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216.海から何か歌声が聞こえる

「失礼いたします、我が君」


 ふわりと空中に現れたベールが、容赦なく養い子の首に手刀を打ち込んだ。ぐらりと倒れるルキフェルを大切そうに抱き上げる。いざとなれば吹き飛ばす気だったルシファーは、溜めた魔力をそっと散らした。イヴが腕にいるので、力づくで争うことを避けたのだ。


 魔法で吹き飛ばすなら、瑠璃竜王の称号を持ち魔力に耐性のあるルキフェルを気絶させなければならない。かなりの量を叩きつけることになるので、躊躇したのが本音だった。万が一にも鱗が剥がれるほどのケガをさせたら、目の前にいる銀髪のベールが怒り狂うはずだ。


 事情があったからと許してもらえる気がしなかった。以前もそうだったから。


「ルキフェルはどうした? 操られたか」


「いえ。魅入られたと表現するのが近いと思います。海から何か歌声が聞こえると呟いていましたので……」


 おそらく、たぶん、きっと。何らかの魔力を乗せた呪歌のようなものだろう。地上にもハルピュイアの一族に幻歌を扱う者がいた。ほんの一部だが、危険なので歌う場所を限定している。海にも似た種族がいる可能性は高かった。


「調査する必要があるな」


「問題は大公であるルキフェルまで魅了したことでしょう」


「その通りだ」


 下手に調査部隊を派遣しても、魅了されて帰ってくる……いや、下手すると帰ってこないのか。想像したら背筋がぞくりと寒くなった。ぐったりと眠り続けるイヴが「あぶぅ」と妙な声を上げて目を開く。大きな銀色の瞳がぱちくりと瞬き、父ルシファーを映し出した。


「ぱっぱ! あっち」


 注意を引くように指さした先は、大海原だ。何もいない気がするのに、イヴは頑なに一点を指し示した。もしかしたら歌声が聞こえる条件に、イヴも該当しているのか。思い至った可能性を口にするルシファーと、様々な危険要素を上げ連ねて反対するベール。


 勝者はベールだった。今回はひとまず引くことにする。ルーシアのお陰で大きな被害はなく、数匹の魔獣が巻き込まれた程度で済んだ。その功績者が魔力切れを起こしていると聞き、多くの魔獣や魔族が魔力の提供を申し出ている。


 この状況で魔王が城を不在に出来なかった。空中に浮いていた彼らは砂浜に降り立つと、それぞれに転移魔法陣を展開する。ベルゼビュートに先に戻ると連絡し、彼らは一足先に城門へ飛んだ。


「ルシファー、心配したのよ。シアが大変だったと聞いて、すぐに帰ってきたわ」


 城門前には妻リリスが戻っており、母親である魔の森リリンから預かった宝玉を手にしていた。渡された宝玉は透明で、中に青白い炎のような物が揺らめく。幻想的な宝玉を預かり、ルシファーはリリスを抱き締めた。その間、愛娘イヴは空中待機だ。


 愛する娘だが、やはり妻の方に愛情が偏る魔王ルシファーである。まずはリリスの安全を確かめ、愛を交わしてキスを終えてから娘の番だった。揺るがない愛情に満足したリリスが、空中にいるイヴを招き寄せる。


「まま、ぱっぱ」


 どうしてなのか。パパではなくぱっぱになるイヴは、ご機嫌で両手を伸ばした。小さな手を握るルシファーに大喜びで手を振り回す。


「今回の騒動、おそらくは海に新しい王が生まれたのだと思うわ」


「新しい王?」


「ええ。お母様はその兆候を感じて私を呼んだみたいなの。話している間に海が溢れたと聞いて、慌てて城に戻ったのよ」


 早朝から用事があると出かけた理由が判明し、ルシファーの表情が柔らかくなる。魔の森リリンに会いに行ったと分かっていても、相談されなかったのが不満なのだ。話してもらえて気分がすっきりしたらしい。


「次は事前に相談してくれ」


「わかったわ。でもお母様ったら、イヴに会いたいだけでも呼び出すし。先に理由を教えてくれないのよね」


 困っちゃう。そんな口調で嘆くリリスと城門の中に入れば、休暇を楽しむ大公女だけでなく、貴族も大勢駆け付けていた。

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