六話 少しの感情
ロストガルドの中は、とても綺麗な場所だった。
整列した建物に補装された道路、清潔感のある格好の人々に笑顔で商売をしている商人。
これほど整った街並みは予想外だった。
「おぉ、予想の10倍は綺麗だった……」
創永の驚く様を見て、ディアナは隣で笑っていた。
「なんですか、それ。そんなに酷いところだと思ってたんですか?」
そう聞くディアナに悪意はなく、本当に可笑しそうに、とても楽しそうにしていた。
「いや、だってよ? まず、道路が煉瓦造りって……その時点で予想より上だぜ?」
創永は本気で言っているのだが、ディアナにはネタで言っているとしか聞こえなかった。
「ふふ、創永さんって冗談がお上手なんですね?」
「あ、あー……そうだな。まぁ、下手ではないはずだ」
創永も気づく、これがこの世界での普通なのだろうということに。
どんなに辺鄙な村であろうと、道は煉瓦造りになるのは当たり前と言うことだ。
(意外と世界水準は高いのか? それともこの国だけなのか……)
詳しくはわからなかったが、それでも一応気に留めておくことにした。
「創永さん、まずは何処に行きますか?」
意識の外から声をかけられる。
それはディアナだと分かっていながらも、驚いてしまった。
「おう!? あ、あぁ、まずはお金が稼げるところかな……」
ディアナは創永が驚いたことに不思議がりながらも、きちんと考えを詰めていた。
「お金、ね? んー、多分……冒険者組合が一番手っ取り早いと思うよ?」
「ん? 冒険者組合って、ギルドみたいなものか?」
ディアナの言葉に引っ掛かりを持ち、簡単な質問で返してしまう。
あまり良くないのは分かっていたが、聞かずにはいられなかったのも本心だ。
「ギルド……? それは、組合の中のパーティーのことでしょ?」
「パーティー……そうか、ありがとう」
今の言葉で組織の大体のあり方を悟った。
創永の中では、アニメやゲームなどで扱われるものと大差ないと判断したのだ。
「ディアナ、冒険者組合に連れて行ってくれるか?」
道の先を見ながら、ディアナに問いかける。
「うん、いいよ。任せて!」
ディアナの顔を見るまでもなく、声で理解できた。
彼女は快く引き受けてくれたことを。
創永はそっと誰にも聞こえない声で呟くのだった。
「ディアナ、ありがとう……ここに連れてきてくれて」
今はまだ、少し気恥ずかしくて、それでも感謝したくて。
そんな曖昧な感情の中で優しく微笑むのだった。
「創永さーん! モタモタしてたら置いていきますよ〜!!」
「おい!? 少しぐらい待ってくれても!」
創永の気持ちを知ってか知らずか、楽しげに笑うディアナに心は揺り動かされていた。
「先に行っちゃいまーす!!」
創永は彼女の跡を追って、ひたすらに走るのだった。
この作品を面白い、と思ってくださった方、ぜひブックマークをお願いします。
また《誤字脱字の訂正》に関しましては、気兼ねなく送付ください。