296.大公女達の装飾品探し
ドレスや衣装の生地が決まれば、次は装飾品や靴などの小物だが……魔王や大公は何度も参加しているので、その辺は新たに用意する必要がなかった。過去に作られた装飾品だけでも、売るほどある。大公女達はそうもいかないので、新しくお飾りを選ぶ予定だった。
ところが制作するスプリガンは、イヴやリリスのお飾りに総動員されてしまった。いろいろ検討した結果、大公達が装飾品を提供する話が浮上する。そもそもが装飾品は男女の区別なく使用できる物が多い。特にルシファー達は外見が整っていることもあり、スプリガンの先祖は気合を入れてお飾りを作った。
シンプルに宝石を固定するだけで構わないはずの指輪は、周囲に花びらに見立てた金細工が巻き付いている。首飾りも金銀の鎖を組み合わせて、レースのように繊細に仕上げられた。装飾品とはこういうものだと認識する彼らは、それを大公女達に提供しようと考えた。
いずれは新品で購入したり製作するだろうが、今回の間に合わせになる。まさか大公女達がお飾りなしで参列するわけに行かず、ついでに夫や子ども達の分も選ばせることにした。
「私が使用しないのはこの辺りでしょうか」
収納空間から古い宝石箱を二つほど引っ張り出したアスタロトの横で、ベールは大きめの箱をひとつ取り出した。ルキフェルは唸りながら、宝石箱を取り出すが……中身は原石が多かった。
「僕の場合、いつも同じ飾りじゃん。それにお揃いで作った飾りは全部、ベールが管理してるから」
持っているのは原石や金貨ばかり。嘆く彼をよそに、ベルゼビュートは何も取り出さずにからりと明るく笑う。
「こんなにあるんだもの、選び放題よ。足りるから心配いらないわ」
「ベルゼビュート、お前は出さなくていいぞ」
ルシファーが注意する。というのも、彼女は大粒の宝石をそのままネックレスや指輪にする傾向が強い。つまり、とんでもない大きさの原石をドンと胸元に飾ったりする。大きすぎて偽物疑惑が出るほど、加工されていなかった。
清楚な雰囲気のルーシアやシトリー、素朴さや親しみやすさが売りのルーサルカとレライエに付けさせたら、百害あって一利なしだ。ここはそこそこの大きさの宝石と、花やレースの繊細な飾りが施された宝飾品が正解だった。
「え? あたくしの宝石も見ごたえありましてよ?」
「あれは肩が凝るからダメだ」
よく分からない理由を付けられたが、意外にもベルゼビュートはすんなり頷いた。彼女も肩が凝るのだろう。しかし女性達の冷たい視線は、女大公の豊満すぎる胸に向かっていた。肩が凝る原因はこちらでは? そんな疑惑をぶるんと揺れる巨乳で蹴散らすベルゼビュート。
「ルシファー様はこれからですか?」
「ああ。そこのテーブルを片付けてくれ。それから椅子も……あ、いっそ謁見の間で広げるか」
「……出す量を加減してくださいね」
なぜ全部出そうとするのか。額を押さえたアスタロトの指摘に、ルシファーは首を傾げてから曖昧に頷いた。これは理解していない。だが説明するより早く、侍従のベリアル達が机を寄せて作った空間へ、大きな宝石箱が現れた。
軽く数えて二桁に乗った辺り。彼にしては加減した方だろう。
「これは全部、加工済みの宝石しか入ってないぞ」
ちゃんと選んで出したんだ。凄いだろう、オレだって考えてるんだぞ。胸を張る20歳前の美青年は、これで実年齢8万年を越える最高権力者だった。とてもそうは見えないが、覆しようのない現実である。
恐る恐る手を伸ばしたレライエが箱を開くと、まばゆいばかりの輝きはなかった。代わりに大量の小箱が詰められている。
「この小箱を開けるのが面倒なんだよな」
「以前整理しましたが、まだこんなに残していたんですね」
呆れたと呟くアスタロトが、魔法で手際よく中身を並べて箱を開封する。手のひら大の緑柱石が埋め込まれたブローチに気づき、ベールが手を伸ばした。
「この緑柱石、どこへ消えたのかと……」
過去に魔王の王冠こと髪飾りに使用するため保管していた宝石だ。消えたと諦めていたら、ブローチになって魔王の宝石箱から発掘された。睨みつけるベールに、ルシファーは笑って誤魔化す。あのブローチ、どうして保管してたんだっけ。もしかして、まだ見つかってはマズイ宝石が入ってるかも。
今さらになって焦るも、察したベールに手早くすべての箱を押さえられてしまった。これから数日間に及ぶ、調査と叱責が始まる……。




