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313.懐かしい思い出がぽろり

「食べ過ぎる癖はどうしたら治るんだ?」


 謁見は無事終わり、自室でイヴの腹を治す。食べすぎ注意と、言葉で伝えても同じことを繰り返すだろう。苦しい思いをしても、治った途端にお菓子に手を伸ばした。まったく懲りていない。まあ食べること自体を嫌いになられても困るのだが、量の調整をどう教えたものか。


 毎回食べ過ぎて苦しそうな娘を見るのは嫌だし、食べ物を取り上げるのも可哀想だ。適量を見極めて食べられるようにするには、何が必要なのか考え込んだ。リリスの時はお腹がいっぱいになると、ぐいと食べ物を押しのけていたが。


 目の前にあるだけ口に入れようとするイヴは、食べ物を制限すると大泣きする。そのくせ食べ過ぎて腹が痛くなり、これまた泣くのだ。自分が子どもの頃、こんな食べ方をした記憶がない。そのため対処方法が分からなかった。困惑する夫の横で、リリスはからりと笑う。


「いいのよ、痛い思いをすればそのうち覚えるわ」


 大らかというか、大雑把というべきか。リリスはあまり気にしていない。妻の回答に気が楽になったルシファーも、明日の準備を始めた。明日は4歳のお祝いを受ける子ども達が保育園へ集まる。親も参加して大々的に我が子の成長を祝うのだ。当時3歳だったリリスも代表になったが、今回もイヴが代表で落ち着いた。


 4歳のお祝いというが、実際のところ年齢は幅があった。10年に一度の即位記念祭で纏めて行うため、すでに9歳になった子もいる。逆に1~2歳だがお祝いしてしまおうと考える親もいた。統計を取ったことはないが、魔族はほぼ全員が通る道だった。2歳前後から10歳前後まで、好きな時期に参加する。


「明日はこれにしよう」


 リリスも好きだった淡いピンクのワンピースを引っ張り出す。前に白いエプロンが付いていて、エプロンのフリルの先が濃桃色だった。この4歳のお披露目では、ドレスは事実上禁止である。幼子が大量に集まれば、想像がつくだろう。


 初めて保育園に通った頃のリリスの再現である。髪を引っ張り、ドレスを破き、気に入らない子を突き飛ばす。魔獣の子も耳を掴まれて悲鳴を上げながら、噛みついて反撃することもあった。親がどんなに言い聞かせても、子どもは感情で動く。


 そのため着飾っての参加は、シンプルな服装が歓迎された。ドレスが勿体ないなどの理由ではなく、危険だからだ。凶器になる装飾品、躓いて転ぶ可能性が高いドレスやマントも禁止。ひたすらに危険を排除した結果、シンプルなワンピースや半ズボンでの参加がスタンダードになった。


 ちなみに、この暗黙のルールが明文化し施行されて以降、幼子の大きなケガはない。牙や爪のある子は、手袋をしたり噛まないよう工夫をして参加する。


「そういや……昔、ヤンの奴が他の魔獣を噛んで大騒ぎになったっけ」


 思い出して呟くと、リリスが目を輝かせた。その事件があってから、魔獣の子は爪や牙にカバーをしたり、噛まないよう魔法陣を使うようになったのだ。そう説明したルシファーへ、リリスは当時の話をせがんだ。


 別にヤンに口止めされていないし、問題ないだろう。単純にそう考えたルシファーは、話す順番を組み立てた。


「あの頃のヤンはまだ2歳前後で、可愛かったぞ。このくらいだったか」


 可愛いと呼ばれるサイズの基準がおかしい。そもそも魔獣は2〜3年で成獣のサイズになるので、外見は大人と同じだった。今ある立派なタテガミ部分が、やや小さかった程度だ。巨大なフェンリルの2歳は牛と変わらなかった。


 ヤンはまだ名前がなく「次のセーレ」と呼ばれる。灰色の毛皮がもこもこした羊のようだった。当時は成長期で太っていたこともあり、魔熊と並んでも遜色ない体格を誇った。


「ヤンが噛んだのは、ハルピュイアの親だった」


 寝物語にちょうどいい。リリスはベッドに横たわり、抱き寄せたイヴと耳を傾ける。彼女らに上掛けをふわりと被せたルシファーは、するりと隣に滑り込んだ。

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