第二話 その5 ちゅん助 剣術指南
第二話 その5 ちゅん助 剣術指南
「いち!」
「にぃ!」
「さん!」
「しッ!」
夕食と風呂を済ませた俺は、狭い部屋でトニーガに教えてもらった剣術の復習を兼ねて鍛錬に励んだ。
「ほうほう!若者よ!なんの練習しとるかお?」
久々のベッドの上で、ちゅん助が興味津々で嬉しそうに飛び跳ねながら聞いてきた。
厄介なのでここは無視だ…
「ご!」
「ろく!」
「しち!」
「はちぃッ!」
最速!
最速の突き!
とにかくまずこれを練習するのだ。
「なかなか様になっておるではないかお!」
「ピンポンダッシュのための突きはw!」
「ちげーよ!」
いけない…うっかり相手してしまった、いけないいけない。
まあ無視するのも可哀想だ、適当に相手してやるか。
「お前も見てたろ、あの人のライジャー流」
「俺のは全然だと分かったから今後に備えて練習してるんだよ」
「ふーん?」
「分かったら邪魔するなよ?」
「ほうほうそれは、らくだクラブで言うところの押すなよ?」
「押すなよ?絶対に押すなよ?…的な?」
「ちげーよw!」
「聞いてただろライジャー流は突き主体、最速の突きこそ生命線だって!」
「だからこうして鍛錬してるんだよ」
「ふーん、あ、そう…」
ちゅん助はそうつまらなそうに答えると、暫く黙って俺の練習を見つめていた。
「………」
「最速の突きねえ…?」
「なんだよ?」
「気付かなかったけど言われてみたら簡単な事実だろ?」
「どう考えたって切りつけるより突く方が速い!」
「お前もボクシングの薬師堂がー!直線がー!って言ってただろ?」
「まあ一般的にはそうだが…?」
「一般的?」
「あのおっさん嘘ついとるな…」
「は?」
「お前隊長の事悪く言うなよ!」
「おーおー隊長にほだされてまって!恋は盲目だなお」
「ホモかおw?これから同室はお断りしたいおw」
「あほか!」
「人獣にとどめを刺した最後の攻撃、イズサンも見とったお?」
「当り前だろ、あの突き、凄かったろ!軌道が全く見えなかった」
「…………」
「なんだよ黙って」
「ぶわーはっはっはw!草だお草!」
ちゅん助は楽しそうにベッド上を転がりながら笑い転げた。
「なんだよ喉元に突き刺さってたじゃねーか!」
「剣がこうズバー!っとよ!」
「ぶわーはっは!」
「あれが突きだとか言ってる時点で!」
「貴様とわしの戦力差は決定的なんだおw」
「観察眼の性能が戦力の決定的差であることを教えてやるお!」
「わしの邪輪眼は全てを見抜くお!」
(ま~た、始まったあ~…)
「あーそう、はいはい、お疲れさまでしたー」
「ズコオオオッー!?」
ちゅん助はてっきり俺が話に食いついてくる!と思っていたのか、簡単にあしらわれて奴はベッドの上で大げさに両脚を投げ出してずっこけた…
「まつお!」
「なんだよ!?」
「ここは、なにぃッ!(キャプテン翔風)」
「あの攻撃にどんな秘密が!つって食いついてくるところだろうお!」
「お約束は守らんといかんのだお!」
「プンプン!」
「何の約束だよ…」
ちゅん助はすっかり不貞腐れてしまったが適当に相手してやらんとこの男は執念深く非常にしつこい、そして拗ねる…
ここは大人の対応で望み通りノッてやるとするか…
「なんだってー(棒)隊長の最後の攻撃にそんな秘密が!」
「まだなんも言ってないお?」
「お前…せっかく、俺が…」
情けをかけた俺が馬鹿だった、思わずそう思ってしまう…しからば。
「あの恐るべき剣技、その正体は!その正体はだなお!」
「ちゅん助~小腹が空いたな~」
「ズズコォオー!?」
ベッドの上で再びちゅん助が、より高くずっこけると後頭部から落ちた。
「きさま!」
「こっから核心に入るのに!大人しく聞けおw!」
「お前の真似しただけじゃねーか」
「練習中なんだ、さっさと話してくれめんす~」
「おにょれ~!」
ちゅん助が怒りでブルブルと震えているw
なんだかおもしろいww
「とにかくアレは突きではないお!」
「なんだって~(棒)」
「げに恐ろしきは奴の剣技よ、アレは…アレは…」
ちゅん助が急に神妙な顔つきになって呟いた。ひょっとして冗談でなくてホントにあの攻撃になんか秘密があるんか?
