表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神になりますか?いいえ魔王になります!!  作者: 隼龍デーティ
第一章 始まり
1/6

第一話 見知らぬ女性

 そこは見知らぬ空間だった。


 目の前には、リビングなどで見かけるダイニングテーブルが置いてあり、その上にはばら撒かれた書類があった。


「ここは、何処だ?」


 誰もいないその空間で、一人静かに呟くのだった。

 もちろん、返事など返ってくるはずもない。

 この場には自分一人しか、存在しないのだから。

 それが当たり前で、常識なの筈だ。


 しかし、この場では違った。


「ここは、貴方の為に用意した、憩いの場ですよ? どうです、気に入ってくれましたか?」


 柔和な女性の声が、四方八方から聞こえて来る。優しく問いかけるようなその声に不快感はなく、奇妙にも心が安らいでいた。


「えっと、その……」


 突然の問いに、答えを窮してしまう。特にこれといった感情があった訳ではない。

 それ故に、どう言い表すべきかに迷いを感じてしまった。


「ふふっ、無理に答えなくても良いのですよ? そんなところも愛おしいですから」


 もし、声の主が目の前にいるのなら、その人は優しく微笑んでいるに違いないだろう。

 そう思わせてくれる声に、ほんの少しの安堵感を覚える。


「それよりも、そろそろ貴方の前に行きますね? せーのっ!!」


 掛け声に合わせて、ポンッ(・・・)と弾けるような音と共に姿を表したのは、この世の存在とは思えない程に美しい、女性だった。


 女性が現れたその瞬間、自分を含む世界の時の流れが、刹那にして揺らいだように思えた。


 まるで悠久の時を一瞬で感じるように、瞬刻を永遠とも捉えるように、世界に、いや自分自身に何かを与えたのだろう。


「……綺麗、ですね……」


 自分が思った時には、口をついて出てしまっていた。


 率直な感想ではあるものの、それ以外に形容できる言葉はなく、またそれ以外の言葉を必要とはしていなかった。


「うん、ありがとう。貴方も、カッコいいわよ?」


 女性の甘く惑わす声に、脳裏が焼き尽くされる。たった一言の言葉ではあるものの、その言葉は今まで受けたどの言葉よりも、愛おしく純粋で美しかった。


「……ありがとう、ございます……」


「ふふっ、どういたしまして」


 今の状況を口で説明するのならば、簡単なことだ。だが、それに含まれる感情は、聞いた者全てには伝わらないだろう。


 だが、あえて言おう。


 今、単純にお互いがお互いを褒めあっただけの話だ。


 だから言っただろう?この感情は、誰一人とて伝わりはしないと。


「ん? どうしたの、そんなに難しい顔をして?」


 優しく首を傾け、心配そうな瞳でこちらを見つめている。

 その瞳を見れば、以下略。


 特に難しいことを考えている訳ではないが、どうも一人でに舞い上がっていることを理解する。


 一度、深呼吸を置き、心を落ち着けてから言葉を口にする。


「あー、いえ、大丈夫ですよ? それより、俺は何で、こんな場所に?」


 ようやく話が進む。


 自分自身の一番最初の疑問を、目の前の女性に問いかける。


 彼女は優しく微笑むが、何かを答えようとはしない。


「それじゃあ、質問を変えるよ。俺は、死んだのか?」


 次の考えはこうだ。アニメやマンガなどでよくある展開、所謂お決まりだ。

 もしかしたら、それに沿って事が進んでいるかもしれないと踏み、それに関するような質問をしている。


 しかし、答えは同じだった。


 何かを答えようとはせず、今度はそっと首を横に振るのだった。


「もう、良いかしら?」


 納得のいかない状態の中、女性は微笑みを崩さずに、考えを遮った。


 しかし、それが自然であるかのように、なんの反発も起こらなかった。


 ストンと、心が納得する。言い得て妙だが、しかしそうとしか言いようが無い。


 特に不快感もなく、言葉を飲み込んだ。


 それを笑顔で納得した女性は、後にこう続けるのだった。


「貴方、私と同じ()にならない?」


 神、その言葉は自然と理解できた。


 それは、崇高な者であり、永遠な者であり、絶対な者だ。


 しかし、女性が伝えた言葉には、引っ掛かる点があった。


 それは『私と同じ』だ。


 言葉を変えよう。


 それは、彼女が神であることの、他でもない証明だ。


 そのことを理解した瞬間、全ての事柄が一つの波紋のように納得出来てしまった。


 この空間は、神が住まう場所。

 この状況は、神が望んだ場面。

 この思いは、神へ切望した、一人の青年の淡い願いだ。


「それで、答えを聞いても良いかしら?」


 その声に、なぞるように自分の口から言葉を発する。


 しかし、自分自身は思いがけない様な言葉を発していた。


「いいえ、俺は神ではなく……魔王になりたいです」


 その言葉には俺も、そして目の前の彼女も驚いていた。


 何故、その様なことを言ってしまったのだろうか。


 今はまだ、本人は知らないことだろう。


「そう、貴方はいつも(・・・)、そう答えるのね?」


 女性は含み笑いでなんらかの思いを馳せていた。


 何かを含む言い方をするが、皆目検討がつかない。


「……ふふっ、魔王だったわね? 良いわよ? 叶えてあげる」


 女性の顔には諦めた表情が張り付いており、どうにも胸が締め付けられる気分になる。


「……やったー、で良いんですかね……」


「えぇ、それで構わないはずよ? 貴方の望みを叶えてあげるのだから」


 バツが悪く、恐る恐る確認を取るも、当たり前のように流されてしまった。


 しかし、女性の表情は未だに暗いままだった。


「魔王……進化することは可能よ。でも、一つだけ守ってほしいルールがあるわ」


 女性は自分が納得するための理由を説明する。

 それが、守ってほしいルールだ。


「貴方を魔王にすることは簡単なの。でも、一つだけ、次なる世界ではのんびりと、ほのぼのと生きてほしいの。生き急ぐのではなく、ゆっくりゆっくりと永久の命を咲かせてほしい」


 女性は懇願する様な表情で、必死に想いを伝えていた。


 まるで、最愛の者を慈しむように、親愛の者を嗜めるように、情愛の者を愛おしむように。


「ゆっくり、ですか……えぇ、わかりました。次なる世界では、ゆっくりと穏やかな生活を過ごしてみます」


「そう……本当に頼むわよ?」


 最後まで切望するかの様に、女性の思いは強かった。


「それで、最後に聞いても良いかしら?」


「はい?」


「貴方の名前は?」


「俺の名前は…………」


 そこで唐突に、意識が途絶えるのだった。

この作品を面白い、と思ってくださった方、ぜひブックマークをお願いします。

また《誤字脱字の訂正》に関しましては、気兼ねなく送付ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