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167.戻ったら戦勝祝いだ

「っ……ルキフェル、そのような真似はいけません」


 痛みを堪える色はなかった。ただただ愛おしいと、可愛がる養い子へ向けた感情が滲む。ぽたりと垂れた血が、ベールの結界内に滴った。


「ベール……僕が分かる?」


「ええ。もちろんです。陛下も……ご迷惑をお掛けしました」


 詫びるベールの瞳は穏やかさを取り戻していた。捨て身で二人の間に飛び込んだルキフェルの姿に、ようやく我を取り戻したらしい。


「焦らせるな、ベール。ルキフェルも、飛び出すのはやめてくれ。心臓に悪い」


「ごめん」


 ルシファーのぼやきに謝りながら、ルキフェルの視線はベールの手元に向かっていた。己の剣の軌道を変える為、咄嗟に自らの左手の甲を貫く。その激痛が容易に想像できて、二人は顔を見合わせる。


 平然とした顔のベールだが、左手はようやく血が止まり始めたところだった。


「治癒はいるか?」


「いえ。私が自ら行った方が早いです」


 それはそうだが。それなら早く塞いでしまえ。見てるこっちが痛い。顔を顰めたルシファーの雄弁な眼差しに、くすっと笑ったベールの背後に炎の羽が再び広がった。鳳凰の治癒力を使うのだろう。


 虹蛇の方が治癒力は上だが、新しい能力を呼び出すより、現時点で手元にある方を利用するらしい。垂れていた血が逆再生するように傷へ戻り、穴の空いた手の甲が塞がっていく。抜けた剣の刃を背中で隠すようにして、収納へ片付けた。


 空中にもかかわらず、デスサイズを手にした魔王へ首を垂れて跪く。


「我が主君に剣先を向けた無礼、我が……」


「あ、そういうのは不要だ。これを咎めると、アスタロトなんか複数回殺さないといけないし、ベルゼビュートも同様だ」


 大公として仕えると決めてから、何度も暴走した同僚を引き合いに出され、ベールは苦笑して立ち上がった。ほっとした様子のルキフェルが抱きつくのを受け止め、頬を緩める。


「さて、イカも片付けたし帰ろうか」


「はい」


「うん」


 珍しく堅物のベールとやり合って、楽しかった。そんな感想は口に出さないのが正しい。ルシファーは肩をすくめて、デスサイズを撫でた。


「今日は帰るか?」


 ぶるりと身を震わせて消えたデスサイズを見送り、砂浜の上に転移した。すぐに二人も続き、作っていた盾を消したベルゼビュートがにやりと笑う。


「これでベールもあたくしにしつこく言えないわね」


「何のお話ですか、あなたは関係ないでしょう。それより報告書の提出が遅れています」


 過去の失敗をネチネチと突かれた経験を持つベルゼビュートは、やっと尻尾を掴んだと笑う。だがベールの方が上手だった。というより、彼女が彼に勝てた試しがない。うっかり余計な発言をしたことで、未提出の書類を持ち出されて青ざめた。


「姉さんって懲りないのね」


「いつものことだ。帰ろう」


 リリスとイヴを腕に抱き、軽く首を傾げて待つ。ルシファーに対し、ドラゴンは空を飛んで帰ると返答した。大公達はそれぞれに戻れる。


 イヴ奪還作戦が、こんな大騒動になると思わなった。もっと早く回収し、日常に戻る予定だったのに。


 今回の犯人や内通者の有無を調べる必要がある。その上で、海王に対して厳重に抗議するのが魔王としての立場だった。本音では、大きくやっつけてしまいたいが。


「ルシファー、さっきのタコはタコ焼きになるの?」


「アベル宛に送ったが、多分大丈夫だ。軽く戦勝祝いでもするか」


 わっと盛り上がるドラゴンの群れが先に飛び立ち、残された者も順々に城門前へ転移した。すでに広場の芝にテントや鉄板が用意されており……タコの太い足を捌く料理人イフリートが包丁を振って挨拶する。すぐにでも宴会が始められそうだった。

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