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184.魔王城、執務室という託児所

 イザヤのところの双子が来た理由は、執務室に入って理解した。たくさんの子が自由に遊んでいる。魔王の執務机によじ登る炎龍の子のスカートを、そっと風で引っ張った。下着が丸見えだ。


 机によじ登っていたのは、シトリーの娘キャロルだ。ようやく7歳になったばかりで、赤と呼ぶには淡いピンクとオレンジの中間色の髪や瞳が特徴だった。お転婆でいろいろと悪戯をして母シトリーに叱られ、父グシオンに泣きついて許してもらうらしい。


 リリスがお茶会ならぬ奥様会で聞いた話を思い出し、苦笑いした。仕事前なのでもう少し放っておくか。インクや印章は、魔法で封印された引き出しの中なので問題ない。最近開発されたインクを入れる瓶が優秀で、外からの魔力を反射し、中身のインクが透明化することを防ぐので、鍵を掛けられるようになった。


 お転婆キャロルの足を引っ張るのは、兄のネイトだ。年子で8歳になったばかり。父親譲りの真っ赤な髪と瞳の彼は、必死で妹を止めていた。一緒に悪戯しないあたり、大人しい性格なのだろうか。


 レライエが卵を温めて産んだ琥珀竜ゴルティーは、のそのそと日向を求めて這っていく。飛べるはずだが……と首を傾げるが、ルーサルカの次男リンに尻尾を掴まれていた。リンはミツバチ人形を背負わされている。イヴのラミア人形同様、頭の保護だろう。


 ゴルティーは不愉快そうだが、我慢していた。振り払うと幼子にケガをさせると気遣ってくれたようだ。やっとの思いで日向にたどり着き、今度は尻尾の奪還作戦に移った。計画的なところはレライエに似たのだろうか。少なくとも父アムドゥスキアスに計画性はない。


 風の精霊として生まれたアイカが、水の精霊である姉ライラととともに絵本を覗いていた。ライラが読み聞かせる英雄譚を、目を輝かせたアイカは夢中になって耳を傾ける。向こうで騒ぐゴルティーの声が耳障りなようで、手元にあった兎のぬいぐるみを投げつけた。


 3歳とは思えぬ見事なコントロールで、ゴルティーの後頭部にヒットする。アイカは父親ジンと同じ風の精霊なので、魔法より器用に風を操れるはず。ゴルティーにぶつけたぬいぐるみも、おそらく風による軌道修正があっただろう。


 しくしく泣き始めたゴルティーは、父アムドゥスキアスに似て泣き虫のようだ。女の子に泣かされる辺りは遺伝なのか。微笑ましく見守るルシファーは、机によじ登るキャロルを魔法で横に下ろし、ネイトも丁寧に移動させた。


「ネイト、悪いがキャロルと向こうで遊んでもらえるか?」


「分かりました」


 魔王軍の敬礼をして妹の手を引くネイトが消えると、イヴをスイに預けた。双子の姉は慣れた手つきでイヴを受け取り、クッションで覆われた柵の中に放す。と、凄い勢いで這い這いを始めた。最近歩き始めたイヴだが、這い這いの方が圧倒的に早い。加速したイヴが抱き着いたのは、ゴルティーだった。


 尻尾を掴むリンの手を振り払い、彼を泣かせる。ほっとしたゴルティーだが、単に尻尾の持ち主が変わっただけだった。がっちりイヴに尻尾を握られたゴルティーは、半泣きで這いずる。イヴがよたよたと立ち上がり、不安定ながらも尻尾を掴んで歩き出した。


 目に映る光景はほのぼのドラゴン散歩だが、当事者が泣いているので虐めのようにも見える。止めるべきか、好きにさせるか。迷ったルシファーが伸ばしかけた手を握った。子どもの中で起きる事件は、当人達に解決させるべし。シトリーの教育論を思い出したのだ。


「頑張れ、イヴ、ゴルティー。リンはいつまでも泣いてたらダメだぞ」


 ルイに慰められ、鼻を啜ったリンがむくりと立ち上がる。勢い込んで進むが、よちよちと不安定だった。転ばずにイヴにたどり着き、黒髪を掴んで引っ張る。頭が重い子ども達は揃って後ろに転び、ラミア人形やミツバチ人形に助けられて身を起こした。


「完全に託児所になったな」


 苦笑いして、ルシファーは執務机の上の書類を確認し始めた。

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