第一話 その8 覚悟はあるか?
第一話 その8 覚悟はあるか?
「なんだ!何か見つけたのか!?」
「点みたいなのが!点が動いとるお!こっち向かってるかもだお!」
点というのは遠いからか?とにかく何かを見つけたらしい。ちゅん助の指す方向へ身を向け目を凝らす。
確かに、確かに何かがこちらへ動いている!程なく大きいものだと判別できた。
「馬車っぽい!馬車に見えないか!?ちゅん助!」
「馬だなお!引いてる!引いとるお!!!」
俺達は興奮を抑えられず確認し合った。
(助かる!?助かるかも!)
もやもやとした胸の中に一瞬で希望の暖かさが広がる。思わずその方向へ足を進めようとした。
「待つお!」
駆け足になりそうになる俺をちゅん助がやけに厳しい声で制した。
「待つお!イズサン、とりあえず脇の林の中へ入れ!」
楽天家のちゅん助にしては厳しい声に思わず指示に従ってしまったがなんなのだろう。
「なんだよ!?ちゅん助!待望の馬車だぞ!」
訳が分からず問いただした俺に意外な答えが返ってきた。
「覚悟はできてるかお?」
「覚悟!?覚悟って!?なんの?」
「分からんのかお?」
「だからなんの!?」
「確認しておきたいんだお」
「だから何の確認だよ!」
「最悪…人を殺す覚悟だお!」
「ッ!」
思いもよらぬちゅん助の答えに俺は絶句した。
「お前…なに言って…」
人を殺すとか冗談にも程がある。慌てて頭上のちゅん助を引きずり下ろし互いが見つめ合う形となった。
コミカルな顔をしてはいるもののちゅん助は真剣な様子で真顔だった。雰囲気的にも冗談を言ってる感じには見えなかった。
「覚悟はあるかお?」
再びちゅん助が言った。
「覚悟って…」
手の中でこちらを見つめている先程までちゅん助だった得体の知れない生き物に言い知れぬ恐怖を感じた。コミカルな姿が余計怖かった。
「お前、本当にちゅん助…なのか?」
「だお」
「だったらなんでそんな事を…」
真意が知りたかった。
「馬車に乗ってる奴が善人だという保証がおまえにはあるのかお!」
「そ、それは…」
なんとなくではあるがちゅん助の言いたいことが分かり少しホッとした。
「極端な言い方するなよ!」
脅かしやがって、そんな感じで言い返したがちゅん助にはふざけている様子が無く真顔なままだった。
「こっから人里までめちゃ遠くて馬車にも乗せてもらえず食料も分けてもらえない場合は?」
「乗ってる奴が悪党だった場合は?」
「人さらいかなんかで有無を言わせず襲ってきた場合は?」
「どーするんだお?」
確かに彼の言う事も一理あるのだがどれも仮定の話でそうと決まったわけでない。どれもこれも悪い想定ばかりだ。
「そうと決まったわけじゃないだろ?」
「そうなった場合の覚悟があるか、それを聞いとるんだお。KOされるか否か?それは打たれる瞬間の気合によって変わるんだお!」
「だとしても、できるわけないだろ!」
「殺さないとしても乗っ取るくらいの覚悟は?」
「いい加減にしろ!そんな人の道に外れたような事、俺はしないぞ!」
「そうかお…」
一瞬ちゅん助は考えた後言った。
「なら」
「いざとなったら」
「わしがやるしかないかお…」
耳を疑ったがたしかにそんな事を言った。いや、わしがやるしかないってお前その体で?
そんなツッコミ待ちだったのだろうか?
そんなやりとりをしていると程なく馬車は目前に迫っていた。
「覚悟は無いなお?」
「しつこいぞ!」
「戦えるのはおまえしかおらんのやぞ?」
「戦わんて!」
「やっぱいざとなったらわしが…」
「戦えんのと違うんか!」
「わし…多分生身の対人戦ならほぼ無敵で無茶苦茶強いで!」
「それはお前の設定上だろ!設定上!大体!その体で何できるんだ!」
「は?!この体だからこそやぞ?神が与えしこの体やから!」
「厨二設定はやめい!もう目の前だ!」
「ぬかるなお!イズサン!絶対に油断するな!」
「だから戦わんて!しっつこい!おーい!おーい!」
第一話
その8 覚悟はあるか?
終わり




