第七話 その14 黒幕
第七話 その14 黒幕
「勇者様…やはり」
「やはり貴方は危険な方の様です、大した実力もなさそうだった貴方が…」
「まさかあの核蟲をお倒しになるとは…」
「な、なんで…!?」
熱ッ!知らなかった…刃物で刺されると熱いんだ…薄れゆく意識の中で俺はそう思う…
はずだった!
「オイコラこのクソアマァア!」
「ワレはわしの大切な借子になにさらしてけつかっとんでくれとんじゃあ!ワレェ!!!!」
「な!?こんなバカな!?何故!?」
「コイツには8000万の貸しがあるやでぇ~!」
「ま~だ1円も返してもらってないどころか!」
「せーめー保険も加入前や!」
「刺すなら加入後にしてくれやで!」
「勝手に借金作るな!そして保険に加入させるな!」
俺の腹に女性が突き立てていたはずのナイフをちゅん助に奪われ逆に首元に付きつけられ、女性は理解不能な現象に狼狽した。
絶界弧闘!
「いきなり人を刺そうとするなんてどういうつもりだ!」
「ちゅん助がいなかったら余計な死人がまた一人増えるとこだぞ!」
「そうやぞ!このアマ!ドスの打ち方も知らんとわしんところの若大将のタマ獲ろうなんぞ!呆れた素人だお!」
「ええか!?」
「ドスの打ち方はこうやぞ!!!」
「脚を開いてえ~腰は落としぃ~!」
「斜め下から抉り!突き上げる様に!」
「打つべし打つべし!」
ピョンピョ~ン!
女性の肩口から飛び降りたちゅん助は誰も聞いていないのにドスの打ち方講座をピョンピョン飛び跳ねながら披露していた…
ドン!
「うっ!」
俺は女性を突き放す。
「やっぱりアンタが一枚噛んでた!そうだろ!」
「やっぱり!?いつから…気付いておられました…?」
俺の問いに襲撃者はあり得ない!といった感じで答えた。
「最初からだよ!だからちゅん助にはもし再びアンタが俺の元に現れたなら細心の注意を払ってくれと頼んであったのさ!」
「くっ!なぜ!」
「最初の違和感は、アンタが浴びたって言ったその赤グソクの体液だ!」
「その体液には俺もとんでもない窮地に追い込まれた、だからはっきりと覚えている!」
「何匹かの赤を叩き斬ったが奴等の体液はどれもがベッタリして、かなりの粘度を持っていた!」
「どれだけ激しく斬り付けようが、そこまで衣服が汚れるような返り血を浴びるとは考え難い!」
「!」
「次にアンタは俺がちゅん助を連れているのを見て勇者だと言った!」
「だが!」
「その前に寄った武器屋の親父の話では、この街に現れた勇者は頭の上に変なぬいぐるみをのっけた変わり者だという話!」
「そんな風に俺達は言われてると聞いていたんだ!」
「わしは変なぬいぐるみじゃないお!」
「……そこは今関係ない」
「いや関係あるな!」
「アンタに会った時、ちゅん助は俺の頭の上には一度も乗っかっていなかった!」
「確かにコイツは奇妙なぬいぐるみに見えるかもしれないが、アンタと話している時はずっと俺の足元にいたし」
「なにより最初から会話を交わしていた!」
「ヘンテコな見た目をしてはいるが、この世界ではちゅん助以外にも不思議な生き物はいくらでもいるんだ!」
「なのに何故、生きて動いて喋ってるこいつをぬいぐるみと判断する!?」
「おかしくないか!?」
「さらにアンタは2日前にこの街にたどり着いたばかりでこの街には詳しくないと言っていた!」
「2日前なら丁度、ずっと雨が降り注いでいた時だ!」
「あの土砂降りの中、そうそう出歩けるもんじゃない!」
