ戻っていく。


「いい戦いだったな」


 にやりと笑うルシファーの周囲は、ぐるりと輪を描く形で空き地が出来ている。周囲の屋台は大急ぎで店を畳み、机や椅子も纏めて端に積み重ねられた。城門前は宴会場から本来の広い芝生広場に戻され、次の戦いを待ち望む。


「次はあたしが行くよ」


 魔の森から引き抜いた丸太を振り回すのは、巨人族でも一際大柄な女戦士だった。武器は丸太にしたらしい。まだ根や枝が付いたままの大木を振り回し、どすんと縦に地へ立てる。


「丸太か」


 これもまた力自慢が来た。魔獣と違い素手ではないので、なにか武器を使うか。考える間に、彼女は丸太を掲げて振り下ろす。まるで足元の小さな虫を潰すように。


 勢いよく振り下ろされた丸太が、ぴしっと音を立てて半分に割れる。縦に裂けた木材を手に、彼女はにやりと笑った。ルシファーの手に握られるのは、細い糸だった。アルラウネ、女郎蜘蛛が武器として使う糸だ。


 普段使う糸と違い、柔軟性はない。だがワイヤーのように物を切り裂く鋭さがあった。収納空間から取り出した糸は強靭だが、使い方を間違えれば己を切り裂く。それだけでなく、無理な力を掛ければ糸は切れるのだ。


 相手が太い丸太を使うなら、逆に細い糸で応じる。その対比に、観衆は湧き立った。なお、集まった人々は戦いに応じて、後ろに下がったり前に出たりする。臨機応変の壁となった民は、もし巻き込まれて死んでも自業自得、と考える強者ばかりだった。


 実際のところは、大公達が守っているのだが……それでも手足を折るくらいのケガ人は、毎回数十人単位で発生する。気にせず前に出るところが、魔族らしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 忘れた頃に始まる魔王チャレンジ。ww
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