第七話 その6 崖上の耐久者(ステイヤー)
第七話 その6 崖上の耐久者
(ダメなのよッ!)
グソクの群れをこれ以上、補充させないための決死の防御炎壁!
数々の犠牲を払って、やっとの思いでそそり立たせた炎壁があろうことか、最終局面のここに来て皮肉にも完全に仇となっていた。
狙撃の角度を稼ぐために、西の崖山の中腹を狙撃位置としたのも裏目に出た形であった。
もし頂上を選んでいたなら、タイミングは遅れるが炎の壁は超える射角を取れたかもしれないのだ…
(お願い!壁を!一瞬で良いのよ!壁を取り除いて!)
伝える事も叶わない少女の必死の願い!
発射体勢に入ってから既に20秒以上が過ぎていた…
チャンスは残り10秒弱!
「あ!コイツめ!駄目だっポ!」
足元では遂に最終ラインが破られ1匹の灰が少女の脹脛に取り付いた!
ザブ!
灰色は少女のブーツの上から短いながら強い牙を少女の美しい脚に突き立てる!
(!)
鋭い激痛が少女の身体を突き抜ける!
「クソー!!!やらせないッポオオオッ!」
慌てて小炎は少女に取り付いた個体を引き剥がしに飛び回った。
「駄目だっピュ!次のが来る!ワタシも!」
堪らず少女の頭上で触媒を務める旋風がその場を放棄し防衛ラインに加わろうとした!
「動くな!」
「ウィンドミル!」
「お前は!」
「私と共に集中してろオオオッ!」
「ぴゅ!?ピュッ!」
信じられない集中力!
激痛をものともせず!
激しい痛みでも少女の決意を少しも鈍らせる事は出来なかった!
絶叫にも似た激しい口調で命令が飛ぶ!
少女の不退転の強い決意が見て取れた。
残り5秒!
「やらせはせんポォオオ!やらせはせんッポオオオオオ!」
ボッ!
ボッ!
ボッ!
ボッ!
ボッ!
ボッ!
ボッ!
足元では小さな火炎放射器が狂ったように乱舞していた!
3秒!
キィィィィィィイイイイイイイン!
スコープの向こうでは炎の壁が取り払われる様子がない!
あの壁の向こうで…
ひょっとしたら…
ひょっとしたら!
既に白い奴はこちらを向いているのでは!?
千載一遇の好機を既に逸しているのでは…!?
疑心暗鬼!
2秒!
キィィィィィィイイイイイイイン!
ひょっとして!?
運良く壁が取り払われたとしても…
核蟲は行き過ぎてしまっていたとしたら!?
射線が移動したと言う事実
スコープの向こうの勇者は知る由もなく、伝える術も無いのだ!
堪らず少女に動揺が走る…
1秒!
キィィィィィィイイイイイイイン!
(だめッ!これ以上は‥‥)
キィィィィィィ…………
急速に風切り音が小さく、低くなっていく…
プッ!ッツツーー
限界!
それを告げるが如く少女の鼻から一筋の血が垂れ、下顎まで美しい顔に真っ赤な一筋の線を描いた…
極限の状況下、皆が皆、それぞれがそれぞれに出来る事を最大限にやっていた…
ガレッタ、ちゅん助、武器屋…彼らが必死に繋いできたチャンスを何とか手繰り寄せ、勇者はこれ以上ない危機に身を晒しながら民衆を良く鼓舞し指示を与え檄を飛ばし続けた。
少女も狙撃手としてその嗅覚を活かし絶好の射撃位置を確保した。
ファイアストンの読みも完全に的中し、炎の壁の向こうでは今まさに!
白き核蟲が真正面を向いているはずなのだ!
あとは少女とウィンドミルは極限まで集中しており、発射を待つのみだったのだ。
誰もが懸命に行動し、誰が悪いという事ではなかった、最後の最後に来て時計塔広場と崖側、両者の意思疎通が取れぬ事が
ここぞ!
の時に災いし、少女の集中が解けていく…
そして
0………
(くッ!)
(私としたことが!)
(焼きが回ったわね…こんなところでしくじるなんて…)
(どうして…アイツならやれるなんて思ってしまったんだろう…)
(あいつらに毒されてしまってたの…やっぱ私の方ね…)
(いつもならこんな街、気に掛ける事もなく立ち去ってしまってたのに…)
(アイツらもバカだけど、私もだった…)
(あの間抜けが…あの状態からこっちを向けられるわけなかった)
(なーんで信じちゃったんだろ…)
(ああ…呆気ない…)
(死ぬ時なんてこんなもんか…)
(死ぬ…私、死ぬんだ…)
(ごめん、父さん、母さん…私、ここまでみたい…果たせなくて…ごめん)
(シンリ、結局アンタを探せなかった、無事でいる事を祈ってるわ)
(アンタに会えなかったのは無念の極みだわ…)
(父さん…母さん…シンリ!)
(私、私まだ死ねないのに…死ねないのに…!)
グラァ…
第七話
その6 崖上の耐久者
終わり




