第五話 その6 男イズサン!
第五話 その6 男イズサン!
「さあもういいでしょ!?すぐ決めて!」
「決めてくれお!」
「決めるッピュ!」
「決めるッポ!」
状況は4対1、迷っているのは俺だけの様だった。冷静に考えてちゅん助の判断が正しい。
この街の状況は絶望的だった。ガレッタの言う通り予兆はあったのかもしれない。それが現実のものとなってしまったのだ。いくらでも備える期間はあったはずだが、この街は恐らく金に目がくらんでしまって備えることはしなかった。したくても出来なかったかもしれないが…
資金面ではバブルなのだ、用兵や護りのための備えなら、いくらでもできたはずだ、これもまたリスクとリターン、自己責任という奴だろう。
だが、あの件が気になる…
どうしても気になるのだ!
「ちゅん助…」
「ガレッタ隊長から伝承の話を聞いたよな」
「グソクに囲まれた時」
「巨大な影と恐ろしいプレッシャーを感じた」
「奴がそうだったとは思わないか?」
「今、それ関係あるんか!」
「ある!」
「なんでだお!」
「姿見た者」
「怒りに触れて」
「王は追う」
「そう言ってた!」
「言ってたなお!」
「見た、とすれば俺とお前しかいないんだ!」
「だから何だお!アレは影みたいなのしか見てないし、他の目撃例はないお!」
「だからこそだ!」
「こうは考えられないか?」
「俺達が…」
「俺達が呼び寄せてしまったと!」
「どんな伝承だかしらないけどアンタ、昔話で命捨てるつもり?」
「そうだお!」
「アホ言うなお!」
「アレが蟲の王だか大王だか確証がないではないか!」
「ははーん?おまえ!」
「勇者判定を受けて変な責任感でも芽生えとるかお?」
「それとも!根拠のない負い目で死ぬつもりかお!」
「そうじゃない!」
「そうじゃないが…」
俺は足にしがみついている少年に視線を落とした。少年はじっと俺を見つめていた。
正直行くべきか?残るべきか?俺はとても迷っていた。
その迷いが本物であると危惧し始めたちゅん助が語り掛ける。
「いやいやいやw!」
「イズサン!イズミく~ん?あかん!あかんでw?」
「こ~ないな緊急事態に!お得意の正義マンでっかw?」
「めっちゃあきまへんで?正義じゃこの世は生き残れまへんで!」
俺は息をふぅーっと吐いてちゅん助に返答をしようとする…
その答えに気付いたちゅん助が慌てて小さな体で俺の前に立ち塞がった!
「ならん!」
「ならんよ!イズちゃん!」
「わしも、死ぬと分かって!キサマを行かせるわけにはいかん!」
「岡山インターサーキット初めて一緒に行った時の事思い出せお!」
「サーキットぉ?」
「そうだお!おまえは2年間も女子高校生RQにうつつを抜かして!」
「わしの誘いを無視しておったから!」
「仕方なくわしは一人で寂しく行ってたお!」
(また懐かしい話を…)
「そんで数年後、初めて岡山に一緒に行ったサーキットの帰り!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「こらあ!左は駅やら高速へ向かう奴らでがっちり食い込んだ大渋滞なんだお!」
「右なら裏道で無渋滞で中国道だお!」
「わしの2年間の経験と実績よりそんなナビを信用するのかお!」
「当り前じゃん!30万もしたんだから」
「ひどいお!」
「とにかく左はイカン!左は国を亡ぼすんだお!」
「右折は社会の迷惑です~」
「………」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「わしは2年間の実績で即!帰れる裏道ルートを探し当ててるから任せろと言ったのに!」
「おまえは新車に積まれた30万円もするカーナビが反対方向指してるからそっちに行くと言って!」
「見事にどはまりしたやないか!」
「………」
「今、それ関係ある?」
「あるお!」
「さらに!思い出した!」
「行きですらわしは中国道の方が行きやすいと言うとるのに!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「こらあ!山陽道ではインター降りてから下道が長くて不便なんだお!」
「わしの言う事よりそんなナビのいう事を聞くのかお!!!」
「当り前じゃん!30万もしたんだぞ!」
「酷いお!」
「イズサン!人生にナビは付けられんのやぞ!」
「付けてえなあ…人生にも!」
「………」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「わしのアドバイス無視して!カーナビなんぞ信用して山陽道ルートで行って見事に遅れたやないか!」
「さらに思い出したお!」