思わずそう思ってしまう。
「アレは…」
「あれは…?」
「アレは…」
「……ゴクリ」
「アレはのう……」
「おお‥‥‥‥」
「アレは!」
「………………続きはCMの後!」
「アホかーい!」
スパーン!
思わずちゅん助の頭をはたいてしまった。コイツこれがやりたかっただけだろ!
「いたいお!なにするお!」
「もったいぶりやがって!練習の邪魔したいだけだろ!」
「今から言うつもりだったんだお!」
「あわてんぼうめ!」
「アレはな!」
「続きはウェブで!」
「とか言ったらもう一発食らわすからな?」
「……コマーシャルの後はスポーツです!」
「……人のネタを先取りしないで欲しいお…」
(やるつもりだったなコイツ…)
「言わないなら練習の邪魔するな!」
「待つお待つお!」
「アレはラピッドファイアソードだお!」
「は?拳銃?」
「‥‥‥‥なに、それ?」
「簡単に言うと居合斬り、抜刀術だお!」
「簡単にってお前、無茶苦茶な英語使うなや」
「それに抜刀術だあ?」
「だいたいそれって剣が鞘に収まった状態から繰り出す攻撃だし」
「俺らが使ってるの両刃の直剣だぞ!」
「抜刀術ってのは日本刀の反りがあって!」
「それを鞘で滑らせて剣速を加速させるんだろ!」
「それくらい知らんと思ったか!」
「残念!」
「ちゃんと知ってました!」
「斬りぃ!」
「ほう?だったら!」
「最後に人獣の頭が真っ二つに割れたの、どう説明するお?」
「!?」
確かに!
確かに言われてみればトニーガが人獣の喉に剣を突き刺した後、人獣の頭が真っ二つに割れたのは俺も見た。
単なる突きではああはならない…確かに説明できない。
まさか!
本当にちゅん助は俺が見えてない技の秘密が見えていたのか!?
「おかわり頂けただろうか?」
「おわかり、な」
「だお」
まあいい、悔しい気もするが何か剣の上達に繋がるなら素直に聞くとしよう。
「直剣で鞘もなくどうやって?」
「まあ聞けお」
「じゃあイズサンの知ってる日本刀での抜刀術」
「片手で抜刀!即!斬!」
「の設定でわしに向かって、ゆっくり構えから繰り出してみろお?」
「分かった」
俺は剣を鞘に収め左手に持つと腰を落として柄に右手を掛けた。
「構えはこんなもんかな?」
「うむ、では斬撃を繰り出してみせい」
言われた通り右手で剣を抜きゆっくりと、バックハンドの横薙ぎの斬撃を繰り出しちゅん助の右頬の前寸前でピタリと止めた。
「では、次は今の軌道を、逆にたどって剣を戻してクレメンス」
「逆に?こうか?」
言われた通りの軌道をたどって、剣を鞘に収め再び斬撃を繰り出す前の腰を落とした構えに戻った。
「すとーっぷ!」
「いや止まってるし」
「今この時、剣の刃は上下どちらにあるかお?」
「刃?どっちにもあるだろ?両刃だぞ?上下ともあるに決まってんじゃん」
「あほー!」
ぱかーん!
