第三話 その2 ギルドレ、シルドレ、ブシルドレ…そしてアクリムリウム
第三話 その2 ギルドレ、シルドレ、ブシルドレ…そしてアクリムリウム
「安いおー!」
「安いおー!」
「一家に一つ!」
「もしもに備えて!」
「是非!安心を買っていてクレメンス!」
アクリムの街の市場のストリートの一角で、奇妙な頭のデカい生き物がねじり鉢巻きで、ハリセンを机に叩きつけながら道行く人々に盛んに声を掛けていた。
「ちゅん助…」
「今日で5日目じゃないか、いつまでやるんだ?」
「…………」
いつもなら軽口が返ってくるところだが今回はそうもいかないようだった。
ちゅん助が机の上に並べているのは少し影があるが、銀色の美しい輝きを放つ水玉を模したアクセサリーのような物だった。
表面にはちゅん助の顔を模した刻印が打ってある。
本人は可愛いつもりらしいが…正直あまり趣味が良いとは思えなかった。
「なぜかお…なんで一つも売れんのかお!」
ちゅん助が机の上で苦悶の表情を浮かべる。
「いや、お前さあ…あの道具屋の話、ちゃんと聞いてた?」
ちゅん助がこんな商売じみた事をしてるのは、この街の道具屋で話を聞いた事が原因であった。
「ギルドレ、シルドレについては大体わかったお!」
「まあ大金がギルドレ、小銭がシルドレ、そんなところだな」
「ここではギルドレはシルドレの30倍の価値があるんだなお?」
「どこでも一緒さ」
「遠くの国に行ったら比率が違うとかないのかお?」
「バカ言うなよ?おちびさん」
「そんな国があるならこっちが教えてもらいたいね」
あくまで見た目的にだが、ギルドレは黄金の輝きを放つ金で、シルドレは白銀の輝きを持つ銀だったが、どの世界でも価値観は似たようなものだと感じる。
道具屋が言うには、ギルドレの輝きは半永久的に対して、シルドレは時間と共にくすむことがあるらしく両者は性質上からも金と銀で間違いなさそうだった。
「やっぱここらで手に入る物で一番高価なのはギルドレなのかお?」
「まあそうだな一般人、そういう括りではそうかもしれんな」
「一般人じゃなかったら、なんかあるのかお?」
「まあそこいらの人間じゃめったに手にすることがないもんだが、ブシルドレってのがある」
「なにかお?ブシルドレ!シルドレの親玉みたいな名前だお!」
「ああブシルドレってのは見た目はシルドレと見分けがつかねんだわ」
「見た目が同じなのに?なんで高価なのかお?」
「ああ、シルドレは時間が経つとくすんだり、黒ずんだりすることは話したよな?」
「だお、対して見た目の美しさとギルドレの輝きは不変だから価値が高いんだお?」
「そうさ、ブシルドレはシルドレと見た目が同じなのに、その輝きは永久に不変なのさ」
「ブシルドレってのも永久不変なるシルドレって意味さ」
「なるほどだお!」
「おまけにブシルドレは獲れる量が圧倒的に少なくて、宝飾品としての加工を施すのにも」
「ギルドレが簡単に加工できるのに対してブシルドレは相当な職人の腕が必要なのさ」
「この二つの特徴が合わさって世間一般の住人では手が届かない代物になってるってわけさ」
「おおおお!」
ちゅん助の目が輝いた。
堅実で定期預金しか資産管理をしていなかった俺と違って、ちゅん助は自称グローバル投資家で元の世界では色々な金融商品や聞いた事もない様な国や商品に手を付けていたらしくて食い入るように話を聞いていた。
あまりに熱心すぎて、俺は少し不安になった。
「ちゅん助、この世界じゃ貴金属とかあんま役に立たないぞ?」
「この街では適当に狩りを行ってグソクが大量発生してるガリンで稼いだ方が効率良くないか?」
とは言ったもののガリンでのグソク大量発生による経済効果は、隣街であるここアクリムの方が恩恵を受けているらしく、肥料用となるグソクの死骸を運ぶ運送業者や、ガリンにグソク狩りのために向かう冒険者の中継点として空前の活況を呈していた。
この街周辺でもある程度のグソクは発生しているもののガリンの様に対処に困るほどの量ではなく、その意味ではここアクリムが最も恩恵を受けているといっても良さそうで、そのため道具屋をはじめとした市場は毎日人の行き交いで溢れていた。
またアクリムは街の中央に大きな湖があり、観光名所として昔から栄えており、湖のお陰で水の精霊を司る教会が建ち信者が訪れる場所としても有名で、アリセイとは比べ物にならないポテンシャルがありそうだった。
「イズサン!この話面白くないのかお!すこし黙っててくれお!」
ちゅん助は俺の進言には全く耳を貸さず、道具屋との会話に夢中の様だった。
「おやっさん!こっからが重要だお!こっからが!」
「ブシルドレに似た金属は取り扱ってないのかお!」
「シルドレともブシルドレとも違う」
「似て非なる最強の貴金属があるはずなんだお!」
「お前なんで決めつけてんの?そんなの…」
「ほう、おちびさん、良く知ってるな!」
(あるのかよ!?)
