二話 出会い
「俺の名前は……」
確かに俺の名前は伝えたはずだ。
なのにどうしてだろう。彼女は、神と名乗る女性は名前を聞いて、とても悲しそうな瞳をしていた。
「……わっかんねぇー!! 俺は、どうすりゃあ良いんだ……」
軽く頭を掻き、無理やり考えを進める。
他のことを考えようにも、女性の悲しい瞳が眼に、脳に焼き付いて離れなかった。
「はぁ、これが初恋だったとかじゃ、あるまいし…… のんびり、だったよな?」
女性が言っていた言葉を、頭の中で反芻し意識付ける。
そんな中、ようやく意識が覚醒し始める。
目の前に光が差し、ゆっくりゆっくりと体の感触を手に入れる。
そして、目を開いた。
そこは、見知らぬ森の中だった。
『情報を更新中……もうしばらく、お待ちください』
視界の端に、ゲーム画面にあるコマンドを表示する為の様な枠が出来ている。
そこには表示と共に、グルグルと回るサークルの様なものがあった。
『更新しました。適正な表示を検索します。コマンドを入力してください』
コマンドなどと言われても、それ自体を知る由もなかった。
だが、その場面を見続けていると変化は起こる。
『コマンド:情報 検索結果、1件』
『表示しますか? Yes / No』
今度はYESの方を見続けた。
『情報:神域技による音声アシストを可能としたものです。これは、情報だけでなく、自動で魔法などの詠唱も可能です』
よくよく理解はできないものの、所謂、人工知能のアシストということだろう。
ここで気になるのは、神域技の詳細だった。
そんなことを思ったのも束の間、視界には検索結果が表示されていた。
『神域技詳細:創造錬金、万能聖賢』
『創造錬金:万物を創造するスキル。それに叶わぬ願いなど皆無』
『万能聖賢:万物を存知するスキル。それに知らぬ知識など皆無』
「はぁ、つまりドユコト?」
一度行き詰まった考えを手放し、呆然と空を眺める。
生い茂った木々が、優しい木漏れ日を差し込ませながら、暖かく揺れている。
深呼吸を置き、もう一度内容を整理しよう。
一つ、異世界転移を行いその世界に降り立っている。
二つ、視界の端に新たな力を手に入れ、それでゲームの様にコマンドを表示できる。
三つ、神域技と呼ばれるものがあり、それを自分は行使できる。
これ、夢じゃないよね?
疑心暗鬼に陥りながら、自分の頬を思いっきり引っ張る。
『いったぁぁぁああーーー!!』
森中に響き渡るほどの声量に、森の動物たちが警戒心を強めた。
そんなのはどうでもいいとばかりに、頬をさする俺は、なんともアホらしい光景になりつつある。
これで状況は理解できたはずだ。
この現状が夢でないことを理解すると、なんとも形容し難い感情に支配される。
「そっか、俺は異世界に来たのか……くっ、こんなのアニメかマンガでしか起こらないと思ってたのにな」
特になんの意味もなさないが、カッコつけてみる。
辺りに人はおらず、静かに風が流れていく。
(っ、思ってた以上に恥ずかしい!?)
拳を握り、腕をプルプルと振るわせながら、自らの行動に身悶える。
(あ、そういえば……神域技ってどう使えばいいんだ?)
アニメやマンガという単語をきっかけに、必要な知識を思い出す。
神域技についての検索結果が、視界の端にあるコマンド欄に表示される。
『神域技、使用方法:その力の在り方を悟る。そのまま、力を吐き出す様にして使用する』
在り方を悟るや、力を吐き出すなど、よくよくわからない事が書いてあるが、これは気にするべきではないのだろう。
(在り方、か。神域技、創造錬金……水が欲しい!!)
『神域技:創造錬金、発動!!』
『精製物:水分 代償:気力』
コマンドの表示とともに、五百ミリ分の水が手元に現れる。その際に、多少の怠さが襲いかかってきた。
「おぉ、こんな感じか……てか、水一本分でこんなに疲れるのか? 効率が悪いかもな……」
この時の彼は正式な詠唱があることを、またそれによる代償の軽減があることを知る由もなかった。
手元の水を半分ほど飲み、横にある木に寄りかかりながら座る。
「まさか、今日は野宿になるのか!? 早めにここから出ないと……それより、今はこの怠さが早く抜けるように休むか……」
深く息を吐き、そっと目を瞑る。特に怠さが強調される最中、少しづつ足音が近づいてくる。
警戒したいのだが、意識が朦朧として、目を開くことができない。
自分の手前まで近づき、そっと肩を叩かれる。
「……んぁ、生きてはいるぞ……」
「そうでしたか、良かったです……もしかして、何かありましたか?」
そう問いかける声は、若い女性の声だった。
優しい声に、少しづつ意識が覚醒してゆく。
ようやく怠さが抜け、目を開くと目の前には、若く美しい女性が心配そうにこちらを見下ろしていた。
「あぁ、良かった、目を覚ましましたね?」
「あー、あぁ、そうですね……」
女性は安心したように微笑み、深く息を吐いていた。
本当に心配してくれていたようだ。
「ところで、貴方の名前は?」
「ん? あぁ、俺の名前は鬼優神創永だ。普通に創永って呼んでくれ」
「なるほど、私の名前はディアナ。ただのディアナですよ」
こうして俺こと、創永は謎の女性と遭遇する。
この出会いがあったからこそ、俺の人生は明るく楽しいものへとなれるのだった。
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