「霊峰スピードウェイでは!」
「あそこの係員は仕切りがくっそ悪いから!」
「誤った指示出された時は無視して行けと言ってるのに!」
「くっそ真面目にもハイハイと大人しく従って!どハマった時あったやないか!」
「さ、最後のは仕方ないだろ…」
「いいや!」
「そういう事ではないお!」
「こういう事態の判断はわしの方が的確だと言うとるんだお!」
「下らん正義感に酔ってないでわしに従えお!」
「ちゅん助…」
「アクリムの街を出る時、お前に言われた事をずっと考えていた…」
「確かにお前が言った通り俺も負け組だ、それは否定しない」
「こんな人生で良かったか?と言われれば、満足いった生活を送れていたとかなんて言わない」
「再びこの人生を選ぶか?と聞かれたら、まず選ばないと思う…」
「それこそ、そんな話、今関係あるかお!」
「それに!だったら!」
「わしもおまえもチャンスをもらっとるんだお!」
「今はやり直せるチャンスなんだお!」
「選択をミスるんじゃねえお!」
「ちゅん助!」
「俺とお前の人生では決定的な違いがある!」
「はあああああああああああ!!!!!????」
「なんだちゅーんだお!」
「俺は!」
「間違えた、とは思ってない!」
「!」
「自分でももっと要領よく勝手気ままに生きてみたかったとは思う」
「今の生き方がカッコいいとも正しいとも思っちゃあいない」
「しかし!」
「俺は不器用でもそうやって生きてきた」
「いいや、そうしか生きられなかった!」
「だから今!」
「背を向けたら今までの、全てを否定しそうで怖いのさ!」
「俺のポリシーに自分さえ良ければそれでいいと!そういう考えはない!」
「街の皆が困っているときに我先に!やはりそれは出来ない!」
「ちゅん助!」
「お前は前の世界での生き方を間違えた!そう言っていたな!」
「お前ならこの世界で一人でも十分やっていける」
「お前とは二十年来の友達で、いろんな分岐点があったが、それがたまたまであっても」
「それを乗り越え今日この日まで友達でいられたと思う」
「だけど!」
「今、ここで別れる時が来たようだ!」
「お互い信じる道を進もうぜ!」
「今までありがとう…」
「礼を言う」
「そして、この世界に巻込んですまなかった」
「一人でも諦めず元に戻る道を探してくれ!」
「このアホが!」
「状況に酔うんじゃないお!」
「そういうのはわしの役目だろ!」
「ここぞでボケとツッコミを取り違えんなや!」
「だいたいおまえ!」
「残してきた家族はどうなるかお!」
「戻れたら伝えてくれ、愛していると!」
「輝は後悔しない道を選んだと!」
「なんちゅう厨二病かお!」
「わしみたいに普段から発散させとかんから!」
「こないな緊急事態に発動してしまうんだお!」
「そないなくっさいくさいセリフ!」
「わしが伝えれるはずなかろうて!」
「状況に酔って命を粗末にするつもりかお!」
「しかし!」
「わしも死ぬと分かってるのに、意地でも行かせるわけにはいかんお!」
「どうしても行くというならわしの屍をのりこえてゆけお!」
ダダッ!
「すまない!ちゅん助!」
グシャ!
「ぎゃあああああ!!!!」
「わしを踏み台にしたア~!?」
バカーン!
「ぐああ!」
パシ!
俺はちゅん助を踏みつぶしてから少女に蹴り渡した。少女は胸でちゅん助を受け止めると信じられない!と言った感じで首を振ると俺を見つめた。
「理解できないわ…あんたはコイツとは違って、そこそこまともだと思ってたけど…」
「まさかのコイツより…ほんとに馬鹿なのね…」
「頼みがある!」
「バカさ加減に呆れてるけど…いいわ」
「冥土の土産に特別に聞いてあげるわ」
「この少年を教会へ、できればちゅん助も一緒に連れて行ってやってくれ」
「少年は了解したわ」
「でもコイツはお断り!ふざけた能力でどうとでも逃げるでしょ!」
「十分だ!」
「十分なのかお!」
「少年、勇者なんて居ない…」
「勇気を出してこの状況に立ち向かえる奴なら勇者かもしれない」
「でも、俺が行くのは…ただ負い目があるからだ…」
「変な期待はしないでくれ」
「アンタびっくりするくらい不器用ね…」
「ま、どうでもいいけど!死に様だけは見届けてあげるわよ」
「ほんとにいくのかっぴゅ?」
「まちがいなく死ぬっぽ!」
「だろうな…じゃあ頼んだよ!」
「まて!まてお!イズサーン!かむばーっく!」
ちゅん助の叫び声を背に俺は走り出した。助かるあても、助けられるあてもないのに…
「オイオイオイ死んだわアイツ…」
「オイオイオイ死んだぽアイツ…」
「オイオイオイ死んだぴゅアイツ…」
「オイオイオイ死んだおアイツ…」
第五話
その6 男イズサン!
終わり