「なのに勇者の、俺達の情報を都合よく知っているとか、あまりにも怪しかった!」
「わしは変じゃないし!ヘンテコでもなく!可愛いお!」
「く、まさか、それだけの情報で見抜かれていたとは…」
「いいや、そこまでは疑惑に過ぎなかった!」
「一番、おかしいのはアンタの身体からは、黄グソクを斬った時に発するあの甘い危険な香りがプンプン漂ってた事だ!」
「だが、アンタは黄色についてはなにも言及しなかった!」
「な!なんだって~!わしは臭わんかったぞ!」
「ちゅん助、お前はあの幻覚除けの黒トウガラシのせいで鼻をやられてたのさ…」
「もっともお前に鼻は無いがな…」
「な、なんだって~!」
「ガレッタ隊長の話で夜間の厳重警戒を命じていたのに全開放になっていたと聞いた!」
「破壊された様子もないとの事だった!」
「内部にいくらグソクが侵入したと言っても蟲だ」
「奴等が門を開けられたとは思えないし、防壁を乗り越えて来たんならまず警備の目にかかっても良さそうなもんだ!」
「だったら内部から手引きした奴が居ても不思議じゃない」
「一番怪しまれずに工作できるとしたらやはり人間だろう?」
「おおかたアンタがその匂いを使って門番を狂わせた!」
「そんなとこじゃないのか!?」
「くっ!」
「わしも見抜いとったお!このアマ!観念するお!」
「嘘つけ!」
「ふふん、わしはイズサンがいつ気付くかと、試しとったんやw」
「嘘を塗り重ねるんじゃないよ!」
「まさか…ここまでとは…でもあの時!」
「貴方は、あの匂いに毒されて暴走して走り去ったはず!」
「黒トウガラシが無かったらそうだろうな!」
「まさか!あれは演技だとでも!」
「そうだお!わしも貴様を欺くために槍で小突き回される一芝居を打ったんだお!」
「嘘つくんじゃないよ!」
「あと!槍で小突こうとしたのは素でどついたろうと思っただけだ!」
「調子を合わせない上に…友が本気でわしをどつこうとしていた事に失望を隠せない件…」
「敵を欺くためにはまず味方からと言うだろ」
「だから俺はお前に詳しく説明しないで見て来たテイで、アヒル広場で激しい戦闘があったと言え、と言った!」
「なるほど、あの時は意味不明だったが確かに、そう言われたなお…」
「だが勇者!」
「お前はその広場ではなく!時計塔広場に向かった!何故です!?」
「あの時点では普通に考えたら、アンタの情報を信じてアヒル広場に向かった方が何らかの手掛かりを得られる」
「そう考えるのが普通だろう」
「しかし!俺はアンタを疑ってたんだ!」
「すぐにそこに向かうなんて、どんな罠が張られてるか分かったもんじゃない!」
「だから、わざわざ時計塔広場!と宣言して、匂いにやられたかのようにブチ切れたふりしてから向かったんだ!」
「そこで何かが起これば!疑惑は確信に変わる!」
「そして事は起こった!」
「十中八九、アンタが関わってると考えても不思議じゃないだろ!」
「そうだお!わしも知っとったお!」
「わしの邪輪眼は全てを見抜くお!」
「このアマ!おまえにとって誤算だったのは!イズサンにわしが付いていた事だお!」
「ちゅん助君…いい加減に…この件に乗っかるのやめてくれない?」
「イズサン!」
「敵を欺くためにはまず味方からと言うお!?」
「わしは気付かぬふりして一芝居…」
スパーン!
「すまんお…」
「流石です!」
「勇者様!頼りなさそうに見えた貴方が、まさかそこまで読んでいらっしゃるとは!」
女性は観念したのか、もはや狼狽した様子もなく高らかに答えた!
