五話 偽りの過去
心地よい風に吹かれながら、二人は共に街の入り口へと着いていた。
入り口では軽い検査が行われており、すでに行列ができている。
並んでいる人々は商人の様な出立ちの人や、冒険者と呼ばれそうな出立ちの人などがいる。
検査を行っているのは、ロストガルドの衛兵たちだった。
「ふむ、検問を敷いているのか……俺って怪しくないよな?」
少し気になり、自分の服装を確認する。
服自体は、列に並んでいる冒険者の様な出立ちの人とあまり大差がなく、丈夫な服に少し厚めのプレートを付けている感じだ。
履いているズボンも少しダボダボではあるが、緩く履けるしっかりとしたものであり、下のブーツは頑丈な革製のものだ。
「創永さん、怪しくは無いと思いますけど……見かけない顔だと、止められますよ?」
ディアナは困ったような顔をしていた。
それもそうだろう、創永は身元を保証する物を、何一つとして待っていないのだから。
そんな創永を、彼の言葉だけを信じて連れてきているのだから、問題が起こらないはずがない。
「あー、身元の確認用の何かだよね?」
「えぇ、何か持っていたりしませんか?」
創永はいろいろな場所を探るが、何一つとして持っていなかった。
唯一、手元に待っていたのが五百ミリ程の水が入っていた水袋だ。
(よし、旅の途中に全てを失ったことにしよう……誤魔化し、効くよな?)
一瞬にして諦めがつき、誤魔化すスタイルを貫くことにした。
「ディアナ……少し嘘を使うから、流れに乗ってきてくれ」
「嘘って……バレませんか?」
心配そうに見つめてくれるディアナに、少し罪悪感を感じるも街に入るためには仕方がなかった。
大丈夫、自分は大丈夫。そう言い聞かせながら順番を待っていると、直ぐに回ってきた。
『そこのあんちゃんと、ディアナの嬢ちゃん? あんちゃんの方は、身元を保証できる物を提示してくれ』
情が深そうなおっさんが、やっつけ作業の様に進行している。
「あー、衛兵さん? すまないが、身元を保証できる物を、持っていないんだ。どうにかならないか?」
「ん、訳ありか? よし、過去の話から聞いてやるから、言ってみろ」
衛兵のおっちゃんの前で、ひたすらに作り話を語るのだった。
話の内容はこうだ。名前もない様な村で生まれ、五歳の時に母を流行り病で亡くす。村の人たちも次々と亡くなり始め、母の遺言として『ゆっくり、のんびりと生きていきなさい』と告げられる。
それから、村の人が全員亡くなり、自分一人だけになったので、旅に出た。
それからは苦難の連続で、つい三日前も愛用していた身の回りのものを野盗に取られた。
唯一残っていた水袋を手に、三日三晩歩き続け、つい先程ディアナに助けてもらった、と。
その話を聞いた衛兵のおっちゃんは……いや、彼だけではない。後ろに並んでいた商人や冒険者なども含めて、全員が超号泣していた。
「な、なんて辛い過去なんだ!!」
「よく生きていてくれた!! これからは良いことが必ずあるからな?」
「あんちゃん、困ったことがあったら詰所に来いよ? 俺たちがなんとかしてやる。今までよく、本当によく生きていてくれた……ありがとうな?」
(えぇー、なにその反応……予想の五倍は情に熱いじゃん)
超号泣の衛兵に、冒険者や商人。皆、暖かく優しい性格のようだ。
「皆さん、ありがとうございます」
隣で聞いていたディアナはと言うと、本当に信じてしまったようで、此方も号泣している。
「創永ざぁん! わたじ、わたじ、必ず幸せにしますから!!」
「ちょっ!? ディアナさん、変なこと口走ってる!!」
平常な人が聞けば、完全に誤解される言葉だが、今ここにいる人たちは同意だと言わんばかりに首を縦に振っている。
(うっそ〜ん……皆、信じちゃっていいのか? いいんだろうな……)
創永は他人の優しさに漬け込んだ、悪どい人間にならないように、今話した過去は本当のものだと信じ込むことにした。
(まぁ、こんなスタートでも良いかもな?)
創永の心は少し、認められたような気がして軽いものへと変わっていた。
再び、優しい風が吹き抜けるのだった。
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