表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第13章 海は新たな楽園か

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

221/530

219.フェンリルの背に乗って崖下り

 火の精霊は頼まれた仕事に一直線だ。周りを燃やさず、灰色魔狼を追いかける。簡単そうで難しい役目を完璧にこなしていた。ひらひらと舞いながら、下を走り抜ける高速のフェンリルに近づく。普段なら絶対にない考えが浮かんだ。ついていくだけでいいのなら、乗って行けば確実では?


 ある意味、真理を突いている。火の精霊だから触れたら燃えるなんて効果はない。精霊自身が望まなければ、やや体温が高い空気程度の存在だった。もそもそと首元の毛皮に潜り込む。ここと尻尾が一番毛足が長くて侵入しやすいが、尻尾は揺れるので首元を選んだ。


 マフラーのようにふわふわの毛皮に包まれ、フェンリルに乗る。なんとも贅沢な経験に、精霊は大興奮だった。見失う心配がなく命令を果たせる。これなら女王様も大喜びだろう。頭のいい自分を褒めながら、フェンリルの毛皮で寛ぐ。


「きゃっ!」


 火の精霊の上にベルゼビュートが出現し、取り繕う間もなくフェンリルに跨ってしまった。転移先を火の精霊に指定したため、まさにジャストフィットである。突然背中に生き物が飛び乗れば、足を止めて振り払おうとするのが普通の反応だ。しかしヤンは振り返りもしなかった。


 夢中になって走る彼は、背中に乗ったベルゼビュートをそのままに駆ける。当然首に跨る者の安全など考えていないので、慌てたベルゼビュートは勢い良く伏せた。ずりずりと位置を後ろに下げ、ヤンの首に手を回して抱き着く。背中にべったりと全身で張り付いた形だった。


「これなら木の枝も大丈夫ね」


 精霊女王であるベルゼビュートが近づけば、魔の森の木々も道を譲ってくれる。足元の草も左右に割れて通すのが当たり前だった。だがこの高速で駆け抜けるフェンリルの背は、木々が避けるのも間に合わない。己が通り抜けられるギリギリを抜ける獣の背は、うっかり頭を上げたら枝に払い落される未来が待っていた。


 落ち着くまでこのまま張り付いているしかない。平らになろうとするが豊満な胸が邪魔で、あれこれと試行錯誤した。ヤンが本来の大きさに戻っていたのが幸いだ。そうでなければとっくに落とされただろう。耳や頭も大きくなったヤンのお陰で、かろうじてベルゼビュートも隠れる。


「うっ……なんでこんなことに」


 火の精霊が悪いわけではないので、叱るのも大人げない。彼は心配そうにベルゼビュートに近づいて頬にすり寄った。悪いことをした気がする。そんな表情だが、具体的に何がマズイのか理解していない。幼子を突然怒鳴りつけるのと一緒で、気が咎めてしまった。八つ当たりは出来ないわね。


「ご苦労さま。とても助かったわ」


 一生懸命、この子なりに考えてくれたのは伝わった。だからお礼を言って頬をすり寄せる。嬉しそうな火の精霊がほわりと笑った。


「ひっ! ひぃいいいいいいい!」


 直後、ヤンは崖からジャンプした。巨体は躊躇なく宙を舞う。後から考えれば、この時に手を放して空に浮けばよかったのだが、反射的にベルゼビュートはしがみ付いていた。自分で飛び降りるなら高さは気にならないが、他者任せの落下は恐怖しかない。


 悲鳴を上げながら落ちていくが、ヤンは耳元で騒がれても一切反応しなかった。軽やかに着地してからその異常性に気づき、涙目になりながらもルゼビュートは首を傾げる。まあ、今振り返って女大公の涙を見てしまったら、抹殺するけどね。


 怖ろしいことを考える彼女の鼻を潮の香りが擽る。顔を上げた先はもう低木しかなく……海が広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