322.祭りの余興に魔力試し
この世界の大陸は二つ、小さな島がいくつかある。その大陸の地下を龍脈または地脈と呼ばれる、魔力の帯が流れていた。魔王城の地下にも存在するため、それを利用して転移魔法陣を設置している。
地下水のように流れる地脈は、普段滞ることはない。ぐるぐると輪を描くように、回り続けるだけ。途中で消費されても、空中を漂う魔力は魔の森に回収される。森は溜め込んだ魔力を地下へ流した。
循環のバランスが取れた森の働きで、地脈は人々に恩恵を与えてきた。温泉街の火口もその一つだ。常にマグマが湧き上がり、大量の地熱を放出する。これも地脈の流れが真下で交差している影響だった。
その流れが何らかの事情で止まることがある。後ろから流れ込む魔力は止まらず、堰き止められた力が突然爆発するのだ。それを魔力瘤の破裂と呼んだ。
今回発見されたのも、その魔力瘤である。現場に飛んだルシファーは「うわぁ」と声を上げた。鳳凰達が発見した時の、倍近くまで膨れている。いつ破裂してもおかしくなかった。
「先陣を切るのは、魔王の役目だ」
イヴとリリスは置いてきた。安心して遠慮なく力を振るえる。周辺の集落に住む民は、魔王城へ避難させた。誘導をベルゼビュートに任せたので、何も心配していない。取りこぼしはないだろう。
背の翼を6枚広げる。かつては黒く、今は白に変わった翼が夜空を彩った。純白の髪、白い肌、月光を弾く翼……神々しい輝きを放ちながら、ルシファーは足元へ魔法を打ち込んだ。
どん!
派手な音がして大地が揺れる。魔力瘤の一番上に穴を開けたことで、一気に魔力が溢れ出た。ここからが魔力瘤対策となる。己の魔力で瘤の魔力を相殺するのだ。魔力の多いドラゴンや神龍をかき集めたのは、この辺に理由があった。
相殺された魔力は、魔の森に吸収される。再び地脈の循環に戻るため、もっとも有効な方法だった。他には、この魔力を使用する方法がある。地脈の魔力で強大な魔法を撃ちまくるのだ。当然、周囲への被害が大きいので却下された。
魔族の人数が少なく、土地が余っていた頃ならともかく……現在は危険極まりない。家や土地を破壊される民からの苦情を想像するだけで、ぞっとした。
「うぉおおおお! 一番槍は俺が!」
意味の分からない雄叫びを上げた若いドラゴンが、全力でブレスを吐く。一瞬で消えてしまうが、魔力瘤をわずかに消費した。得意げに胸を張った後、ふらふらと落ちていく。
「なんだ、あれは」
「酔っ払いですね」
酔った勢いで飛び出したらしい。魔力をブレスで消費し、酔いが回って落下した仲間を、他のドラゴンが回収していく。この辺は連携が取れていた。ある意味、こういった騒動に慣れているとも言える。ドラゴン種族は、竜族や竜人族、神龍族を問わず、基本的によく似ていた。突っ走り無茶をして、仲間がそれをフォローする。
「いっけぇ!」
派手な声はレライエだ。背にドラゴンの翼を生やした彼女は、胸の前で翡翠竜を抱いていた。号令に呼応する形で、アムドゥスキアスが派手にブレスを放つ。先ほどのドラゴンより長く、強烈だった。瑠璃竜王であるルキフェルに次ぐ、ドラゴンの強者は重ねて別の魔法も放つ。
「もっと! いけ!!」
最愛の妻に激励され、震える翡翠竜が魔力を搾り出す。吐ききったところで、酸欠のように倒れた。といっても妻の胸に埋もれたのだが……ある意味、幸せな失神だった。
「よく頑張ったな」
撫でてもらうアムドゥスキアスは、かなり表面を削った。だがそもそも表に出ているのは、氷山の一角だ。大半はまだ地下にある。
「今回のは大きいな」
うーんと唸るルキフェルが、迷った末に腕を竜化させた。その爪を一振りし、すぱっと瘤を切り裂く。割れた表面から、どろりと魔力が流れ出した。




