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306.だってお腹が空いていたんだもん

 邪龍と呼ばれるアギトは、ひたすらに空腹を満たした。目の前で飛び回るワイバーンを仕留め、コカトリスを齧る。長年の空腹がほぼ満たされたため、昨夜から水浴びを始めた。


 湖の水が濁るほど遊び、満足して寝転がる。日差しが心地よい。やや曇りというのが最高だった。腹を空に向けて晒し、ごろりと寝そべる。この世界でアギトに勝てるのは、両手ほどもいない。強者であるが故の油断だった。


「ぐぁあああ!」


 いきなり腹の上に何かが刺さり、慌てて飛び起きる。きちんと結界も張っていたし、完全に寝入ったりしていなかった。2万年近くも眠ったので、目を閉じて太陽の温もりを感じていただけなのだ。


「おっと、これは失礼しましたね」


「アスタロト、なぜ剣を杖に使うんだ。可哀想だろう」


 アギトは己の腹の上で、剣を突き立てる嫌味な口調の金髪青年を振り落とす。震えが来るほど強くなった純白魔王は、ふわりと浮いて気の毒そうに覗き込んだ。


「悪かったな、アスタロトに言い聞かせておく」


 ぽんぽんと鼻先を叩かれ、体の力を抜いた。かつて戦った魔王は、記憶よりさらに強くなっている。もう絶対に勝てないと悟り、くるりと蛇のようにトグロを巻いた。魔力量が桁違いだ。今戦ったら、確実に殺されてしまう。


「うっ……痛い」


 涙目でアギトは訴えた。無防備な自分に攻撃を加えたアスタロトではなく、圧倒的強者である魔王ルシファーへすり寄る。ここは長いものに巻かれるべきだろう。


 丸まったことで、腹部の傷が痛む。思わず呻いたアギトへ、ルシファーが治癒を使った。ふわりと魔力が流れ込み、体の痛みが消える。ほっと息をついて、傷を確認した。ざっくり切れた傷は、もう毛筋ほども残っていない。


「あ、りがとうございます?」


 とりあえず礼を口にしたものの、途中で「なぜ攻撃された俺が謝るんだ?」と疑問系になった。そんなアギトの鼻先をまだ撫でる魔王は、本題に入った。


「最近、ワイバーンとコカトリスを大量に狩ったのは、アギトで間違いないか?」


「はぁ……腹が減ってたもんで」


 食べましたが? 長い鼻先ごと首を傾げる。鱗がぎしりと音を立てた。


「腹は満ちたのか」


「はぁ……」


 なんでそんなことを? 疑問に疑問が重なり、息が抜けるような返事ばかりだ。ルシファーは困ったように苦笑いし、事情を説明した。要は食べ過ぎたらしい。通常なら食べられた魔物は繁殖して、また食べられる。食物連鎖の仕組みはアギトも知っていた。


 だが2万年の空腹を満たすため、手当たり次第に食べたことで個体数が激減したと聞いて青ざめる。つまり、未来の食糧が枯渇する可能性に思い至ったのだ。


「まあ、お前の復活に合わせて用意していなかったオレが悪いんだが」


 小鼻の部分を指先で掻きながら、ルシファーは相談を持ちかけた。食べ足りないなら別の食料を用意するので、しばらくワイバーンとコカトリスの狩猟をやめて欲しい。丁寧に事情を説明されたので、今後の繁殖期に食べない約束をした。


「にしても、アギトは大人しくなったな」


 にっこり笑って肯定する魔王は、自分の魔力が数倍に増えた自覚がないのか。これほどの強者であるなら、服従するしかないのだが。自覚がないのは昔からか。


「アドキスと一緒だな」


「ええ、そういえば翡翠竜も復活したら大人しくなっていましたね」


 多少騒動は起こしたが、誤差の範囲でした。そう語る吸血鬼王の声に、アギトは首を傾げる。翡翠竜は元々大人しい奴ではなかったか? アムドゥスキアスによる魔王城半壊事件を、封印されていたアギトは知らない。


「そういえば、先日逃げられた小型竜が、緑色だったような……」


「あれがアムドゥスキアスだ」


「え? えぇぇええ?!」


 齧りかけた尻尾の主が、仲が良かった友人だと知り……アギトは驚きで固まった。

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