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更新停止中 イズちゅん  作者: ちゅん助の!
第三章 湖の街アクリム
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第三話 その1 パラジウム事件

第三話 その1 パラジウム事件


 パラジウムという金属をご存じだろうか?


 20年前は世間一般では認知されていなかったこの金属は、当時プラチナの影などと言われたりもした。


 見た目はややプラチナよりうっすらと黒みがかっているので、そんな風に呼ばれたかもしれない。


 しかし、銀、プラチナ、パラジウムを見た目で判断できる一般人はまずいないしパラジウムという金属自体、存在がマイナー過ぎて、当時は世間の人間には見向きもされなかった物だ。


 しかし、近年の環境問題から自動車の排ガス規制が厳しくなると、プラチナと共に排ガスの浄化触媒に使用されている、という事実がクローズアップされ、にわかに注目を浴び始めたのだった。


 さらにそれを決定的にしたのが、欧州でのドイツの自動車会社によるディーゼル排ガス不正事件だった。


 プラチナとパラジウムはその性質による違いからプラチナは主にディーゼル車、パラジウムはガソリン車と、活躍の場が違った。

 

 日本の、我らがアルザス自動車のガソリン車ベースに搭載されるハイブリッドシステムにとても敵わぬ!と見た欧州メーカーはこぞってディーゼル車へと開発をシフトしており、アルザスのハイブリッドはガラパゴスと称され恐らく政治的な理由で意識的に欧州では主流と見なされなかった。


 逆にディーゼルはこの世の春を謳歌し必然的にプラチナの高値は続いた。


 しかし、ディーゼルの排気ガス問題は技術的な問題と使用する軽油の品質の問題もあって逆に欧州の空を著しく汚染したのだった。


 そんな中で起こったドイツ車のディーゼルの不正事件は、その後のディーゼル車とガソリン車との力関係を覆すまでの大問題へと発展し、ガソリン車の隆盛に伴って、今までプラチナの影であったパラジウムは一躍主役の座に躍り出る事となった。

 貴金属と見なされていないような値段で放置されていたパラジウムと貴金属の王様扱いだったプラチナ、両者の価格差は逆転するにとどまらず、パラジウムの価格はついには金の価格までも抜きさって、身近な貴金属の中では最も高価な貴金属の座まで登りつめた。


 その価格は、私の記憶では20年以上前は1gたった300円程度だったのに対し、一時8000円を超える価格だったはずである。


 しかし思い返せばプラチナは金よりも産出量が少ない事から金の3倍の価値がある、そんな風に言われていたのに今では金の半分ほどの価格を付けるのみで貴金属と言えど流行り廃りがあるのだと思い知らされる。


 話をパラジウムに戻そう。


 アルザス自動車と欧州メーカーのガソリン車とディーゼル車の代理戦争でもあったパラジウムとプラチナの触媒対決は、この時点でパラジウムに軍配が上がり、価格も遥かに上回り一躍主役の座に躍りでて名を馳せたパラジウムであったが、日本ではその昔、ある事件で一躍名を馳せた事があった。


 それが悪名高きパラジウム事件である。


 前述した通り排ガス浄化のための触媒として使用されていたパラジウムは今ほど環境に厳しくない時代、それほど重要視されずほぼ無名の金属であった。


 しかし、景気拡大に伴って自動車の増産に次ぐ増産の時代が来ると少しずつではあるが値を上げていった。


 そんな時代を象徴するかの様に日本の工業品取引所でもパラジウムが先物取引として取り扱われる事となった。

 

 先物取引は原則、実物を取引するための市場であるはずだった。


 しかし


 儲けさえすれば良い!そう考える投資家は後を絶たない、その背景どころかパラジウムが何に使用されるか?それすら知らないのにチャートしか見ないタイプの個人投資家が、そのやや急に見えたパラジウム価格の上昇をチャンスとみて空売りを仕掛け、そのポジションをどんどんと膨らましていったのだった。


 売りが成立する、という事は買い手がいる、という事である。


 彼らは知らなかった、自分達が売りを仕掛けるその対面で買っている連中がどんな勢力で何のために買っているか?という事を。


 取引所で行われる先物取引にはそれまでの損益を確定する差金決済という取引の他にその商品自体を買い手に渡す現受け、受け渡し決済とがある。


 取引所を通じて個人投資家の対面で買っていた勢力はこの現受けが狙いだった。


 だんだんと短期的にパラジウム価格が急騰する中、投資家達はこのような急激な値上がりはいつまでも続くはずはない!と欲に目がくらみ空売りのポジションをどんどんと建てていく。


 しかし、買い手はあくまで現受けが目的である。


 パラジウムを売り戻す気など毛頭なく投資家達の売りをどんどんと吸収する形で次々と買いが入り、耐えられなくなった投資家達の損切の買いも巻き込んで、相場はなおも上げに上げていく形となった。


 投資家達が入れたのが


「買い」


であれば相場が逆に動いたとしても被害はまだ少なかったはずだった。

 何故なら買いであれば商品の価格がゼロ以下にはならないためゼロとなった時点で最大損失がそこで確定するからだ。

(もっとも近年起こった原油価格がマイナスを付けたのは、膨れ上がった原油の現物在庫の置き場を確保するコストがかかるためにマイナスを付けたのだが、それでも数日で収まった)


 だが彼ら投資家達が入れたのは


「売り」


であったのだ、価格が上がれば上がるほどに歯止めを掛けられる事なく損失は青天井となっていく。


 現物が欲しいベールに包まれた謎の買い手は、売り戻すつもりなどは毛頭もない、投資家達が買い戻したくとも、売り物が出ない以上、買い戻しができない状況となっていった。

 

 パラジウムが何なのかさえも知らない個人投資家に、パラジウムの現物など用意できるわけもなく、いよいよ個人投資家達が売り建てていたのはパラジウムでなくもはや自分達の命であった、先物での借金の自己破産は認められない以上、首を吊るほかは無かった。

 

 ボクシングで言えば、完全にノックアウトされているのにレフリーがカウントを取らず殴り続けられている状態だった。


 いやこの場合、レフリーは居たのだが、ルール上全く正当な戦いであったため、止めるわけにはいかず見て見ぬふりをするほかは無かったのだ。


 しかし無能なるレフリー、商品取引所自体の責任が問われかねない事態となった時、突然、取引所は自らがルールを破って両者に強制決済を押し付け、この戦いはようやく終息するのであった。

 

 地獄に落ちた投資家達は取引所を通じて、相手にしていた買い手の正体は誰だったのか?


 それはハゲタカファンドや投資銀行のアドバイスを受け、日本の商品取引所で扱うパラジウム現物の総量を遥かに上回る取引金額が飛び交っている矛盾に目を付けたアメリカの自動車メーカーであった。

 

 投資家達、彼らはその事実を知る事なく、あの世へ旅立ったのだ。


 単なる個人投資家の集まりと超大国アメリカの一大勢力、両者の思惑が真逆であれば、用意出来る資金量は天と地、結果は火を見るより明らかだった。

 最初から、勝負はより悲惨な結末を迎えるものと決まっていたのだ。

 

 金も銀もプラチナも、そしてパラジウムも人類誕生以前からこの世に存在し、その性質は少しも変わる事なく存在し続けている。


 変わっているとすれば、それらに価値を見出した人間が価格を上げ下げしているだけに他ならない。



 第三話 

 その1 パラジウム事件

 終わり

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