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171.水面下の恐れを知らず盛り上がる海上

 魔王の愛娘を拉致し、魔王城を爆破したこと。海はすでに地上の魔王とその配下を敵に回している。黒真珠達の独断だとしても、海側の非は明らかだった。話し合いがそこで一時止まる。海王の首を差し出す程度で、相手が引いてくれるのか。もし海王を殺しても止まらなかったら?


 長期戦になるであろう今後を考えるなら、海王も戦力として生かすべきではないか。海王の地位を明け渡せば、しばらく猶予されるかもしれない。その間に魔王を倒す方法を考えればいい。楽観的な物から、悲観的な物まで。様々な考えが浮かんでは、泡となって消えていった。


 そんな海中の事情を知る由もない魔王軍は、順調に包囲網を形成していた。生き物の魔力の位置を探り、ルキフェルの魔法陣で一気に隔離する作戦を準備する。流す魔力の供給源を魔王ルシファーが担当するため、遠慮容赦なく大きな魔法陣が描かれた。引き延ばすルキフェルは楽しそうだ。


「なあ、大きすぎないか?」


「小さくしてもいいよ。何かの胴体やら手足を切断しちゃうけど」


 けろりと返すルキフェルは、本心からどちらでもよかった。省エネバージョンなら、小型にして一部の生き物の末端を犠牲にすればいい。腸を切断するほど深くなければ、致命傷にならないだろう。海の生き物の生態なんて知らないけど。


 無責任にそう答え、魔法陣を小さく縮めて見せる。


「このくらい?」


 目見当で提案され、ルシファーは額を押さえた。これは間違いなく、中央にいるタコのサイズだ。タコ以外の生き物は真っ二つになる可能性があった。さすがにいきなり虐殺はどうかと思う。海洋生物がどこまで丈夫か分からないが、体の中央を切られたら死ぬんじゃないか?


「最初のサイズでいい」


「え? ここまで小さくしちゃうの?」


 ルキフェルが手のひらに載るサイズまで縮小した。最初の意味を、ここで取り出した時と判断したらしい。唸りながら、一番大きかった時に戻すよう頼んだ。こういう勘違いが、戦場では命取りになる。まさに今、海に住むあれやこれやの命が懸かっていた。


「じゃあ、展開するから供給して」


「先に戦うのでお時間を頂けますか?」


「えええ!」


 ルキフェルのブーイングを無視し、アスタロトが軽く会釈した。どちらが被害が少ないだろうか。ルキフェルの魔法陣は大きくすれば誰かの手足を巻き込む程度で済む。だが、アスタロトが暴れたら海が血で染まる可能性があった。いや、彼もいきなり殺戮したり……するかも知れない。


 心配で青褪めるルシファーをよそに、さっさと魔法陣をくぐったアスタロトが水中へ飛び込んだ。


「なあ、アスタロトって濡れても平気なの?」


「そもそも濡れないように結界くらい張るだろう。というか、何の心配だ?」


 ルキフェルの疑問へ、ルシファーは答えと質問をセットで返す。アスタロトの方が先輩であり、戦に関しても苛烈を極める。戦闘に関することで質問するルキフェルの心境に興味があった。圧倒的な強さを誇るのが大公だ。それは彼自身も含めての話で承知している筈。


「こないだね。イザヤが書いた小説で、異世界の吸血鬼が水に流れて灰に……あれ? 順番が違った。吸血鬼の心臓に杭を刺して燃やして灰にして、最後に流水に流すんだっけ。そうしたら蘇らないと書いてあったんだよ」


 試したことある? 尋ねられて首を横に振る。試そうとしたら反撃されて痛い目を見るのは分かっているし、そもそもアスタロトは刺されても死なない。燃やそうとしても燃えないだろうし、彼自身も水や炎を操るため、攻撃として無効だろう。


 説明したところ、ルキフェルは「ああ、そっか」と納得した。その上で、顔を見合わせて笑う。


「ま、そのくらいで死ぬ男なら、とっくに死んでるさ」


 からりと笑ったルシファーの後ろを指さすルキフェルが、少し青褪めている。恐る恐る振り向いた先には、海へ入ったはずの金髪の側近が浮いており……悲鳴を上げてルシファーは飛びのいた。

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