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3分読み切り短編集

いい夫婦の日

作者: 庵アルス

 いい夫婦の日と聞くと腹が立つんだ。

 理由は明快、両親の結婚記念日であり、離婚した日でもあるから。

 おめでたい日を記念にしといて、よくもまぁ同じ日に離婚したなと、我が親ながら感心する。

 両親が離婚したのは、私がまだ中学生の頃の話。その頃の私は、両親の結婚記念日は、夕飯が豪華で、ケーキが出るのを楽しみにしていた。兄とお金を出し合って、両親に花束を贈るのも、喜んでもらえるので嬉しかった。

 その日も、兄と一緒に花屋に行って、両親に贈りたいからと花束を作って貰った。バラにガーベラ、ヒマワリにカスミソウを使ったブーケ。前の年にも似たような花束を作ってもらったような気がするが、私も兄も気にしなかった。

 家に帰って、夕飯の支度をしていた母に、兄と花束をプレゼントする。母はそれをすぐ花瓶に活けて、食卓に飾る。

 母が作った料理を、彩りを得た食卓に、私と兄とで運んだ。いつもより贅沢な料理の後に、お待ちかねのケーキが登場した。

『さ、食べましょ』

 母の一言で、私と兄はわくわくしながら食卓に着いた。

 それまでテレビを見ていた父が、のっそりと腰を上げる。

 そして父が椅子に座るや否や、母が口を開いた。

 それはそれは、晴れやかな笑顔で。

『離婚してほしいの』

 食卓が凍った。

 一番の楽しみだったケーキですら、味がわからなかった。成長期真っ盛りの兄ですら、食べ物が喉を通りづらそうだった。

 ほとんど料理を胃に流し込むようにして食事を終えると、母と父はふたりで話し合いをし、二時間後には離婚で同意したらしかった。

 理由はといえば、母が今でいうワンオペ状態にあったからだ。兄と私を年子で出産し、育児と家事に忙殺され、私たちを保育園に入れて復職した。

 父は、ほとんどなにも手伝わなかった。手料理ひとつ食べたことがないどころか、靴下ひとつ洗濯カゴに入れない。遊んでもらったこともない。それどころか、母に文句を言っていた記憶がある。

 そして、後から知ったが、十月に母は職場異動をしており、給料が父の金額を越えたのも一因だったようだ。

 家事もしない、子供の相手もしない、稼ぎも自分の方がいい⋯⋯そんな夫なら捨てたくなるだろう、我が父ながら情けない。

 衝撃を受けたものの、私と兄は、迷わず母に付いて行った。

 母と私たちは、多少の苦労はあったものの、平穏に暮らしている。

 父のその後は知らない。

2020/11/22

「ふー、ふー」の日なんだから、温かい麺類でも食べればいいと思います。

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