そんなのねーだろ、そう言いかけた俺は意表を突かれ慌てて口籠る。
ちゅん助は道具屋の答えに対して前のめりになって耳を傾けている。まるでそんな金属があると知っているかのようだった。
「まあしかし…あるにはあるがそいつはちと系統が違うぜ?」
「どういうことかお?」
「おちびちゃんが言ってるのは多分アクリムリウム、この街の名前の元になったもんだぜ」
「ほう!ほう!凄いお!街の名前になるなんてラスボス感あふれる凄い奴じゃないかお!」
「いやところがだ」
「なにか問題でも?」
「いや問題って程じゃねえが、おちびちゃんが期待してるほどの価値は…」
「まるでねえ…」
「は?街の名前になってるくらい、すごいんじゃねーのかお?」
期待に溢れていたちゅん助の顔が落ち着きを取り戻したのか、冷めてしまったのか、がっかりしたような真顔になった。
「ま、確かにありがたいっていうか、加護があるというかそんな物ではあるがよ」
「いかんせんシルドレですらくすんだり黒ずんだりする性質が値が低い一因なのによ」
「アクリムリウムは採掘されてから3年とたたずに灰というか塵というか少しずつではあるが、儚く崩れちまうのよ」
「ふぁふぁーん(←泣いている音)」
「アクリムリウムなんですぐ死んでしまうん?」
「まあ一説にはこの金属は水の精霊が好んで宿るため、その加護を受ける代わりに少しずつ輝きを失っていくってのが言われてるがな」
「崩れていくのが分かってる金属なんか価値が無いと?」
「無いとまでは言わねえが水の精霊が宿るつったってよ」
「このアクリムにはでっけえ湖と水の教会があってその加護の中、暮らしてるんだ」
「わざわざそんな金属欲しがる奴はいねーわな」
「産出量はブシルドレと変わらねえほど少ないらしいんだが需要が無いんじゃあ」
「価格はただみてーなもんよ」
「砂漠の街なら水の精霊はありがたがられるかも知れねえが、そもそも水の精霊が居付かないから砂漠なんだ」
「アクリムリウム持って行ったところで居付かないんなら無駄なだけさ」
「需要は無いのかお!」
「まあ買い取ってるのは教会くらいなもんさ」
「街の名前を冠した金属を無碍に扱うわけにもいかず精霊の像やらなんやらを作っては祭ってるのさ」
「3年たたずに崩れちまうから毎年毎年新しい像を作ってるが加護を得るためってよりは」
「鉱山業者や加工業者、鍛冶屋や彫刻家に仕事を回すのと」
「街に来る信者や観光目的の連中に新しい像をお披露目する」
「実の所、そっちの方が目的だろうよ」
「なかなか上手いこと考えたなお」
「この世界でも公共事業みたいなのがあるんだな、ちゅん助」
「まああれだ、水の精霊の加護を受けた街だ、100年以上火事どころか小火騒ぎすら起こってないんだ」
「そんな街に住んでたら、金属に水の精霊が宿るつっても有難味なんか感じないってのが、なんとも皮肉だわな」
「………」
ちゅん助の目がギラギラと輝いた様な気がした。
爆・斬突を思いついた時もそうだったがこういう顔をしている時のちゅん助はなんか危なっかしい。
「なるほどのうwなるほどのうw」
不気味にちゅん助が呟いた。
第三話
その2 ギルドレ、シルドレ、ブシルドレ…そしてアクリムリウム
終わり




