168.巨大タコは関係者で美味しく頂きました
「あっ! 巨大イカも食べられたんじゃない?」
ベルゼビュートがそう叫んで眉を寄せるが、アベルはタコを捌きながら首を傾げた。
「イカの料理って、刺身か丸焼きしか知らないな。刺身だったらあの大きさは硬いと思うっすよ」
じゃあ無理だ。一斉に周囲が納得した。確かにタコに似ており吸盤があるしぬめっている。料理したら同じように食べられる気もするが、丸焼きも刺身も厚みがあり過ぎた。火が通るまでに真っ黒に焦げたり、硬くて噛み千切れない可能性が高い。
タコ焼きの場合、以前に作った専用鉄板に合うよう細切れにする。浄化魔法で綺麗にした愛用の魔剣で、さくさくっと細切れにしたタコを山積みにした。足数本は輪切りのまま焼くので、隣の鉄板へ運ばれていった。
城門前ということもあり、料理人イフリートがコカトリスのから揚げ作りを始める。収納からそれぞれに取り出した肉を並べ、あちこちで解体作業が繰り広げられた。危険な食べ物が混じっていないか、また特殊な物は与える種族を限定するよう注意が回される。
種族が多いということは、食料品も千差万別。ドラゴンにとっては美味しい肉も、魔熊に危険な毒を含んでいる事例もある。慣れたもので、屋台が現れる頃には焼肉とタコ焼きは大量に用意されていた。
酒やジュースを提供する屋台、お菓子や果物中心の出店が並び、城門前はお祭りさながら。大騒ぎしながら、先日からの魔王城の騒動を噂し始める。勝手にテーブルセットを並べる者もいれば、地べたに直接座って盛り上がる者も出た。
いつものことなので、騒動さえ起こさなければ放置が暗黙の了解だった。
「これ、美味しい」
「たくさん食べろ」
仕留めたばかりのタコの輪切りを提供するルシファーは、慣れた様子で輪切りを鉄板に並べる。タコが大きすぎるので、細くなった足の先が輪切りになった。太い付け根部分は、細切れになってタコ焼きにインされている。
「これで輪切りとか、リリスのウエストより太いぞ」
「例えがセクハラよ、陛下」
隣で肉を焼くベルゼビュートに「アウト」と叱られる。ウエストの方が太いと言ったわけじゃあるまいし、何が問題なんだ? 首を傾げるルシファーだが、子ども達と参加したアンナやルーサルカにも同じ指摘をされた。
「女性のハートは脆くて儚いんだから」
うっとりと女性の心を語るベルゼビュートだが、豪快にトングで肉を焼く姿が妙にちぐはぐだった。適当に相槌を打ちながら、少し離れた場所でイヴを抱いて休憩中のリリスを振り返る。護衛のヤンがしっかりとソファ兼簡易ベッドを務めていた。
「ヤンにも褒美をやらないと」
「あら、肉を差し入れましょうか」
転移を使って焼いたばかりの肉をヤンの前に並べるが、あいつは生肉の方が好きだと思うぞ。そんなルシファーの呟きに、慌てて焼く前の肉と入れ替えた。もぐもぐと食べ始めた彼の脇で、養い子のピヨが踊る。炎をまき散らし、ヤン用の生肉をほんのり焦がした。
「ピヨ、危険であろう」
「ママのお肉、焼いてあげる」
「やめよっ! こら!!」
叱る前に炎をまき散らしたピヨは、アラエルに咥えられて強制退場となった。相変わらず成長が緩やかすぎて、まったく変化の見られない雛である。彼女が吹いた炎の余韻か、ほんのりと後ろが温かい。のんびりした感想を抱いたルシファーに、リリスが叫んだ。
「やだっ、ルシファーの後ろで燃えてるわ」
「ん? ああ、本当だ」
めらめらと炎を上げるタコは、鉄板へ載せる前に立派な炙りになった。面倒なのでそのまま鉄板に運び、並んだ魔族へ提供していく。頬を染めてタコを受け取る魔族の女性達は、目の保養と楽しんだ。離れた場所ではベールとルキフェルが魚を、駆り出されたアスタロトも揚げ物を手伝っていた。
魔王城の城門前は、イヴの拉致事件が嘘のように盛り上がる。事件解明は先送りになるが、まずは宴会。この状態こそ、魔族そのものだった。




