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273.姫様は水中散歩をしてみたい

「ぱっぱ! イブもぉ」


 幼子が自分の名前を「私」の一人称代わりに使う光景、よく見るが我が子となれば愛おしい。やがて私と呼称し始めるだけに、期間限定の名前は可愛かった。ヴが発音できなくて、ブになっているのも悶えるほど可愛い。我が子に関することはリリスの時もそうだが、すべて「可愛い」で集約された。


「可愛いぃ」


「ルシファー、イヴは泳ぎたいみたいよ」


 リリスに促され、黒衣のまま迷子紐ごと湖へ近づく。ここに水着などと言う洒落た文化はない。薄手の服で泳いで、魔法で乾かす。または結界で周囲を包んで濡れずに水中を堪能するのが、魔族の習わしだった。いつも通りリリスと腕を組んで、魔獣の間を抜けた魔王はイヴを招き寄せる。


「水に入るぞ」


「あい!」


 気合を入れた敬礼を送られ、微笑ましい気分で軽い敬礼を返した。大喜びのイヴを肩に掴まらせて結界で包む。大きめの風船にしたので、水中に移動しても空中と変わらない。濡れずに楽しむ彼らだが、イヴは何か不満らしく「ぶぅ」と頬を膨らませて唸った。


「どうした?」


「ちぁう!!」


 違うのだと訴えられ、うーんと考えてみる。リリスの時もそうだが、幼子は結論をいきなり突き付ける。大抵はその直前に原因があるため、僅かな時間だけ記憶を遡れば解決可能だった。水に入る前はご機嫌だったが、入ったら不満。結界の大きさか?


 水に入るなら出来るだけ体に沿わせた方が安全なのだが、イヴは簡単に魔力無効化を行使する。うっかりすると溺れてしまうのだ。まあ、すぐに転移すればいいだけなのだが……。


「二重に張ってみるか」


 安全対策を万全にしたい父親の隣で、母親は別の解決方法を試していた。二人とも同じ結論に至っていたのだ。


「イヴ、この中で結界をぽいしたら溺れるのよ。息が出来なくて苦しいの。特に私達は死ねないから、余計に苦しいわ」


 そこまで苦しさを強調しなくてもいいと思うが、リリスは大まじめだった。


「だから結界に触らない。約束できる?」


「あい!」


 また敬礼付きで母リリスに承諾を伝える。イヴのマイブームらしい。しばらくしたら飽きるので、無理にやめさせるより好きにさせた方がいいだろう。ルシファーは新しい結界を内側に張り巡らせた。体に沿うよう薄く距離の近い結界は、リリスに出会う前のルシファーが普段使いにしていた。


 リリスが突然抱き着いたり、外へ身をのけ反ったりするので改良した。幼いリリスが結界と親和性を高めてすり抜けたので、最終的に大きめの結界でカバーするようになった経緯がある。過去に毎日当たり前のように張っていた結界なので、一瞬で構築できた。


 その周囲に二枚目、三枚目と張っていき、五枚目で満足した。これなら危険度は少ないはず。


「イヴ、外の大きい結界を消すぞ」


「あい」


 わざと指をパチンと鳴らして合図し、結界を消した。薄く張った結界の隙間は認識できないため、肌に触れる直前まで水が来たように感じる。


「ひゃああ」


 悲鳴に似た声を上げて興奮したイヴが、水の中を泳ぐように迷子紐いっぱいの距離で水中に手を伸ばす。言い聞かせて理解する年齢になったのか、結界を無効化はしなかった。魔力を使わない認識で理解しているのかも知れない。


 保育園でも自覚して無効化を活用したイヴを思い出し、ルシファーは成長にこっそり涙した。何を言っても理解しない時期の記憶が強いので、余計に嬉しい。イヴに手を振ると、彼女は大喜びで手を振った。その際に結界を一枚割ったが、まあその程度は愛嬌だろう。自動で五枚を維持するよう魔法陣を変更し、ルシファーは家族での水中散歩を楽しんだ。

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[一言] 楽しそうで何よりです。
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