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325.お振る舞いはマナーだが、過ぎたるは

 酔っ払いが踊りまくる広場で、ドワーフの奥方達に捕まった。


「いいところへ、ほら。姫もこれ食べな」


「ありがとう!」


 嬉しそうにリリスが応じてしまったので、酔っ払い避けの結界を張ってからテーブルにつく。差し出されたのは、お祭りでよく見かける肉料理だった。甘辛いタレで和えた肉は、大量の野菜と一緒に煮こまれて柔らかい。普段はあまり見かけない料理なので、ルシファーも一緒に食べ始めた。


「あーん! あーん!」


 イヴが食べたいと口を開くが、塊が大きくて無理だ。それ以前に、離乳食を始めたばかりのイヴに、この味付けは濃すぎた。だが本人は食べる気でいる。こうなると、リリスと一緒で頑固なイヴはなかなか諦めてくれない。迷った末、保存している離乳食を収納から取り出した。


 見た目が明らかに違うので、ちょっと加工する。幻影で同じ料理のように装った。ちらっとこちらを見たリリスは、気づいたのに何も言わない。それが答えだった。


 用意したお皿へ移す様子を、イヴはじっくり眺めた。後ろめたいルシファーだが、素知らぬ顔で小皿に取り分ける。それから彼女が瞬いた隙に、中身を入れ替えた。それを目の前に置く。幻影で誤魔化されてくれるか。膝で立ち上がったイヴは、ぶんぶんと体を揺らして興奮状態だった。


「ほら、あーんしろ。イヴ」


「あーんっ」


 口を開いてぱくりと食べる。味は薄いが、ちゃんとキノコと卵のキッシュに似た味がするはず。もぐもぐと口を動かし、ごくりと飲み込んだイヴは素直に口を開けた。


「あーん!」


「いい子だな、イヴ」


 可愛い娘を騙す罪悪感より、素直で可愛いと思う感情が勝った。パクパクと小皿の上の分を食べ終え、イヴは膝に座り込んだ。ルシファーの純白の髪を握り、ご機嫌で鼻歌を歌う。その間に、リリスはドワーフの奥方にあれこれ質問をしていた。


「そんなに長い時間煮こむのね。大変だわ」


「そうでもないんだよ、これが。鍛冶屋は常に火を絶やさないからね。あの人の窯の脇に置かせてもらえば、勝手に煮えるって寸法だよ」


 直火に掛けず、鍛冶用の高温の窯の脇に並べる。なるほど、熱エネルギーだけで煮込むから焦げないのか。思わぬコツを耳にして、いつもお祭りで食べる料理なのに、ドワーフの奥方しか提供していない理由を理解した。


「お礼だ。夫にバレないようにな」


 上質のワインを数十本取り出し、ドワーフのご夫人方に渡す。慌てて彼女らはワインを運んでしまい込んだ。見つかれば、酒の味も理解しない夫に飲まれてしまう。勿体ないと笑う彼女達は、小柄でふくよかな体を揺らして笑った。


「ぱっぱ、もっと」


 まだ食べると主張するイヴだが、お腹を撫でる仕草からしてお腹が空いているわけではない。単に目で見て欲しいという悪癖だった。無理に食べれば、夜中に吐いてしまう。


「違うのにしようか」


 腹に溜まらない飴などで誤魔化すか。別の案を提示すれば、イヴは考え込んだ。


「綿あめがいいわ」


「イヴも!」


 同じのがいい。リリスの声に手を挙げて、自分もと主張する。リリスと微笑み合い、ドワーフの奥方達に挨拶して席を立った。空いた席には、すぐまた別の魔族が呼びこまれる。どの種族も得意な料理や人気がある酒を持ち寄って、派手に振舞うのが習いだ。


 わっと盛り上がる酔っ払いから、あれやこれやと渡され続けた。そのたびに立ち止まり、ルシファーは丁寧に応対する。頂いた物を確認して褒めて、収納へしまった。投げ込むような乱暴な仕草は、相手に失礼になる。大量に受け取った品は、後日魔王城に勤める皆で分けるのが恒例だった。今回も同じだろう。


「ぱっぱ!」


 催促する娘に苦笑いし、リリスへ綿あめの袋を手渡す。頼まれて購入した袋はあと3つあった。次の祭りまで保管する予定だったが、ひとつくらい構わないだろう。リリスが中から取り出した綿あめを、イヴがぱくりと齧る。手や顔をべたべたにしながら、嬉しそうに食べる姿は意外にも魔族に好評だった。


 そういや、リリスの時も飲ませたり食べさせたり、忙しかったっけ。食べることは命に繋がるため、魔族にとって食欲旺盛な子どもは歓迎される。イヴもその例にもれず、串焼きやジュースを大量にもらって大きな声でお礼を言った。


 夜中にベッドで吐いたのは……まあ、致し方ない。当然の結果だった。

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