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172.真面目な顔で悩むが半分寝ていた

「どの程度殲滅すべきかご相談に戻ったのですが……楽しそうなお話でしたね」


 ぐいと詰め寄られ、ルキフェルに助けを求める。だが、彼は震えながら視線を逸らした。今のアスタロトに逆らえば、尻尾やらツノを切断されかねない。その判断は正しいが、主君を助けろと目で合図を送った。すっと逸らして見ないことにされる。


「聞いておられますか?」


「は、はい」


 思わず敬礼しそうになる。


「なんでも心臓に杭を刺した上で燃やして灰になった私を、水に流したい人がいるようです。どなたかご存じでしょうか」


「い、いや。小説の話だからな。ほら、物語に出てきた吸血鬼とお前は違うだろう?」


 ぎこちなく笑みを浮かべて機嫌を取るルシファーへ、腰に手を当てたアスタロトが溜め息を吐いた。怯えるくらいなら、最初からケンカを売らなければいいのですよ。そう滲ませた本音を感じ取り、ルシファーは「すまん」と謝った。


「別件ですが、あの魔法陣の内側はタコ以外に魚や……魚と思われる生き物が大量に泳いでいます。中に入った途端、降参すると宣言されました。どうなさいますか?」


 好戦的な大公であっても、降伏宣言されたら無視できない。処罰ならば命乞いしても関係なく殺すが、戦いの場で降伏は両手を挙げて無抵抗であることを示した。それを裁判なしに断罪する権限は、大公にない。もちろん、魔王ルシファーであっても許されなかった。


 魔族の世界は独裁に見えても、民主主義の共和制に近いのだから。


 降伏とは戦いに赴いた者に与えられる最上位の権利なのだ。脅かされることがあってはならない。聞かなかったフリをするほど、アスタロトも非道になれなかった。戦力的にこちらが圧倒しているのだから、途中で裏切ったら処罰に切り替えればいい……そんな思惑もあった。


「ふむ、ならば降伏を受け入れよう」


「魔王軍、正規の隊列を組んで! サタナキア、指揮を任せるね」


 ベールの代わりなのか、サタナキア将軍へ一任するルキフェル。敬礼して従うサタナキアが、竜族を前面に出し並び直すよう指示し始めた。総指揮官のベールがいない今、最高権力者の魔王がさらりと無視されるのは微妙だ。


 腕を組んだルシファーは考え事に忙しかった。うっかり捕虜にした場合、海の一画を区切って閉じ込めるべきか。地上へ放置したら死んじゃうだろうし……捕獲用の区域を維持する魔法陣の作成はルキフェルでいいとして、魔力供給はやっぱりオレか?


 眠ったばかりを無理やり起こされた状況もあり、まともに考えているようで的が外れている。頭の半分ほどは「眠い」に埋め尽くされていた。


 まずすべきは、降伏した敵の真意を探ることだ。捕虜になるか分からないうちから、捕虜の隔離方法を考える必要はなかった。その点を見落とし、さらに深くルシファーの思考は落ちていく。


 地下牢に海水を溜めたらどうだろう。だが鉄格子が錆びる問題もあるな。海の波がなくても生存可能か試してみたい。


 さらに危険な方向にずれていく。だが表面上は真剣な顔で降伏宣言を受け止めた魔王にしか見えず、さすがのアスタロトも彼の内面を推し量ることはなかった。


「アスタロト」


「はい、ルシファー様」


「海水で生きる者は、波がなくても鉄格子で腐らないだろうか」


 意味不明な言葉の羅列に、アスタロトは目元を押さえて俯いた。どうやらルシファーは半分ほど眠っているらしい。余計なことを発言させない方がいいだろう。判断は一瞬だった。付き合いが長い分、こういう状態のルシファーがいかに使えないか、身に沁みていた。


「すべて、私にお任せください」


「うむ、任せる」


 丸投げしたルシファーは、海面を睨みつける。眠いせいで目つきの悪い魔王の背後には、ドラゴンを中心にした魔王軍の精鋭が並んだ。降伏するタコを迎えるため、ルキフェルが魔法陣で海水柱を作り始める。にやりと笑うアスタロトは、久しぶりの外交交渉に臨んだ。

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