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312.撫でられお菓子を頬張りご機嫌

 串焼きを頬張るイヴだが、見た目は幼い。もぐもぐ咀嚼する姿に、集まった魔族から様々な食べ物が貢がれた。差し入れは柔らかいものが多い。これは魔王や大公のお振舞いと同じで、民から子どもへのプレゼントだった。


 孤児であっても、すぐ養い親が見つかる魔族にとって、子どもは宝である。お祭りとなれば、はしゃぐのは大人も子どもも同じ。晴れやかな気分を盛り上げる、元気な子ども達へ感謝を伝える。いつの間にか根付いた風習だった。


 未来の象徴である子どもへ、過去の遺物となる大人が願いを託す。そんな大層な理由づけもされたが、根本部分は「楽しそうな子どもを見るのが嬉しいから」これに尽きた。


 小さな子は兄や姉について回り、この習慣を楽しむ。ここに種族の差はなく、魔獣の子も元気に走り回っていた。イヴもおこぼれに預かった状況だ。


「可愛いなぁ」


「魔王妃様に似たのね」


 黒髪を見て、若い夫婦が声をかける。それから断って承諾を得ると、イヴの黒髪に触れた手で妻の腹を撫でた。イヴのような子を授かるように、小さな願掛けだ。気づけば、願掛け行列ができていた。大人しく撫でられるイヴは、ご機嫌だった。


「あらぁ、お菓子が被ったわ」


 渡そうとしたお菓子を両手で掴んで食べるイヴに、差し出そうとした老女が苦笑い。すぐに違うお菓子に変更された。


 幼子を撫でた手で妊婦が腹を触ると、元気な子が生まれる。そう伝わる古い話は、実はルシファー自身が発祥だ。まだ魔王位に就く前、素っ裸の子どもの純白の髪を撫でた妊婦が、魔力の多い元気な子を産んだ。その話が大きく膨らんで、習慣化したのだ。今では妊婦だけでなく、子の欲しい女性が触れる形に変化した。


 ちなみに当事者のルシファーは撫でられた記憶はあるものの、産まれた子と面識がない。話が事実なのか、膨らませた幻想なのか。判断がつかなかった。そのためこの話に関しては、ノーコメントを貫いている。


「ぱっぱ」


 食べかけのお菓子を、ぐいと差し出す。受け取って口に入れれば、次のお菓子を頬張るイヴがにこにこと笑顔を振り撒く。


 父にお菓子を分けたのではなく、次のお菓子を食べるために押し付けたのだが……。当然周囲は勘違いした。笑顔だったのが、要因となったようだ。美味しかったお菓子を父に分ける優しい子、そう認識された。さらに行列が長くなる。


「陛下、また目立つことを……?」


 呼びに来たベールが首を傾げる。というのも、行列を見つけてルシファーが原因だと思ったのに、中心はイヴだった。行列の妊婦や若い女性が腹を撫でる姿で、事情を察する。


「お忙しいところ失礼します。陛下、代替わりした貴族の謁見が入りました」


「それは受けねばならんな」


 魔王バージョンで応じる。ここで軽い口調を使えば、ベールにこってり説教される未来が予想できた。多少は学んでいる魔王である。イヴを抱いたリリスは「いってらっしゃい」と手を振った。


「え?」


 一緒に行くんじゃないのか? そんな疑問へリリスは容赦ない一撃を繰り出す。


「私達はもう少し楽しむから、護衛にヤンを寄越してくれたらいいわよ」


 イポスはまだ育児休暇中なので、現時点で護衛にヤンを指名するのは理解できる。森の王者であったフェンリルなら、ほとんどの騒動は切り抜けられるだろう。イヴやリリスに危害を加える魔族もいないと思うが……オレは「行ってもいいよ」と突き放されたのか。


 ショックを受けるルシファーを連れ、一礼したベールは転移する。残されたリリスは、すぐに駆けつけたヤンと祭りを楽しんだ。事前に昼寝を済ませたイヴもご機嫌で、ぽっこりお腹が膨らむほど食べる。


 数時間後、食べ過ぎで状態異常となったイヴを治療するのは、仕事へ追いやられたルシファーだった。

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