第八話 その7 かうんたっくを合わせろ!
第八話 その7 かうんたっくを合わせろ!
俺は痛む尻を押さえながら、周囲を探しアスリが手にしている木の枝と同じくらいの棒を拾いすぐさま彼女の元に戻った。
「はああ!?なに!舐めてる?舐めてるの!?」
俺が手にしている物が剣ではなく、木の棒だったのを見るとアスリが怒った感じで問い詰めて来る。
「いや!違う!違うよ!」
「だったらなに!?」
「えらそーに!その程度の腕で私と同条件で戦わなきゃ気が引けるとか!ちんけなプライドなわけ?」
「そうやぞ!イズサン!おまえ如きの腕ではどうやっても無理や!」
「ピストルでも使えピストル!」
「無理言うな!ないだろ!そんなもん!」
「いやこれは違うんだ!俺は人を斬った事なんてないし、俺の剣が君に当たるなどと思ってはいない!」
「でも、物事には弾みとか偶然ってのがある!」
「わしがアスリちゃんの身体に、何回も触ってしまったのも偶然と弾みの積み重ねだお!」
「わざとだろうが!」
「わざとでしょ!」
「わざとっぽう!」
「わざとぴゅう!」
「………」
「アスリ、君がどうこうってわけじゃあないんだ」
「とても当てられそうにない事は分かってる、でも万が一にでも当たってしまったらと考えると」
「心のどっかでブレーキがかかって全力を出せそうにない…」
「ふ~ん?あんた童貞ってわけだ?」
「どどど!童貞ちゃうわッ!」
「ドドド!ドウテイちゃうお!?」
何故か俺よりちゅん助の方が遥かに動揺して答えている…
「まあどうでもいいわよ!興味ないし!まあ負けた時の言い訳としてはそこそこね」
「違う!」
「言い訳をなくすための措置だ!」
「重たい剣よりこの枝の方が速く振れる!」
「少しでも勝ちを拾うためだぞ!!」
「ふーん!」
「案外考えてるわね?」
「時計塔広場でも実力に無いなりに頑張った結果が今だしね」
「そう言う事にしておいてあげるわ!じゃあ行くわよ!」
「クッ」
アスリが再び攻撃態勢に入ったのを見て、咄嗟にライジャー流で構える、彼女が攻撃態勢に入ったと言っても殆ど構えの様な構えはとらず、自然体で向かってくるだけなのだが、彼女の気迫と言うか空気が変わっただけなのだが!とにかく彼女の攻撃とその移動速度が速い!恐ろしく速い!速いなんてもんじゃない!
必死で突きの牽制で距離を取ろうとするのだが、すぐさま間合いを殺されて攻撃を受けてしまう!
こちらの攻撃は彼女が言ったようにかすりもしない!
ボクシングでよく瞬発力と動体視力に優れたアウトボクサーが相手のファイタータイプの台風の様な連撃をひょいひょい躱すシーンがあるが、あれを見てあんな近くの間合いでなぜあれほどパンチが空転してしまうのか?と不思議に思った事があるが、目の前で起こっている事を体感すると、当たらない理由が良く分かる。
もう彼女は俺の攻撃の初動!下手したら気配だけで、もう既に回避行動に入っているのだ!
何とかフェイントを織り交ぜ、当てようとするが、完全に読まれて引っ掛かる気配すらない!下手なフェイントを入れようものなら即座にカウンター…
逆にカウンターを狙って繰り出せばカウンターのカウンター…
カウンターを恐れて引き気味に戦えば、被弾の危険無し!と見切られより強い攻撃をバシッ!と当てられる始末だ。
ボクシングの試合なら打ち合いになれば相手がアウトボクサーでも互いに射程距離でのやり取りだからまだいい!
これが対アスリ戦となると、彼女は攻撃範囲からスルリと抜けてしまうし左脇や右後ろ真後ろ、俺の攻撃できない位置に簡単に入り込んでくるのだ!
アリセイでは少しの間トニーガに剣術の稽古をしてもらったが、彼が手加減しているからだろうが一応、剣と剣で切り結ぶことが出来ていた。向こうは剣の達人なのでどんなに全力で撃ち込んでも軽くいなされてコントロールされてしまっていたが、それでも切り結べるだけマシだった。
相手がアスリとなると衝突覚悟で身体ごとぶつける様に間合いを取りに行っても、どこにも触れる事すら出来ないのだ!
何て事だ!
