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197.緊急事態以外は呼ぶなよ

 作られた透明の壁改め水色の壁は、効果が高い。照れた姿を見られたアスタロトの八つ当たり攻撃が、後ろで遊ぶ子ども達に当たらなかったのだから。かなり優秀だった。今後のために量産を検討したいが、材料の一部が特殊だった。


 タコは海で捕獲するとして、人狼の爪はどうしたもんか。ゲーテにとって重要な武器なので、提供を義務付けるわけにもいかない。鱗粉はベルゼビュート以外にも精霊の数がいるので、継続的な入手は可能だと思われた。鳳凰の尾羽も抜け替わる羽根を買い取れば、なんとかなる。


 ワイバーンはとにかく繁殖力が旺盛で個体数が多いので、間引くたびに羽を回収すればいい。やはり問題点は人狼だった。希少種である上、息子のアミーもある日突然人狼の特徴が出て人化したのだ。今後も増える可能性はあるが、2人の爪に頼るのは心許ない。今後を考えれば、継続供給できる材料と置き換える必要があった。


 その辺を手短に報告書として仕上げ、研究予算も提示する。書き上げた書類に満足したルシファーは、それをアスタロトへ戻した。申請書として受理されれば、今後の研究次第でこの壁が利用可能になる。学校や保育園の壁に使えば、破損修復の予算が大幅に削減できた。


 透明のまま使わなくてもいいなら、現在ある壁の内側に追加施工も可能だ。夢が広がる建材の発見は、ドワーフに褒美を与える理由にもなった。アスタロトはさっと目を通し、問題なしと承認の印を押す。


 通常のルートと逆だ。申請書は文官達の手を経て不備がないか確認されて、アスタロトに上がる。彼やベールが審議して、魔王の裁可が降りるのが一般的なルートだった。魔王から降りた申請書は、文官のトップであるアスタロトの承認を経て受理となる。


「ところで、イヴ様はどうなさいました」


「うん。今日は遊びに行くそうだ」


 リリスが遊びに行くので連れていくのだが、同じ意味なので説明を省いた。護衛にヤンとイポスを付けたので、全く心配はしていない。追跡と異常検知の魔法陣を重ね掛けしておいたからな。一緒に遊びに行きたかったが、アスタロトもいないのに休めないと執務室に赴いた。


 もしアスタロトが休日を返上すると知っていたら、絶対にこの部屋に来なかったのに。アベルの勇者過ぎる発言の被害を被った魔王は、唸りながら目の前の書類を片付けた。こうなったら一秒でも早く終わらせて、リリスに合流したい。


 積まれた書類をすべて片付け、分類してペンと印章を片付ける。鍵をかけて、隣の部屋で遊ぶ子ども達をアスタロトに託した。


「緊急事態以外は呼ぶなよ」


「承知しました」


 珍しく素直なアスタロトだが、彼とて悪魔ではない。魔王としての責務を果たしたルシファーを引き留める気はなかった。見送って、子ども達の様子を窺う。特に騒動は起きていないし、ケンカもなく遊んでいるようだ。安心して、手元の書類に取り掛かった。


 一方、中庭からリリスのいる地点へ飛んだルシファーは、巨木に半分ほどめり込んだ形で固まった。結界があるので潰されたり呼吸困難にならないのが救いだ。安全な隣に転移し直し、巨木を見上げた。見覚えがある大きな木は、まるで世界樹のようだ。もちろん、世界樹ではない。


「里帰りだったのか」


 呟いたルシファーは、今度は礼儀正しく声をかけることにした。優しく木の皮を撫でて魔力を注ぎ込む。リリス達がいるなら会わせてくれ、と伝える前に吸い込まれた。


 たたらを踏んだものの堪えたルシファーの目に映ったのは、木の内側とは思えない広場と……異常な速さで這い這いを披露する我が子だった。


「イヴ?!」


 一直線に向かってきた娘を抱き留めようとして、軽く跳ね飛ばされる。転がりながら、娘の痛すぎる愛を実感した。軽いM症状である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 愛娘との軽い(?)接触事故?。(´・ω・`)
[気になる点] ふっと恐ろしい事を気がついてしまった…。 巨木に触れて木の内側に入る。 お母さんの中(体内)に入るって読めてしまうことに……
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