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182.目覚めはお尻アタックで

 計算に関しては天才的な才能を持つベルゼビュートが投げ出した分を、暗算で処理する。あの場で手直ししたはずの綴り間違いもすべて書き直した。後は明日、彼女の署名をもらうだけだ。やっと片付けたことでほっとした魔王は、その場で机に突っ伏した。


「お疲れさまでした。明日は少し楽ですよ。スイとルイが顔を出すそうです」


「……託児所になってないか?」


 やや白んできた窓の外を睨みながら、ルシファーがぼやく。ついでと言われ、大量の署名と押印もこなしたため眠さで目つきが悪い。楽になる内容が、書類の量ではなく助っ人の双子というのは……間違いなく「楽になる」の対象が育児だった。


「イヴ姫と一緒にいたいと願い出たのは、ルシファー様ですよ」


 自業自得と言い切られ、溜め息をついて諦めた。ここでアスタロトと言い争っても勝てる気はしないし、これ以上睡眠時間を削りたくない。重い足を引きずるように執務室を出て、自室の扉を開く。リビングとして用意された部屋の奥にある寝室へ入り、可愛い妻の寝顔を堪能した。


「はぁ、可愛い。癒される」


 キスをしたいが、さすがに起こしてしまうだろう。諦めて隣に潜り込んだ。きちんと半分開けてあるのが愛情の証と頬を緩める。と言っても、キングサイズのベッドなので全部使う方が難しいのだが。精神的に疲れていたこともあり、すぐに眠りに落ちた。






「ぱぱっ」


「ぐはっ、おも……」


 首に跨り腰を揺らす愛娘の、何とも過激な目覚ましに咳き込みながら起き上がった。抱きしめた娘から、何とも言えない臭いが漂う。


「ルシファー、起きたの?」


「ああ。イヴのおむつを替えてから行く」


 汚物転送おむつを使っているが、かぶれないように定期的な交換が必要だ。魔法陣で転送して処理できるのは、おむつに付着した汚物だけ。肌にべったりついた物は拭きとる必要があった。


 魔獣の毛深い子から鱗や羽のある子までカバーするとなれば、魔法陣では対処できない。オーダーメイドする手段もあるが、魔族は多少便利になったこともあり、今以上の機能を求めなかった。


 慣れた手つきでおむつを脱がせ、お尻を拭いて綺麗にしてやる。白いお尻を振り振りしながら逃げるイヴを捕まえ、笑いながら新しいおむつを装着した。後1年は付けていてもいいだろう。年上の遊び相手マーリーンも、3歳になってようやくおむつを卒業したばかりだ。


 臭いおむつアタックを受けた魔王だが、立ち直りは早い。手早く支度を終えたイヴを抱いて、リビングへ向かった。着替えてアデーレに髪を結ってもらったリリスは、にっこり笑った。


「昨夜はアシュタと遅くまで仕事をしていたのでしょ? もう少し寝ててもいいのよ」


「ありがとう、リリス。うちのお姫様に起こされた」


 肩を竦めて食卓につく。円卓を採用したのはリリスが幼い頃だが、ずっと愛用している。一度焼けたりした家具だが、ドワーフが何もなかったように修復していったため、今も現役で部屋に鎮座していた。


 並んだ料理は、卵料理からベーコンやサラダ、スープ。いつものおかずに白いパンを添えて。飲み物は紅茶とフルーツジュースが用意された。挨拶してから手を付ける。イヴはお気に入りのスクランブルエッグを手で掴み、ぐちゃりと潰しながら口元に擦り付ける。


 食べていると言うより、遊んでいるようだが……食べる気はあるようだ。両手で口に放り込み、くちゃくちゃと咀嚼した。マナーを覚えさせる年齢には早いので、好きにさせる。リリスの時にも愛用していたビブタイプのエプロンに、食べ損ねた卵が落ちた。


 エプロンの下部がくるんとしたスプーン形状で、落ちた食材を受け止めてくれるのが便利だ。ヒヨコの黄色がお気に入りのイヴは、同じ色をした卵をぽろぽろ落としながら頬張った。パンを差し出すが首を横に振り、果物はしっかり食べる。


「偏食はどうしたものか」


「リリス様もそうでしたけれど、すぐに直りますわ」


 アデーレに笑われ、そういえばリリスの時も同じ心配をしたのだったと苦笑いする。窓の外はやや曇り空。今日は蒸し暑くなりそうだった。

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