今度は俺が頭をはたかれた。
「日本刀での設定だって言ったお!」
「おまえは逆刃刀使いかなんかかお?」
「厨二病がスギやしませんかねえ?」
「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんかあ?」
「手遅れの患者が居まーす!だお!」
「お前に言われると屈辱だわ!」
「で、改めて聞くお!どっちにあるお?」
「うーん?」
剣を抜き差ししながら、俺は考え答えた。
「下だな!刃は下向いてる、そうだろ!?」
「ぶわーはっはっはっはっは⤴♪」
「ぶわーはっはっはっはっは⤴♪」
ちゅん助が愉快そうに馬鹿にしたリズムで笑った。
「な、なんだよ?」
「おまえそれでも日本男児かお?」
「刃が下とかそんなん許されるのは中学生までだおね~♪」
「なんだよ下向きに反りがあった方が落ち着くような気がするんだが…」
「ぷぷwだお」
「そこが貴様の限界だお、いいお、おしえてさらしけつかったるわ!」
「なにその言葉遣い」
「ええか?」
「じゃあ刃を下向きで、抜刀即斬もいっかいやってクレメンス」
「ああ」
言われた通りに俺は抜刀して刀を横に振るって再びちゅん助の手前で止める。
「いまの斬撃の種類はなにかお?」
「良く知らんが斬り払いとか?横薙ぎって奴かな?」
「だお、ではわしがこの位置に居たらどうなるかお?」
ちゅん助は丁度俺の目の高さの位置にある棚まで移動した。
さっきはベッドの上にいたから腰の刀の位置とほぼ同程度の高さに居たが今度は刀の位置よりかなり高い位置だ。
「どうって、そりゃこうなるな」
俺は刀を抜くと左下からちゅん助の位置まで右上に斬り上げるように刀を振ってまたちゅん助の手前で止めた。
「その斬撃は?」
「斬り上げ?とかいう奴?」
「だお」
「で?」
「そういう事だお」
「なにがそういう事だお!だ!全く分からんぞ!」
「嘆かわしい!嘆かわしいお!」
「日本男児!」
「我ら日の出る国に生まれ落ちた時から好むと好まざるとに関わらず!」「てんのーへいかの侍なのだお!」
「その血をもってしても!この程度の理屈が理解できんとは‥‥」
「ちゅん助さ~ん、そういうのいいから…」
「まあいいお、分からんなら次は刃を上に向けて構えてほしいンゴw」
「分かりましたンゴ!」
ちゅん助は棚から降りて再びベッドの上、最初の位置に戻ってきた。
「構えて!」
俺は言われるがままに刃を上に向けた!というテイで構え直し剣の柄に手を掛けた。
「!」
「ふふふw」
「気付いたようだなイズ刀斎!」
「貴様の中に流れる人斬りの血がそうさせたのだ!」
「こ、これは!」
「イズ刀斎!貴様に私怨は無いが幕末最強の証!」
「それを手に入れるため貴様にはここで死んでもらうッ!」
「って分からんて!」
「ズズズコッコォッー!」
今度は盛大に空中で後方一回転しながらちゅん助がずっこけた。
「だんだん悲しくなって来たお…」
「なぜわしに若くて丈夫な肉体を授けなかったのかッ」
「神よ!罪だお!ならば神とも戦うまでお!」
(いつもながら大げさな…)
「話題かなり逸れてきてねえか?」
「だまるお!」
「言って分からんならやって見せ!ほめてやらねばバカは動かじ!」
「でもお前、刀持てねーじゃん…」
「だまるお!」
「いいから刃を上!のイメージで!斬り込んでみせい!」
ちゅん助に催促されて言われた通りに構えると再び右手を剣に掛け斬撃の軌道をイメージしてみる。
(刃が上だからこう…柄を握って刃を斬り付けに持っていくには手首をこう立てて…!)
「!」
「イズ刀斎…」
「それはいいて!」
「なるほどそういう事か、ちゅん助!」
ここに来てようやくちゅん助の言わんとしている事が分かってきた。
「こうだろ?」
「そうだお!」
俺の刀は抜刀後、半円を描く軌道で左上から斬り下げの軌道で
刀をちゅん助へと向かわせた!
「わしがここなら?」
さっきの棚にちゅん助が再び登ってそれに向けて抜刀!即!斬!
高い位置の相手に対しても、刃が上のこの構えなら自然と左上からの斬り下し軌道になる!
