表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
318/530

316.子狼、触手に襲われる

 人狼であるゲーデの息子、アミーは隠れ住んできた。ルシファー達に見出されるまで、人里離れた山奥で暮らした。どこの種族、集落にも所属していなかった。だから、アミーはまだお披露目を終えていない。子狼姿で、変化できずに魔獣の子に分類された。


 父と同じ人狼になりたくて、前回は参加しなかった。大公や魔王に勧められ、今回こそと気合を入れて保育園の前に立つ。種族がはっきりしなかったアミーも、昨年ようやく人型に変化できた。お陰で父親ゲーデと同じ、人狼だと判明したのだ。これで種族の復活「先祖返り」が認められた。


 父と祝杯を上げた日、魔王や大公も乱入して大騒ぎになった。懐かしく思いながら、保育園の玄関を潜ろうとして……奇妙な臭いに足を止める。何かいる? 首を傾げたアミーは、好奇心に釣られて近くの茂みに顔を突っ込んだ。しゅるんと細い腕のようなものが巻きつき、身動きできない。


「うぐぅ……」


 首が絞まる。変な声が漏れた。驚きすぎて、体が丸まる。一瞬で狼姿に戻った。形が変わったことにより、拘束から抜け出す。くるんと一回転して、着地した。そのまま全力で走り出す。


「誰かぁ! なんか出たぁ!!」


 叫びながら走る子狼は、目の前に飛び出した巨大なフェンリルにぶつかった。尻餅をついて目を瞬く。灰色魔狼は、小山ほどのサイズを誇るように吠える。その足元に滑り込み、アミーは父を呼んだ。


「お父さん!」


「ん? もしかしてアミーか」


 聞き覚えのある声に続き、ひょいっと顔を覗かせたのはルシファーだった。その横からリリスやイヴも顔を出す。ヤンの上はかなり人口密度が高かった。次々と大公女や子ども達が覗く。騒がしいが、とても頼もしい味方だった。


「どうした?」


「何かいます! 首を絞められて」


 説明する間に、伸びてきた細い腕がアミーを狙う。飛び退いた子狼を追う手が、しゅるりとヤンの前脚に絡みつく。


「我が君、こやつ魔力を吸いますぞ」


 危険だと警告するヤンに頷き、結界で弾いた。強大な魔力を誇る魔王の結界が展開すると、その魔力のおこぼれを期待するようにまとわりついた。ぐるりと囲んで、魔力を吸い出そうとする。


「リリス、イヴを頼む」


「任せて!」


 頼られたと喜ぶリリスだが、この「頼む」に含まれた意味を、両者が取り違えているのは幸いだろうか。ルシファーは「無効化を使わせないでくれ」の意味で使用し、リリスは言葉通りに受け止めた。


 同じ言語を使う夫婦であっても、すれ違いはこうして起きる。抱っこされたイヴは「めっ!」と叫んで手を振り回す。いつもなら無効化が発動するが、リリスが触れているときは別だった。イヴの能力の源は、魔の森だ。孫であるイヴも自由に使うが、娘であるリリスの方が森に近い。


 リリスが「任された」と浮かれている間は、確実にイヴの能力は封じられた。大公女達もただ手を拱いていない。すぐにヤンの背で位置を変えた。幼く不安定な子どもを中央に集め、イポスとアベルが護衛についた。


「こっちは任せろ」


 請け負ったアベルの言葉を信じ、シトリーやレライエがヤンの背から飛び降りた。リリスはイポスの近くに移動する。ルシファーが作った結界は、リリスやイヴを基準に半円形に張られていた。


「私も手伝うわ」


 娘を置いたルーシアも滑り降りる。水の波紋を使った壁を作るルーシアの後ろで、炎を得意とするレライエが攻撃用の火炎を練り上げる。シトリーは風を操って触手に似た腕を切り落とした。


 一度切れてもまた繋がり、ぬるぬると動く腕に「うげぇ」とアベルが嫌悪感を示す。子ども達が真似をして「うげぇ」「げぇ」と繰り返した。


「ちょっと! 変な言葉教えないでくれ、ない、か!」


 練った高温の炎を、数回に分けて投げるレライエに叱られ、アベルは身を竦めた。


「一気に焼き払うか」


 炎による攻撃に怯んだ腕を見て、ルシファーが魔法陣を構築する。発動させて投げようとしたタイミングで、乱入者が現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