第四話 その28 隊長 ガレッタ
第四話 その28 隊長 ガレッタ
「勇者様!お待ちしておりました!」
「勇者って…」
俺は困惑した。
天令石とやらの信憑性がどれほどのものなのか分からなかったが、若くなった以外なんら特殊能力がなさそうな俺なのだ
勇者とか大層な称号を与えられても実感が湧くはずがなかった。
どちらかと言うと、少女を手玉にとったちゅん助の能力の方が遥かに異常なのだが…
考えたくないがSSR、SSR言われてもハズレSSRの類なのか?俺…
俺達に声をかけてきた男はガレッタと名乗り、教会直属の討伐隊の隊長を務める男だった。
教会直属という事は正規の部隊であり、俺達が参加していた傭兵やら出稼ぎを寄せ集めた急造部隊とは違うはず。
そんな隊の隊長が、かしこまって俺の所に来るのは何故なんだ?
「勇者様!今の街の状況をどのように見ておられるか?教えて頂きたいのです!率直なご意見を!」
「わしはこの勇者の代表マネージャー!ちゅん助だお!」
「勇者様とお話ししたいなら、わしを通してほしいお。事務所の名はチュニーズだおw」
グシャ!
「ぐえあ!」
「……」
「これはペットです、お気になさらずに」
「あと、敬語なんて止めてください」
「貴方はこの街の正規の隊の隊長さんでしょ?」
「駆け出しで何の実績もない俺なんかより、ずっとお偉いさんじゃないですか」
「わしはペットじゃないお!」
「あんな餌付けされて野生の牙を失くした浪漫なき生き物と一緒にするなお!」
「どちらかと言えば、ペットは社畜やめられないおまえの方では…」
グシャ!
「ぐああ!」
「……」
「ガレッタ隊長、俺達は数ヶ月前から旅を始めたばっかりの者でして…」
「確かに天令石には勇者だなんて大層なお告げを貰いましたが、なんの能力もありません」
「ご謙遜を!」
謙遜を!
とか言われても逆に、そして大いに困る…俺には本当に何の実績も特別な能力も与えられてないのだ。
だいたいグソク程度の群れにやられて命からがら逃げ帰って来る人間なのに、何か特別なものがあると思ってる方も思ってる方だ。
正規の討伐隊の隊長ともなれば、その責任感からか色々な可能性にすがりたいのは分からんでもないが…
「ガリンに着いてまだそんなに時間が経ってません。おまけにグソク狩りですら、数日でへまやらかしてこのザマです」
そう言って俺は傷痕を見せた。
「しかし噂では、絶望的な状況を強靭な意志で切り抜けて戻って来られたとか!」
「そうだお!ションベン垂らしてクソ漏らしながら徳川家康みたいに戻ってきたお!」
「クソは漏らしてない!」
「ほう?ションベンは垂らしたと!」
グシャ!
「ぐはあ!」
「……」
「どのように聞かれているか存じませんが、調子乗って隊からはぐれた後、もうほとんど死ぬ状況を運良く助けてもらっただけです」
「その…ご存じないですか?俺が助けてもらった場所に大爆発が起こったの」
「なんと、その時の生存者が勇者様だったと?」
「勇者かどうか知りませんが、その時助けてもらったのは俺に間違いないです」
「わしは助けてもらってないお!」
「助けてくれたのは、とんでもなく信じられないくらいの凄腕の弓を扱う少女でした」
「わしは助けてもらってないけど」
「とんでもなく強気で胸は小さいけどケツが立派でわし好みの超綺麗な少女だったお」
「無駄に抵抗しそうなくっころ!女子だったお!」
「く、くっころ??」
「ペットの言う事はお気になさらずに」
「ペットじゃないお?」
「弓を持った少女…それは神魔弓士様で間違いないと思います」
「シンマキュウシ?」
「シンマキュウシ?」
「凄腕の弓士の方です」
「世界の各地にフラリと現れては、人助けや魔物退治をされておられるとか」
「噂では、黒髪のそれはそれは美しい少女だとか…」
「ただ、どんなパーティや組織にも属さず王侯貴族からのいくつものお誘いを一切、断って、常に一人で行動されているとか」
「確かに!わしが勝ったのに仲間入り断られたお!」
「負けてただろ…」
「なんで仲間にならないかお!」
「私も実際にお会いしたわけではないので…」
「お前に仲間になってもらえる要素ある?」
「最近ガリンの街を訪れたという事でしたが、お会いになられたのですね」
「ええ、ですからもしグソクの対策など聞きたいのであれば、その彼女に聞いた方が良いのではないかと…」
「先に申し上げました通り、天令の勇者の件も何かの間違いかと」
「そのような事は!」
「それと神魔弓士様には過去に依頼を持ち掛けた者が居たのですが良いお返事はもらえなかった様でして…」
「高飛車な女だお!」
「彼女にも事情があるんだろう」
「けしからん!だがそこがイイ!」
「いいんか!」
「運良く神魔弓士様にお会い出来たら、彼女にもお話を伺おうとは思っています」
「道具屋で話を聞いたのですが、俺の様な新米勇者というかまだ海の者とも山の者とも分からん男にまで隊長さん直々にこうして足を運んでこられるという事は」
「隊長さんとしても最近のこの街の異変について危惧なされてるのですか?」
「道具屋?」
「街のバランスが崩れてるって言ってたお」
「庶民にまでこの状況に気付いている者がいるとは…」
「道具屋は、その食料とか宿屋の供給が間に合ってない事と、隊長をはじめとした討伐隊の疲労度が上がってきてるのを気にしておりました」
「物流を担ってる道具屋さんからすれば、前線で戦ってる隊長さんよりも後方のサポート関係がより見えてるのかもしれないお」
「練度の低い隊員が増えてきて、怪我人も戻って来ない奴も格段に増えたと」
「その道具屋の言う通りです。ここ最近はとくにその傾向が顕著になってきているのも確かです」
「皆の不安を掻き立てることになるので、隊長の私が口に出すのもはばかられるのですが…」
ガレッタは、ふうっと溜息を吐いてから意を決したように言葉を発した。
「この状況、私はとても怖いのです…」
第四話
その28
隊長 ガレッタ
終わり




