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251.そっくり同じ道を歩む親子

 イヴは今日も元気に、隣のゴルティーの尻尾を噛んだ。最近歯が生えてきて痒いのだ。ちょうどいいところに弾力のある尻尾が転がっていたら、つい噛んでしまうだろう。それも、ヤンのように毛皮に覆われていないので、口の中がイガイガしない。


「んぐんぐ」


「うぎゃあああぁ!」


 父アムドゥスキアスに似たのか、ゴルティーは抵抗せず泣き出した。大泣きする我が子に、レライエが苦笑いして尻尾を取り返す。不満そうにしながらも、イヴは大人しく離した。なぜゴルティーが泣いているのか分からない様子に、リリスが溜め息をつく。


 自分も通った道なのだが、当然ながらリリス自身は覚えていなかった。過去に「白い悪魔」と呼ばれる噛みつき魔が現れ、すぐに犯人が特定された事件がある。純白の髪を靡かせる魔王に抱かれた幼女リリス、非道にも狼獣人は耳を噛まれて引きこもり、吸血鬼の娘は髪を引き抜かれて怯え、尻尾の毛を千切られた兎獣人もいた。


 あの事件より被害者は少ないが、これから被害が拡大する恐れがあった。あの頃のリリスはもう歯が生え替わった後だが、イヴはこれから生えてくる。


「噛んではダメよ。この子の齧る物があればいいのよね」


 叱ったものの、歯が痒いのは仕方ない。他の種族では木製の玩具を齧らせる場合もあるらしいが、牙ではないので難しかった。乳歯と言えど、折れたらルシファーが泣く。


「ゴムの玩具とか」


 アンナが提案するが、ゴムが何か分からない。あれこれ話を聞いた結果、樹液から採れるらしいと判明した。ここから先はリリスが母リリンに尋ねるのが早い。異世界のゴムの特徴を良く聞いたが、彼女は理解しきれなかった。


 伸びる樹液……伸びる? でも切れないのよね。手を離せば縮む。あれこれ悩みながら、リリスは我が子を抱き上げた。


「やぁ!」


「ダメよ。ゴルティーを噛んではいけないの。泣いちゃったでしょう」


 言い聞かされ、ダメと言われたイヴは考えた。目の前の柵の中には、まだ別の子がいる。ジルでもアイカでもいいじゃない。そう結論付けて頷く。


「ゴルティーを噛まない、約束できる?」


 勢いよく頷く我が子に微笑んで、いい子ねと褒めながら柵の中に戻した。幼いうちは親がしっかり保護するのは、魔族にとって当然だ。空を飛べる種族では、腹にベルトを巻いて紐で固定することもある。幸いにしてイヴはまだ飛ばないので、拘束しなくて済む。彼女は柵の内側を勢いよく這った。


 ロックオンしたターゲットに、勢いよく噛み付く。


「うわぁああ!」


「いたぁい!」


 あちこちで悲鳴が上がり、泣き声が響き渡る。リリスは慌ててイヴを捕まえ、ぺちんとお尻を叩いた。それから齧った口をぎゅっと指で摘まむ。痛がって顔を振る我が子に、言い聞かせた。


「噛まない約束でしょ!」


「ぶぅ、ちゃう」


 不満を示しながら、この子達はゴルティーではないと抗議した。違う生き物を噛んだのだから、叱られる理由はない。幼いなりに妙な知恵が回る。それもこれも、両親から受け継いだ悪知恵だった。


「やだわ、誰に似たのかしら。悪い子ね」


 誰も言葉に出さないが、間違いなくリリスとルシファーの子で間違いない。外見ではなく、中身もそっくりだった。遺伝の見事さに感心するレライエの腕の中で、ゴルティーがばたばたと暴れる。ぐいと身を乗り出し、届く距離にいるイヴの立派なぷよぷよ足に噛み付いた。


「うぅ!」


 抗議の声を上げるゴルティーが、イヴに蹴飛ばされる。


「うゎああああああ! ぱっぱ、ぱっぱぁ!!」


 大泣きするイヴに召喚され、顔を見せたルシファーは溜め息を吐いた。先ほどから覗き見していたので、状況は知っている。ここで抱き上げて慰めたり、傷を癒やしたら、また同じことをするだろう。


 視線の先で同じ結論に至ったリリスも頷く。傷の横をぺちんと叩いた。


「だから言ったじゃない。他の子を齧ったらダメよ。自分も齧ったんだから、少しくらい噛みつかれても我慢しなさい」


 まさにブーメランな正論だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] イヴ姫が、 1・素直に噛むのを止める。 2・甘噛みを覚えて甘噛み魔に。 3・「白い悪魔」再び。 4・噛む相手を限定する、ぱっぱ(ルシファー閣下)なら噛み放題。
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