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245.海も管理するのは厳しい

「僕が思うにさ、海の生物は海で繁殖してもらった方が良くないかな」


 あれこれと調査結果を纏めたルキフェルは、渋い顔で切り出した。海と陸は生活スタイルが違い過ぎる。繁殖期がある種族は陸にもいるけれど、繁殖期以外の時期も一緒に暮らす習性があった。その点、種だけ貰えば夫は不要と切り捨てる人魚は、あまりに異質だ。


 説明されて理解した気になった若者の中に、人魚に焦がれて会いたいと海へ飛び込む者が出た。それゆえの溜め息だ。今後の対策を考えたものの、よいアイディアが浮かばなかった。人魚を水槽に入れて暮らすわけにいかないし、陸の魔族が海底で生活するのも無理がある。


 様々な懸念に、アスタロトも真剣に考え込んだ。海の生き物だからと完全に切り離せば、統治が行き届かなくなる。うっかり海王を倒してしまったルシファーが魔王と兼任中だが、誰かに役割を分割する案を検討する必要があった。


 見たことも聞いたこともない種族や習性は、今後も次々と現れる。これは予想ではなく、すでに現実問題だ。となれば、ルシファーの負担が大きくなる。パンクする前に手を打つのがアスタロトの流儀だった。


「新しい海王を選出しましょう」


「戦わせるのか?」


「強い必要はありません。責任感があり、周囲に目の行き届く者なら務まるでしょう。武力は我々が担当すればいいのです」


 過去の海王は、魔王ルシファーと同じく強いことが条件だった。それが途中から面倒な役割だと投げ出す者が続出し、気づいたら巨大イカが海王を名乗っている。誰も咎めなかったが……選ぶ基準や方法が難しい。あれこれとアイディアを出し合ったが、ここで結論は出なかった。


 それぞれに持ち帰ることになり、この場に参加しなかった幹部へも通達が出される。ベールやベルゼビュート、大公女達にも意見を出してくれるよう頼んだ。今日できることはここまでか。そう判断した3人は解散し、ルシファーはリリスの元へ向かう。


「パパですよぉ」


「ぱっぱ!」


 両手を伸ばすイヴを受け取り、頬ずりして額へキスをする。甘やかす姿に、リリスがむっと唇を尖らせた。


「私は?」


「可愛い奥様、失礼いたしました。オレが順番を間違えたな」


 自分のミスだと言って、リリスの頬や額にキスを降らせる。最後に唇をそっと重ねた。嬉しそうに頬を緩めるリリスと腕を組み、頭によじ登ろうとするイヴを肩に乗せて歩き出した。夕方から庭の散歩を予定に入れていたのだ。


「人魚なんだけど」


「うん?」


「子どもが生まれるのって、1ヵ月後よね」


 聞いた話では1ヵ月程で出産らしい。繁殖期が終わってまだ2週間だが、あと2週間で生まれる計算だ。陸の魔族では考えられないほど早かった。


「回収部隊を出すって聞いたけど」


「ああ。万が一を考えて巡回数を増やしてもらう。生まれた子が人魚ではなく、陸の魔族だった場合は浜辺へ返してくれるよう頼んであるそうだ」


 その辺の細かな采配はアスタロトが行った。さらに重ねてベールがしっかり釘を刺したと聞く。魔王軍の主力であるドラゴン達は、番という慣習があるため、人魚とのかかわりを嫌っていた。だが、繁殖期が終われば、魅了されることもない。


 赤子の回収は迅速さと丁寧さが同時に求められるため、子育て経験者を中心に編成された。未婚であっても、親戚の子を育てた経験が2年以上あれば参加可能だ。既婚者もほぼ同様の条件が付けられた。我が子がいても、育児経験のない父親は参加できない。


 準備を万端に整えたと説明するルシファーに、リリスはほっとした顔で笑った。


「よかったわ。生まれてくる子は全員無事に育って欲しいもの」


「当然だ、守るのは王の務めだからな」


 エルフが丹精した噴水周りの花を観賞しながら、親子は散歩を続ける。肩の幼子は、指を咥えて夢の中だった。

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