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189.材料が全て揃いました

 大きな蝶に似た羽を広げたベルゼビュートは、ばっさばさと振ってみる。周囲に用意された透明シートの上に、鱗粉が落ちた。どの程度集めればいいか不明なので、多めに落とす。


「陛下、必要な量はきちんと確認してくださらないと困りますわ」


 数字に関しては煩い彼女に指摘され、ルシファーはようやく落ち着いた執務室で溜め息を吐いた。


「そうだよな。助かった、さすがはベルゼビュートだ」


 意味が繋がらないが、とりあえず褒める。それがベルゼビュートと友好的な関係を保つ秘訣だった。褒められると機嫌が良くなる彼女は、ふふんと胸を反らしてさらに羽を振る。


「気をつけてください。先に落ちた粉が飛んでいきそうでしたよ」


 こういった注意や指摘を担当するので、アスタロトとベルゼビュートは仲が悪い。お互いに悪気はないのだが、馬が合わないとはこのことか。8万年過ぎても変わらぬ関係に、ルシファーが間に入った。


「なるほど。アスタロトの指摘ももっともだ。だがベルゼビュートは器用だから、上手にこなせると信じているぞ」


「当然ですわ、お任せください」


 機嫌よくまた鱗粉を落とし始める彼女は、鼻歌まじりだった。リリスと違い音痴ではないので、不思議なメロデイーが室内に流れる。


「明日からの執務は無事にこなせるといいのですか」


「無理だろ。ドワーフ達が徹夜で……やるかも知れんが、一応規則で夜間の作業は禁止だからな。そもそも材料が足りていない」


 心配するアスタロトへ、ルシファーがばっさり期待を切り捨てた。明日の朝から工事を行うとして、使えるのは早くて明後日以降だ。特殊な材料ばかり求められたので、まだ届いていない材料もあった。


 ピヨからもらった尾羽は、引っこ抜く際に彼女が泣き叫んだ。やはり尾羽は痛いらしい。お陰でヤンが付きっきりで機嫌を取っていた。ピヨの寝息で毛皮を焦がされないよう、魔法による保護をかけたのは詫びのつもりだ。


 巨大タコの吸盤も手元にある。先ほど香辛料まみれになりながら、アスタロトが人狼の爪を回収した。目の前でベルゼビュート自ら鱗粉を振り撒いている。残るはワイバーンの皮膜だった。


 ワイバーンそのものは魔物で、生息数も多い。多少狩っても問題なく、現在魔王軍の有志が追い回していた。すでに数匹捕まえ、ドラゴン種が爪で掴んで運搬中だった。転移魔法陣がない森の奥地で捕獲したため、一番近い魔法陣まであと30分はかかるだろう。


「ワイバーンが来れば、全部揃うか?」


「そのはずです」


 足りないと言ったら、その口を引き裂きそうな吸血鬼王がにたりと笑う。ぞっとした魔王は目を逸らした。関わると碌なことにならない。


「陛下、足りそうかしら」


 鱗粉自体にも魔力が宿るので、疲れてきたらしい。ベルゼビュートが近くの椅子に移動して、ぐったりと肘掛けに懐いた。


「ああ、ありがとう。助かった」


「これくらいお安い御用ですわ。ジルの夕食を作るので、失礼しますわね」


 ベルゼビュートは切り落としたタコの足先をひょいっと掴み、肩に担いで出ていった。胸元や足元がぎりぎりスリットの紺色ドレスで、子を産んだとは思えないスタイルを見せつけながら……タコの足を運ぶ。いろいろと絵面的に複雑だが、ルシファーは笑顔で見送った。


「ワイバーンが到着しました」


 集めた鱗粉を瓶に詰める二人に、待っていた朗報が届いた。大急ぎで作業を終わらせ、机の上に瓶を置いて中庭へ向かう。すでにサタナキア将軍の手により、ワイバーンの翼は切り離され、皮膜を剥ぐ作業に入っていた。


「……午後には間に合うかも知れないな」


 目を輝かせるルシファーに、アスタロトは穏やかな笑みを浮かべた。


「執務が捗るといいですね」


「あ、ああ」


 なぜか背筋にぞくりと寒気を覚え、ルシファーは身震いして自分を抱き締めた。

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