246.この子、なんの種族かしら
二週間なんて、あっという間だ。浜辺の赤子回収部隊が機能し始めたと連絡が入った。生まれた子の半数近くは、人魚ではなかったらしい。残念そうに我が子を浜辺に置く母親の姿が目撃された。
彼女らへの聴取の結果、過去に生んだ子はほとんど人魚だったと判明する。その理由が、なんとも複雑な感情を齎した。というのも、誕生当初の人魚は人族によく似た姿をしており、両足とも人の足だという。そして浜辺に魔族は寄り付かなかった。
数万年ほどかけて、人魚は人族との交配を繰り返した。繁殖期になれば、歌うだけで人族の男が寄ってくる。何ら苦労せず子を成し、生まれた子の生存率は7割ほど。つまり赤子の3割は人族の子として生まれ、海の中で溺死した可能性が高い。
人魚達は「稀に呼吸のうまく出来ない子が生まれる」と認識していた。残酷なようだが、現実をきっちり教えておく必要がある。今後も他種族の雄と交わるなら、生まれる子が人魚でない可能性があった。陸では魔族の子は、種族関係なく保護される。その話をしっかり聞かせた。
人魚以外の子が生まれたら、陸の魔族に預けること。海王として人魚に命じたルシファーは、過去に失われただろう罪なき子を思って溜め息を吐いた。無知は罪だ。しかし、彼女らは自分達で育てようと必死に頑張った。呼吸の下手な子を交代で抱きながら海上で過ごしたり、岩場で育てようとしたり。
残念ながら実らなかった成果だが、一方的に人魚を責めることは出来ない。今後に生かすよう言い聞かせ、項垂れる彼女達から赤子を預かった。明らかに姿の違う幻獣や魔獣の子もいれば、見た目は人魚に似ているが鰓呼吸の出来ない子もいる。
「きちんと育てるから、何も心配しなくていい。子に会いたくなったら連絡してくれ。可能な範囲で叶えるようにする」
育児の様子も連絡すると約束し、合計で13人の赤子を受け取った。残りは人魚であるため、海で育てることが可能だ。
「思ったより少なかったね」
手が足りないので、ルキフェルも赤子を抱えた。魔王軍のドラゴンも含め、皆が赤子を連れて転移していく。それぞれの父親に預け、分からない子は種族ごとに分類して育てられるのだ。最後まで見送る人魚達に頷き、ルシファーも城門前へ飛んだ。
「この子を頼む」
駆け寄ったエルフに赤子を預ける。ペガサスの子のようで、小さな翼が付いた仔馬だった。エルフが中庭へ下ろすと、元気よく駆け回る。すぐに父親が迎えに来て、挨拶してから子どもと鼻を合わせて挨拶しあった。まだ飛べぬ子を背に放り投げ、ペガサスは空路で帰宅する。
「咥えて放り投げる技術は見事だが……空で赤子を落としたりしないだろうな」
心配になって呟くと、聞き咎めたベールがあっさり心配を払拭した。
「問題ありません。赤子でも飛べますが、遅いので乗せて帰ったのでしょう」
「ああ、なるほど」
それなら落下してすぐケガをする心配もない。妖精達もふわりと現れて、半透明の子を連れて消えた。巨人族は転移魔法陣を使わずにこちらに向かっているらしく、途中までドラゴンが運搬する。森の中で親子対面になるだろう。
「ほとんど渡し終わったか」
「この子、なんの種族かしら」
様子を見に来た大公女ルーシアが、不思議そうに一人の子を見つめる。迎えに来た親は見当たらず、そもそも外見に特徴がなかった。魔力を計測するが、ほとんど感じられない。
「これって、人族?」
「でも牙が凄いわよ」
魔獣かと思うほど鋭い爪と牙を持つが、毛皮や鱗を持たないつるんとした肌。奇妙な子に、ルーサルカやレライエも首を傾げた。