「今まで天令を受けた将来危険な存在になりそうな人物は、念のために消してまいりましたが…」
「消しただと!?」
「誰も彼も念のためを超える様な人物はいませんでした」
「だがメシアの勇者!泉輝!」
「お前は必ず後々の脅威となる!」
「いずれ抹殺します!」
「ひえ~!怖いお!わしはなんも分かって無かった愚か者だお!」
「勇者とは無関係だお!消さないで欲しいお!」
「こ!コイツ!そっこー日和りやがって!」
「などと!言うと思ったかお!先手必勝!このアマ!死にやがれお!」
言うが早いかちゅん助が手にしたドス…じゃなかった奪い取ったナイフをひっさげ女に突進していく!
「ふふふ、慌てないで、ヘンテコさん」
「今はまだこの世界を自由に堪能させてあげます」
「いずれまた会う時が来るでしょう!その時こそ勇者!」
「貴方の命!貰い受ける!」
「なにを企んでる!お前は一体なんなんだ!何者なんだ!」
「それはまだ、貴方が知る必要はありません」
「知ることなくこの世から消えるかもしれません」
「ですが、私の名だけは名乗っておきましょう!」
「ティアエリクス!」
「貴方の認識では、そう…魔女…そんなところです」
「わしはちゅん太郎!ちゅん太郎だお!よく覚えておけお!」
「しれっと名前ロンダリングして逃れようとしてんじゃねーよ!ちゅん助!」
「あ!バラすなお!このひきょーもの!」
「卑怯者はまんまお前だろ!」
「ふぁふぁーん(←泣いている音)せっかく助かったのに殺されるんだお~!」
「ひさぁかたのぉ~♪」
「などと言うと思ったか!」
「後々の脅威は貴様の方だお!」
「舐めるんじゃあないお!先に抹殺したるお!」
「秘奥義ぜっかい!!!???アッ!?」
ちゅん助が絶界に入るその時だった。
「慌てる必要はありません」
「再び会う時は必ず来ます」
「その時まで、その命預けておきますよ、アハハハハハハハ」
ティアエリクス、そう名乗った女は高らかな笑い声だけを残してスゥーっと色が無くなる様に姿を消した!
魔女というのも嘘ではないのか…
「クソッ!逃がしたお!絶界に入る前に逃げられたら追うのは無理だお!」
「いや!ちゅん助!」
「相手の手の内が分からない!深追いは危険だ!」
「見逃してもらえるならその方が良い!」
「た、たしかに…」
一難去ってまた一難、グソクの王を倒したと思ったらまた厄介そうな…今度は完全に敵、おまけに正体不明の魔女に命を狙われるとは…
天令など受けたせいでとんだ災難続きだ!とんでもなく困った事になった…俺は気が重くなった。
「しかしイズサン!あの女が怪しいって事によく気が付いてたなお!」
「おまけにグソク討伐最終決戦で何とか生き抜いたこんな一番危ないタイミングでも警戒を怠らず!」
「わしに注意を頼んどったとは!」
「2016年アルザスの悲劇!」
「指揮官が笑っていいのは勝利を確信した時じゃない!」
「確定した時!」
「だろ?」
「!?」
「なんだよ、お前レース行く時の車内ではいっつもその話ばっかしてたじゃないか、もう耳にタコだぞ!」
「勝った!」
「そう思った時が一番危ない!」
「だろ!?」
「おお!!覚えとったかお!」
「行き帰り聞かされるんじゃ忘れるわけないだろ!」
「まあでも今回はお陰で助かった感じだな!」
「そうだおw!そうなんだお!wでもイズサン!」
「でも!」
「今!勝った!と油断しとるなお!?」
「今が一番危ないお!警戒をゴンにするお!わしは寝るので貴様には厳重警戒を命ずるお!w」
「ヤダよ!もう限界だぞ!逆に寝ない方が死ぬわ!」
こうして何とか生き残った俺達は教会に押し入って、特別信者の刻印と天令の勇者をごり押しし、強引に寝床を確保して死んだように眠るのだった。
刻印も天令もそんな使い方は本意ではなかったが、居るのか居ないのか分からない神様も今日くらいは許してくれるだろう…
第七話
終わり