「だおだお!」
ちゅん助がようやく我が意を得たり!とばかりに棚の上で飛び跳ねた。
「ええか?イズサン!刃が下の場合」
「人間の手首の可動域から斬撃はどう頑張っても斬り上げから切り払い横薙ぎがいいところ」
「斬り下げに持ってくには、複雑な軌道を通すか構え直さねばならん!」
「対して刃が上の場合!」
「相手がどの位置に居ても!斬り下げで攻撃することが可能だお!」
「斬り上げと斬り下げ、もし両者の斬撃が互角の力で激突した場合!」
「重力に逆らった一撃と重力を味方に付けた一撃!」
「万物は全て上から下に流れる!」
「斬り下げが撃ち勝つのが道理だお!」
「な、なるほど!!!」
「ちなみにお金だけは下から上に吸い上げられるお!!!」
「それはいいから…」
「さらにッ!」
「刃が下にある場合の手首の運びは斬り払いでも斬り上げでも可動域は40度がいいところ」
「それだけしか手首によって加速させられないという事だお!」
「これが刃が上だと刀がクルン!と回転する!」
「手首による加速は回転も加わって180度以上はあると思われるお!」
「重力と手首による加速!」
「それがあの隊長の一撃の秘密だお!」
「おお!」
悔しい!
悔しいがこの件に対してのちゅん助の説明は圧倒的だった。納得せざるを得ない…だが一つ疑問もある。
「たしかにお前の言う通り、感服したわ…」
「ただ隊長は鞘は腰に付けたままで使ってなかった」
「それでは抜刀術は成立しないのでは?」
「いいーしつもんですねえ~」
「もったいぶらずに教えてくださいよッ池下さん!」
ちゅん助も俺もここに来てノリノリである。
「たしかに隊長は鞘による加速は使ってなかったお」
「しかしあのバックハンドの一撃を繰り出すときは腰を落として」
「バックハンド側のテイクバックをより大きく取って」
「肩から肘、手首、腕全体を鞭のように使って剣を加速させてたんだお!」
「わしはあの技を斬突と名付けたお!」
「これまた安直な…」
「だまるお!」
「こっからがかっこいい所だお!」
「斬突には実は三種類軌道があるお!」
「まず一つはさっきイズサンがやったオーソドックスな軌道」
「左上から斬り下す軌道、これは斬突スライス!」
「………」
「次に抜刀後、軌道を完全に真上に持ってきて真下に斬り下す!」
「斬突ダウンザライン!」
「略して斬突DTL!」
「………」
「最後にさらに手首を捻って軌道を右上から左下への斬り下ろしに持っていく斬突逆クロス!」
「以上だお!」
「………」
「なにか?」
「お前、それ剣の技名じゃないよな???」
「なにも言わないでほしいお…」
最後は馬鹿々々しかったが…原理はちゅん助の言う通りに思える。ちゅん助恐ろしい子…
「お前剣術なんていつの間に習ったんだよ?」
「一切習っておりません!(渡部風)」
「この虚弱体質が剣術なんて疲れるもんやるわけなかろうがっ!」
「はあ…じゃあどこで?」
「ネット見ろ!(渡部風)」
「それかーい!」
「あと今の理論が合ってるかどうかなんて、知らんぞ!」
「ネットてえのもオタクどもが美少女フィギュアの刀の持ち方が云々議論してたの見ただけで」
「今、言ったのは全てわしの脳内設定と独自理論やw」
「感心して損しちゃった…」
「斬突!」
「使うのは構わんけど投資は自己責任やぞ?」
「投資じゃねーし…そんなダサいネーミング恥ずかしくて使わねーよ!」
「ちなみに、あの隊長さんが最後に放った一撃は斬突DTLやで」
「隊長にそのださいネーミング絶対言うなよ?絶対!」
「らくだクラブで言うところの…」
「違うわ!あほ!」
ちゅん助のとんだ茶番に付き合わされて貴重な練習時間が奪われたのだった…
第二話
その5 ちゅん助 剣術指南
終わり




