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プロローグ  その2 立ち上がる巨大な影

プロローグ その2 立ち上がる巨大な影


「こ、これはイズサン…死んだお!」


「うう…」


 ちゅん助が漏らした絶望の声に応える事も出来ず、今駆け抜けて来た道に活路を求めて振り返ると退路を断つように群影が走った。青グソクの集団であった。


「こっ!これって!」

 

「罠だったか!」

「罠だったお!」

 

 ほぼ同時に二人が悲鳴にも似た声を上げた!それは自分達が追い込まれた危機的な状況を嫌でも理解した瞬間でもあった。恐怖で一気に身体が強張るのを感じていく。


 灰グソク達は先程までは全く統率なく個別に蠢いていただけだったはずなのに眼前を埋め尽くす大集団のグソクはキキキ、キキキと笑い声にも似た不気味な鳴き声を発し、殆どの個体がこちら側を向いて迫って来ていた。

 

 同期するかのように後方の集団も青の一群を先頭に退路を完全に塞ぐ形で密集陣形を取り始め、まさに行くも地獄引くも地獄の様相を呈し始めている!

 

 灰が統率なく動いて弱過ぎたのも青が即座に後方に下がっていったのも赤の体液を剣に付着させてしまったのも、その全てが、その全てがこの状況に追い込むための布石!


 罠だったのだ!


 よくよく考えれば黄との交戦前は一旦は隊に引き返すことに俺も同意していたのだ。それが黄色を倒した途端、急にハイになってしまって…そう!あの甘い匂い!そう!あれもあの匂いに人間を興奮させ冷静な判断力を奪う様な麻薬成分みたいな効果があったとしたら…恐らく、恐らく…いや間違いなく…








 

 全ては罠だったのだ!!!








 

「あかーん!」

挿絵(By みてみん)

 ちゅん助が悲鳴を上げた。


「と、とにかく、強引にでも隊の傍まで進まなくては!」


 躊躇する暇は一切無かった!前に進んでも後ろに戻っても、いやそれすら危険であり困難で状況は絶望的に感じたが、もし前後どちらかに可能性があるとしたら、隊からの救援が来るかもしれない前しかない!俺達の姿が見えない事に誰かが気付いてくれているかもしれない事だった。


 しかし仮に救援を差し向けてくれていたとして、これだけ膨大なグソクの大群を掻き分けて自分達までたどり着いてくれる者が居る!などという考えは希望的観測を超えもはや妄想のレベルだ…


 さらに進むしかない!そう決断せざるを得なかったのにはもう一つの理由があった。

 

 ゴゴゴゴゴ!

「ギィーギギギギ!ギー!」

 

「な!なんの音だ!」


「分からんお!分からんけど後ろは特にヤバい雰囲気がしまくりだお!」

 

 言われて振り返ると土煙に巻かれ、土埃にまみれて鮮明な姿は見えないが他のグソク達と比べて明らかに巨大過ぎる影が土煙の中で立ち上がりつつあるのが見えた。ギギギという異様に低い音はまさか鳴き声だろうか!?他のグソク達の鳴き声とは比べ物にならない重低音が腹に響き恐怖の狂想曲となって増々自分達の置かれた状況の不味さを刻み付けられる!

 

「と、とにかく!ヤバい予感しかしないお!後ろは絶対ダメだお!ダメ!絶対!」

「強行突破するしかないお!」


「わ、分かってるよ!」

 

 ちゅん助の忠告は言われるまでもない物だ!俺も後方の恐ろしいまでのプレッシャーを感じているのだ!アレの正体は分からないがアレは絶対にやばい!直感がそう告げていた。

 

 バシッ!バシバシ!ドコッ!

