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233.戦艦の内部調査が始まった

 イザヤの簡潔明瞭な説明により、ようやく戦艦が魔王達に伝わった。いわゆる武器のように、戦うことだけに特化した船と理解する。魔族にとって船は、人族が使う道具でしかなかった。


 泳ぐことに長けた種族は船を利用しないし、泳げない種族は水に近寄らない。そもそもが、船自体を活用する意識がなかった。ルシファーで例えるなら、水に特化した種族ではないため水掻きがない。しかし水の中で結界を使って呼吸が可能であり、移動も問題なかった。泳ぐ必要も船に乗る理由もない。


 魔族全般にこの理論が適用されるため、船は人族のみが使う道具と認識されてきた。魔族にとって水軍とは、水に強い神龍や精霊達、湿地ならリザードマンなどが含まれる。水の底に棲む魚系の魔物もいるため、水軍に近い概念は存在していた。


 あくまでも「水に強い魔王軍」という程度だが。そんな彼らにとって、今回の船は目から鱗もいいところ。初めて見る戦いに特化した船に、興味津々だった。


「これ、いつ作ったんだろう」


 好奇心から呟くルキフェルは、木製ではなく金属の船底に触れて年代測定を始める。隣でベールが首を傾げた。


「このような船と戦った記憶はありません」


「私の記憶にもないので、海の種族と戦ったのでしょうか」


 アスタロトも参加し、この船について意見交換が始まった。呼ばれたイザヤも興味が湧いたらしく、ぐるりと船の周りを歩く。アベルは興奮して、船底の穴から中を覗き込んで「すげぇ」を連発した。


「アベル、船が傾いたら首が折れるぞ」


 もっともな注意を口にしたルシファーだが、危険がないよう魔法で固定済みだ。それを知らないアベルは「うわっ、早く言ってくださいよ」と首を引っ込めた。盛り上がる魔族は、空を飛んで甲板部分に舞い降りる者も現れる。


「陛下、中に入れそうです」


「おう、気をつけて入れよ」


 サタナキア将軍率いる数人の集団が、甲板の穴から侵入した。ルシファーの許可を得た彼らは、頑丈な種族が選ばれている。鱗を持つドラゴンや神龍、崩れた岩盤の下からでも脱出できるドワーフ、結界を張って己を守る吸血種だった。吸血種はストラスが選ばれ、意気揚々と記録水晶片手に入る。


 精神的な呪縛や罠があった場合、吸血種が一番敏感に反応する。その意味で選出されたストラスは、先頭を歩いた。トラップに引っかかっても状態異常回復能力が高く、煙やコウモリになって逃げ出すことが可能な吸血種はこういった作業に最適だった。


 羨ましそうに外から眺めるルシファーだが、一番最初に乗り込みそうな彼が留まった理由はひとつ。隣でわくわくしている妻リリスだった。もしルシファーが行くと口にしたら、リリスも当然の如く付いてくる。その際、我が子を置いていくわけに行かない。魔王親子が入れば、大公が護衛に付く。外で監督する者がいなくなってしまうのだ。


 初めて遭遇した戦艦である。危険度が分からないのに、ルシファーが動けば魔王軍の面目も潰れるとあって、大人しく見守る役に落ち着いた。


「ルシファー、後で見に行きましょうね」


「ああ。危険がないと分かれば、すぐにでも見に行こう」


 約束を交わし、わくわくしながら魔王夫妻は戦艦を眺める。その隣で、スケッチを終えたルキフェルが声を上げた。


「じゃ、サタナキアに合流するから」


「「ずるい(わ)」」


 ルシファーとリリスが同時に叫んだが、ウィンクを残してルキフェルは内部へ飛んだ。一瞬で消えた彼が残したスケッチを拾い上げ、ベールが収納へしまう。


「そのスケッチ、後で資料に使うからな」


 念押しするようにルシファーがベールに釘を刺した。一瞬苦い顔をしたベールに、魔王は舌打ちする。


「ちっ、またコレクションする気だったか」


 過去にもルキフェル直筆の報告書を隠匿したベールは、何食わぬ顔で否定した。


「陛下、そのような舌打ちは品性を疑われますよ」


 コレクションの有無から話を逸らす辺り、やはり持ち去るつもりだったらしい。睨み合う二人の間で、リリスはぱちくりと目を瞬いた。複製したらダメなのかしら。今度提案してみましょう。

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