神魔弓士は最強格の超長距離攻撃ユニットだから前衛の勝負ではひょっとすればなんとかなると思っていたのに!
一応前衛の筈の俺の攻撃がまさか、かすりもしないなんて!
事によると彼女は…まさか!まさかトニーガより強いのか!?
まさか!
「どう?これで分かった?」
「アンタがお願いしてることはね、私に最大の武器である超射程と言うメリットを捨てて」
「後衛専門である私より、遥かに弱い前衛のアンタに守ってもらう!」
「そういうおかしな話よ!」
「それで私達に一体、何のメリットあるわけ?」
「ハンデ以外の何物でもないわ!」
バシイ!!!!
「いてええ!」
またも強力な、しかも剣士にとって屈辱の背中への攻撃が決まる!抗う事すら許さずに、綺麗に入り続ける攻撃!
圧倒的!
惨めな程の実力差!
「うううッ」
痛みで思わず声が漏れる。
「さあ、諦めるかしら?」
「イズサン!諦めるなお!諦めるんじゃあねえ!」
「諦めたら!おまえだけそこで置いてけぼりだお!」
「アンタもよ!」
「ショボーン」
「ふーん?」
「案外しぶといのね、時計塔でもそうだったけどそこは認めてあげる」
「でも私も暇じゃないの、だから今日はこの辺で決めさせてもらう!」
再びアスリの雰囲気が変わった、空気が一層険しい!
(来る!)
圧倒的実力差を前に、惨めな事この上なかったがちゅん助の言う通り、謎の魔女の件もある…頼りになる仲間は俺としても必要なのだ!
魔女に殺される事を思ったら簡単に諦めるわけには行かない!
(ライジャー流の本流とは逆だが、ここはカウンターを狙うしかない!)
(フェイントでも牽制を入れても簡単に見切られて逆に攻撃を受けてしまう!)
(実戦じゃ使えないけど、幸いにも今は獲物は木の枝なんだ!)
(深い一撃を入れられても致命傷になりはしない!)
(ここは肉を切らせて骨を断つ!深くおびき寄せて一か八か!)
「イズサーン!カウンタックだお!カウンタックを狙うんだお!」
「そりゃスポーツカーだろ!あほ!」
「骨を断たせて肉を切るんだお!」
「逆だわ!アホ!じゃますんな!だーっとれ!」
出来るならとっくにやっている!と言いたいが、ちゅん助に言われるまでもなく、今出来そうなのはそれしかない!
アスリが距離を詰めて来た!
バックステップ→突き!
バックステップ→突き!
下がりながらの牽制の突き!
俺の後退速度より彼女の踏み込みの方が圧倒的に速い!
いくら頑張って牽制しても、3回目のバックステップの頃には完全に間合いに入られているだろう!
しかし!
そこが狙いだ!
3回目に間合いに入っている!そこで突きではなく薙ぎ!を繰り出せば攻撃範囲が広い分、当たる確率が高い!
そしてバックステップ中なら流石に真後ろに入られるとは考え難い!
さらにここまでは突きの後はバックハンドの薙ぎに繋げてあえて左を警戒し、わざと右側は開けて誘導してる(つもりな)のだ!
計画通りにバックステップで突きを2回!
3回目は!
計画通りの初めてのフォア!
右の薙ぎ!
これでも読まれて左に回られていたら終わりだが!
右!もしくは正面ならワンチャン!
「ここだあああ!」
シュパアア!
渾身の右フォア薙ぎ!
手応え無し!!!
(か!彼女は!居ない!どこだ!?まさか!後ろか?)
「!」
「し!したあ!?」
アスリは俺の右の攻撃を完全に読んでいた!
一瞬で視界から消えたのは後ろに回ったのではなく、地面近くに潜り込んでいたのだ!
渾身の一撃では軌道変更も制止もままならない!
枝が虚しく空を切り裂いていく!
この局面での下へ潜り込むという選択!
まったく俺の思考外!
いったい何枚上手なのだ!
「うう!」
アスリの攻撃に怯えた身体が思わず縮こまる!
しかし打撃が来ない!
アスリの顔が見えない!
見えるのは!
「せ、背中!?」
「うわあああ!」
何故かアスリの背中が見えた気がした、見えた気がしたのだがその瞬間、俺の身体は完全に重心を、いや地面を失って天地が逆さまに見えた…
ドシーーン!
「ゴホッオ!」
第八話
その7 かうんたっくを合わせろ!
終わり




