第一話 その9 秘技!高速手のひら返し!
第一話 その9 秘技!高速手のひら返し!
ちゅん助の言い分も分からんではなかったが見ず知らずの相手といきなり戦うとか!襲うとか!ありえない…
俺は馬車の乗り手に出来るだけ笑顔で出来るだけ大きな声でしかし怒鳴りの成分が無いように慎重に気を使い手を振って近付いた。
馬車の操者は老人だった。良かった老人ならばリスクの度合いは遥かに下がるはずだ。
老人は俺達に気付くと少し驚いた様子ではあったが馬を止めた。
「あんたら見ない顔じゃが、どこから来なすった?」
見知らぬ土地で老人が呼び止められたら返すだろう言葉のナンバーワンを返してきた。
「あ、あの実は俺、道に迷ってしまって…」
「じいちゃん!町まで送ってくれお!あとわし腹が空いたんだお!死にそうだお!」
「ば、バカ!お前!」
ぬかるな!とか覚悟はあるか!とか大そうな事を人に問うておきながらいきなり飛び出して老人に話しかけたちゅん助に呆気にとられた。お前みたいな不気味な生き物にいきなり話しかけられたら警戒されるだろうが!
そんな俺の心配をよそにちゅん助が勢いづく。
「ふぁーふぁーんw(←泣いている音)あいつ飯くれないんだお、わし虐められとるお、助けてクレメンスw!」
いつの間にか馬車の上に駆け上って老人の元に駆け寄ったちゅん助が老人の腿あたりに体をスリスリして如何にも甘えた声を出す。なにが対人戦無敵だ!殺す覚悟があるか?だ!甘える気満々じゃねーか!
老人は怪訝そうな顔をしていたもののちゅん助がすり寄ると、如何にも困った奴じゃわい、そんな感じで表情を緩めた。
「こ、こら!いい加減なこと言うな!俺だって食事してないだろ!」
「ふむ、お困りのようじゃな?」
もはや駆け引き無しで正直に答える他はない。
「はい、とても…とても困っておりまして、途方に暮れております…」
「わしら!わしらは!じいちゃんに見捨てられたらわしら餓死なんだお!」
再びちゅん助が甘えた声を出して老人の太股辺りに自らの体をスリスリと擦り付けている。
「みゃーんwゴロゴロwww」
老人の座席付近にいたちゅん助はあっと言う間の早業で老人の膝の上に登り猫目猫耳を生やさんばかりの勢いでさらに甘えまくる。
「こら!お前、失礼な事すんな!すいません今捕まえて引き離しますんで」
「みゃーん!わしはここがいいおw」
「いいわけあるか!図々しいにもほどがあるだろ!」
あまりの失礼ぶりに見かねてちゅん助を捕まえ引きずり降ろそうとした。
「ほっほ、まあいいではないか!」
老人はちゃっかり膝の上に陣取っているちゅん助の頭を撫でながらまんざらでもなさそうな声で言った。
ちゅん助の失礼すぎる態度に老人が怒っているのでは?と心配したが表情と声からはこの不思議な生き物が懐いてきて逆に嬉しそうな感じすらありホッとした。
「はあ、全くすいません…そいつときたら馬車が見えたときはどんな人物が乗ってるか分からないから油断するな!みたいなことをほざいてたくせになんとも調子のよい…」
「は?おまえなに言っとるんだお?このいかにも温和なじいちゃんが悪党かなんかに見えるのかお?」
「お前が言ったんだろうが!」
「おまえは人見て法説けを知らんのかお?何事も臨機応変だおw」
「お前…後で覚えてろよ…」
あまりの調子のよさに俺は呆れた。
「ほっほっほ愉快な奴等じゃな。ところでほんとのとこどこから来なすった?ここらでは見ん顔じゃが?」
俺達のやり取りを愉快そうに眺めていた老人はまた質問してきた。
「え~と…」
俺は答えに詰まった。
「わしはちゅん助!こいつはイズサン!」
「そしてどこからと聞かれたら東だお!東の方から来たお!」
困った俺をよそにちゅん助が即答する。
「東、ュセッペ村辺りかの?」
「もっと遠くから!」
「はてュセッペより遠いとなると?」
「日本だお!日、出る国、日本から来たんだお!」
「バカバカバカ!ちゅん助!日本なんて言って!」
俺は慌てた。この訳の分からない世界で適当とホントの事織り交ぜて答えてせっかく警戒を解いてくれた老人にまた怪しまれたら元も子もない。
「にほん?はて聞いた事もない、よほど遠くから来なすったんじゃな?」
「遠いお!思えば遠くに来てしまったんだお…わしらはいつ玉手箱を開けてしまったのかお~w!?」
「話が違ってきてるだろ…」
何も考えてなさそうなあまりに適当すぎるちゅん助の受け答えに疲労感を感じて来た。
「まあいいわい、ここらでも日が暮れると何かと危険じゃ。色々と事情がありそうじゃがまあ町までは送ってやるとしよう、乗りんせえ」
「ふぁふぁーんw(←泣いている音)じいちゃん!そう言ってくれると思ったお、ゴロゴロw」
「ばか!ありがとうございます!だろ!まったく!」
「ふぁーふぁーんw(←泣いている音)じいちゃんお礼に心ゆくまでわしを撫でていていいんだおw」
「ほっほっほ、おかしな奴等じゃわい」
「すみません、そしてありがとうございます、本当に本当に助かりました」
老人は俺が馬車に乗ったのを見ると再び馬車を走らせた。
「ちゅん助とイズサンとやら、わしはジュセルじゃ、よろしくの」
「ジュセルじいちゃんほんとありがとうなんだお!」
「あの本当にありがとうございます。その、そいつ…引き取らなくても?」
「わしはここがいいおw馬を操ってるんだお!」
いつまでも老人の膝の上に陣取ってしたり顔で老人に撫でられている失礼極まりないちゅん助が気になった。馬を操ってるのはもちろんジュセルさんである…
「ほっほ、良いよ、良いよ」
「そうやでイズサン!わしの撫で心地は最強且つ最高なんやで!キリッ!」
「そういう問題じゃねえよ!馬鹿!!!!」
とことんまで図々しいちゅん助に思わず本気の罵倒の声が出てしまった。
「ほんとにすみません…そいつ…その、なんて言うか…」
不思議じゃありませんか?不気味じゃありませんか?得体が知れない生き物でないですか?なんて聞けばいいのだろう?思わず言葉が詰まる。
「ふーむ、フクロウの精霊成りかなんかじゃろう?」
「せいれいなり?」
「動物や鳥なんかの中には精霊が宿ると知性をもって喋るようなのがおると聞くでの」
「そうなんですか…?」
「わしは鳥じゃないお!あんな森の賢者と一緒に…いやバレたかおw実はそうなんだお!ほーほーw」
「いくらなんでもそんな頭だけが異様にでっかくて毛布みたいな毛生やした薄黄色いフクロウがいるかよ!まあ…フクロウは頭がデカいか…」
「ほーほーw」
あれだけ鳥じゃないお!とか言ってた割にはフクロウ設定が気に入ったのか、さっきの態度と言い!いつもの高速手のひら返しだ…
「ほっほっほ。まあしかし喋るといえば強力な魔物や人獣の中には話すものも居ると聞くでな、この世は不思議な生き物でいっぱいじゃて…」
「魔物!?人獣ですって!?」
第一話
その9 秘技!高速手のひら返し!
終わり