 

 先程までとうって変わってグソク達は絶え間なく連続攻撃を仕掛けてくる。無残にも刃を失った剣ではライジャー流も何の意味もなさない。


 打ち付け、叩き、弾き飛ばすのが精一杯でどれほど力強く振ろうが倒すには至らないのだ。払いのけても打ち払ってもすぐにその体勢を翻し己の牙を突き立てんと次々襲い掛かって来る。


 グソクの波状攻撃の前に最早数m進むのも困難な状態となっていった。先程までは千匹以上倒しても息一つ切れぬ雑魚蟲だったのに、武器を失くした状態で統率の取れたグソクがこうも凶暴で恐ろしい魔物だったとは…

 




 この世界で知られる限りでは最も旅人や冒険者の命を奪った魔物



 

 全く実感が無かったその事実を、その意味を、身を以って思い知らされ恐怖で気がおかしくなりそうだった。

 

「あかーん!イズサン!死ぬ気で突破するお!はよう!はよーう!」

「あかーん!このままではイズサン死んでまうで!イズサン死んでまうで!」


 頭上のちゅん助がバタバタと他人事のようなことを言って暴れている。


「分かってるって!言ってるだろ!」


「いやあ~!イズサン死んでまうー!イズサンが死んでまうー!イズサンだけが死んでまうう~!」


「だけ!ってなんだ!お前!言っとくが俺がやられたらお前も死ぬんだからな!」


 車の運転の事と言い、この事態を招いてしまった振る舞いと言い、二度も友の命を死の危険にさらしてしまっている事に後悔と自責の念はあったが、あまりにも「イズサン死んでまうー!」を連発されると腹立たしく感じてしまう…


「いやいやいや?わしは死なんお?」


「は!?アホか!お前が頭の上から落ちたらアッと言う間に喰われちまうだろうがッ!」


「いやいやいや!喰われませんけどなにか?」

 

 ちゅん助の訳の分からない言い分は全く理解出来ない!彼の小さな体ではグソクの1匹ですら倒すのはまず不可能であるし、見た目に反してとんでもなく素早く動けるのだが、それでもこの大群の中を突破できるなどとは到底思えない!


 このグソク大群の海を突破するのはどう考えても不可能なのだ。にもかかわらず先程からイズサンが死んでまうー!と他人事の様に連発しているのはひょっとしたらちゅん助も死の恐怖に飲まれて錯乱しているのかも知れない。


 だが、俺としても、最早ちゅん助の血迷い事に付き合ってやるだけの余裕など無いのだ!

 

 ビキン!

「あっ!」


 もう何百匹になるのか?飛びかかってきたグソク達を剣で打ち付けた時、ついに剣が、その剣身が真っ二つに折れた!

 刃が毀れもはや金属棒に近かったが間違いなく生命線であったこの剣が折れたのだ!


「あっかーん!!!」


 この世の終わりとばかりにちゅん助が悲鳴を上げる!


「逃げられんのか!?ぶ、武器はないのか?武器は?だお!」


「チッ!」


 この絶体絶命の状況下でちゅん助のセリフの元ネタが分かってしまう自分も自分であったがおかげで腰に差していた短剣の存在を思い出す事は出来た!素早く抜いて構える。しかし剣の長さが心許ない。

 

 長さは足りなくても剣は剣なのだ!「無い」よりマシ!


 マシなのだが…遥かに威力の低いこの短剣でどれほど持ちこたえられるというのか?


 直前まで刃の無くなった剣を思い切り振り回し、走り回ったおかげで疲労も蓄積して来ている…


「はあはあ!畜生!」


「しっかりするお!あきらめんなお!諦めたらそこで…」


「黙ってろ!」


 ちゅん助のセリフのその先のネタが容易に想像できついつい怒鳴ってしまった…が!もはや本当に相手にしてる余裕はないのだ。

 

 ザッ!

「ぐあッ!」


 右足首付近に浅いが鋭い痛みを感じた。ついに1匹のグソクが俺の足元を捉えたのだった!

 

 プロローグ

 その2 立ち上がる巨大な影

 終わり

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