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293.ぐるりと回って元に戻る

 絶滅が危惧される魔物の保護について大公達が話し合うのとほぼ同時刻、ルシファーは布を前に唸っていた。リリスのドレス選びである。イブの生地は特殊なので、試行錯誤するアラクネから時間が欲しい旨の連絡が入った。それでよい生地が作れるなら、待つことなど大歓迎だ。


「私はこれか、それがいいわ」


 本人はあっさりと色で判断する。くすみが入った落ち着いたピンクか、明るい華やかなピンク。どちらも悪くない。両方の生地をリリスの左肩と右肩に掛けて、ルシファーは迷宮に陥った。どちらも似合うのだ。ゆえにどちらも選べない。


 その脇では、大公女達がきゃっきゃ言いながら生地選びを始めていた。彼女達は4人でお揃いのドレスを作るらしい。以前に制服として作ったグレーを避けて、今回は別の色にするのだとか。今後は育児も終わったことで、公式行事への参加が増える。大公女として揃えたドレスも必要になる筈だった。


 これらの費用は個人的なドレスの注文ではないため、魔王城が管理する大公女宛の予算から支出される。お飾りや靴も一緒に注文する予定だった。


「リリス様はピンク確定ですよね」


 確認するルーサルカに、大きく頷く魔王妃リリス。そこに迷いはなかった。黒髪とピンクは相性がいい上、彼女自身が幼い頃から好きで身に着けてきた。魔族の中には「ピンク=リリス妃」と認識する者が出るほどだ。お陰でピンクは確定なのだが、色が千差万別……生地の種類によっても変化するので難しかった。


「私はこれかこれがいいの」


 得意げに同じ色を指さすリリスに、ルーシアが首を傾げた。


「リリス様なら、こちらのお色も似合いますよ」


 明るすぎるピンクやくすんだ感じより、淡くて柔らかな色がいい。彼女はそう感じたようだ。隣のレライエは、別の色を指さした。


「いつもと雰囲気を変えて、赤紫に近い色はどうでしょう」


「それだとベルゼビュート大公閣下と被るんじゃないかしら」


 シトリーが心配そうに口を挟む。こうなると全員参加で、大騒ぎになった。悩む魔王は、いつの間にやら蚊帳の外である。


「紫はベルゼ姉さんが好きそうよね」


「ワインレッドもお好きみたいですわ」


 リリスとルーシアは、赤紫系は反対のようだ。となれば、いっそ全く違う色はどうかとルーサルカが提案した。


「リリス様でしたら、黄色や緑もお似合いです」


「黒髪ですから、色の淡い方が映えるのではありませんか」


 シトリーが参戦し、あれこれとハンカチサイズの布を持ち寄って、リリスに当てていく。鏡の前で「うーん」と考えるリリスは、やはりピンクを指差した。


「どうしてもピンクに目がいくのよ」


「イメージカラーですから、ピンクで選びましょうか」


 女性の買い物は散々飛び火した挙句、最初に選んだ服に戻ることも少なくない。典型的な彼女達の会話に、途中で気づいたルシファーが苦笑いした。悩みに没頭する間に、全く違う話が生まれて消えていた。


「ルシファーはどのピンクがいい?」


「左端から2番目の、そう、その艶があるピンクは可愛いと思うぞ」


 じっと見つめて、その布を持ち上げたルーサルカに肩へ掛けてもらった。くすんだピンクでもなく、華やかなピンクでもない。薄い桃色で、艶がある絹は不思議な色気があった。


「うん。これにするわ。ルシファーが私のために選んでくれたんだもの」


 嬉しそうに笑う妻の頬にキスをして、ルシファーはほっとした表情になった。彼女のドレスが決まれば、次は靴とお飾りだ。イヴの準備は、ドレスの布が決まるまで止まっているはず。お飾り職人のスプリガンと靴職人のケットシーを呼ぶよう指示した。そして彼はまた忘れている。自分の装いの手配を……。

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