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104.女性に重いは禁句です

 我が子イヴを抱いたまま駆け寄り、テラスの戸を開け放つ。リリスの後ろは夜空と呼ぶには明るさの残る夕闇、寄りかかったテラスの手すりが透けていた。


「リリ、ス?」


「ごめんなさい、私もびっくりしたのよ」


 自ら消えたわけではなく、意地悪でもないとリリスは困ったような顔で笑う。その表情にルキフェルは眉尻を下げた。


「勘弁してよ、もう。君がいないとルシファーが壊れちゃうんだから」


「うん、そうね。気をつけるわ」


 会話になっている。つまり彼女は消滅したわけではないし、現時点で差し迫った危険に晒されていないと言う意味だ。冷静に判断したアスタロトは、テラスの出入り口に立ち尽くすルシファーを引っ張った。


「なに?」


「場所を開けてください。魔王妃殿下が中に入れないでしょう」


 至極当然とばかり言い放たれ、驚いた自分がおかしいのかとルシファーは自問する。その間に、引っ張られて開いたスペースをリリスが通過した。足首まで隠れるロングスカートの上、半分透けている。そのため歩いたのか、ふわふわ通過したのか、判断しづらかった。


 奥まで進んだ彼女を追いかけて、ルシファーもついて行く。手招きされて座るよう言われ、大人しく座ったルシファーの膝に、当たり前のようにリリスが腰掛けた。


「温かい……重い」


「重くないわよ!」


 重さがある、の表現を短くしたために怒らせ、妻のビンタを食らう。ルシファーは頬に痛みが走ったことに喜んだ。実体があるのだから。


「痛い」


 にやにやと表情が崩れたルシファーの顔色はまだ青い。膝に横向きに腰掛けたリリスは、困ったような顔でイヴを見つめた。イヴもくりっと丸い大きな目で見つめ返す。


「では、このお姿になった理由をお話しいただけますか」


 ベールは気持ちを落ち着けたようで、乱れた銀髪を梳かしながら促す。先ほどまでルキフェルの髪も梳かしていた。ルシファーを押さえようとした時にぐしゃぐしゃになったのだろう。


 アスタロトは風を操り乱れを整えたが、元凶のルシファー自身はそのままだった。乱れはほとんどなく、肩に散った髪も絡んだりしていない。奇跡の直毛だった。


 イヴと見つめ合っていたリリスは、透けた指を我が子の頬に添わせ、爆弾発言をした。


「原因はこの子よ。イヴは私やルシファーの魔力を打ち消すでしょう? 魔の森との繋がりを一時的に消されちゃったの。それで不安定になって、母の元へ引き戻されたわ。すぐに戻ってきたけど、まだ完全回復できていないわ」


 半透明の姿で完全回復を宣言されても困る。前半の驚愕の内容をスルーしたい大公達は、後半部分に苦笑することで話を受け入れた。イヴが分別つく年齢まで、何度も起きるのだろうか。それにルシファーも危険という意味なら、イヴを隔離して育てる必要がある。


 悩み始めた男性陣をよそに、ベルゼビュートは平然としていた。ルシファーの腕からイヴを抱き上げると、あやし始める。愚図りかけていたイヴは、すぐに目を閉じた。呆然とするルシファーはイヴをあやすことも忘れていたのだ。


「育てられないなら、私が預かるけど。どうするの?」


「それはダメだ」


「絶対に嫌!」


 夫婦が即答したことで、大公達の気持ちが固まった。支えて行くしかない。何年かの話で、長い人生にはそれ以上に苦労した時期もあったのだから。


「分かりました。常に大人が二人以上でイヴ様といるようにしましょう」


「誰と誰の結界が無効化されるのか、きちんと検証しないとね」


 ベールとルキフェルが方向を示したことで、ようやくルシファーもほっとした顔で頷く。ベルゼビュートからイヴを受け取り、眠った我が子に謝った。


「ごめんな、情けない父親だ」


「本当よ」


 さっきまでちょっと感謝していたんだが? お前も立派だなと見直したところだったのに。ベルゼビュートの評価は刻一刻と変化し続け安定しなかった。

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