第七話 その5 皮肉な壁
第七話 その5 皮肉な壁
「いい?」
「分かってると思うけど、一度発射体勢に入ったらもう後戻りはできない…」
「おまけに発動までには数十秒…」
「そして一番の問題は発射体勢を維持できるのはせいぜい30秒が良いとこって事よ!」
「つまりあの勇者様がなんとかこちらを向かせた時に集中し始めたんじゃ遅すぎる!」
「かと言って逆に集中が早過ぎて、限界を超えたら完全にアウトよ!」
「予測が…いつ集中に入るか予測が必要なの!」
「ファイアン!これはアンタに頼るしかないわ!出来るわね!」
「任せるっポ!」
「ウィンディ!アンタは私と一緒に集中よ!」
「アレをやるッピュね?」
「ええ!虚空無葬で行くわ!」
「ウィンディとの集中に入ったらファイアン!」
「アンタとはリンクできなくなる」
「厳しいでしょうがなんとか奴等の足止めを!」
「少しでも時間を稼いで頂戴!」
「分かってるっポ!ボクも漢だっポ!」
「ご主人サマには指一本触れさせないッポ!」
「そんじゃま、あとはあの間抜けに期待しますか!」
三人は食い入る様に風連図の映像を眺める。画面の向こうでイズサンが必死の形相で踏ん張っていた。
「頑張んなさい!あとちょっとじゃないの!」
「頑張れっポ!」
「頑張るッピュ!」
映像は青大将の巨体相手に街の民が一つになって一進一退の角度の奪い合いを繰り広げていた。徐々にイズサン達の優勢に傾きつつあるように見えた。
「青い奴の補充が利かなくなって灰色も混ざり始めたっぴゅう?」
「まだッポ!まだあの怪物の重心が崩れてないッポ!」
「動けッピュ!動けっピュウ!」
「踏ん張りどころでしょ!」
「踏ん張るッピュウ!」
「踏ん張れっポウ!」
いつの間にか三人は必死になって届くはずのない声援を画面に向けて送っていた。だが、今この時、こうしている間にも彼女達に追手の魔の手が迫っているのだ。
「あの男、怪物の周りになんか撒き始めた!?」
「なんだっピュウ!?」
「今度は!今度は周りに火を放って補充を防ぐつもりだっポ!間違いないッポ!」
「そうね!考えたわね!そうに違いないわ!エロピヨの発想の応用だわ!」
「ご主人サマ!あの怪物!灰色交じりになって力が落ちてるっポ!」
「あきらかにじゅうしんがくずれてるッポ!」
「ついに来たわね!?来たのね!?」
「ぴゅ!?」
「追手のグソクのスピードから考えても…」
「………」
「………」
「………」
ファイアストンは迷った、次の言葉を言うべきか?言わざるべきか?
彼はジッと主人の顔を見つめた。
少女の顔は
アンタの判断に任せる!
そういう眼差しだった。
重心が崩れ始めている…
その事実に間違いはない!
だが…
僅かに追手の迫る勢いが上回る…
僅かに…
不可だッポ!
撤退だッポ!
本心ではそう告げたかった。
そう進言すべき!
進言すべきなのだ…
一方で彼の予測ではそう進言してもこの少女は退かない!
そうも告げていた!
ならば自分の役目は…発する言葉は!
(死んでも守るッポ!)
「チャンスがあるとしたら今しかないッポ!」
少女達に最後の決断の時が迫っていた!
「ここだッポ!今ここしかないッポ!」
「ファイアン!」
「ウィンディ!」
「行くわよ!」
「打ち合わせ通り!用意はいい!?」
「ピュウピュウ!」
「ポポウ!」
旋風は少女の頭上1cmに陣取り、小炎は少女の周りを旋回する!
「ウィンディ!風連図!精密射撃モード!」
「ピュウッ!」
大口径、大画面の巨大望遠鏡は対物、接眼魔法陣の径をシュルシュルと縮め大きめのライフルスコープ程度の大きさに収斂すると接眼レンズが少女の右目の位置まで移動した!
「ファイアン!周囲の警戒!防衛!頼んだわよ!」
「ポウウ!」
小炎は元気よく炎のオーラを纏う!
「矢引きは七分ってところね!」
少女は肩のコの字を外すと弓型に展開させた。すかさずウィンドミルが風の弦を張る!
「ウィンディ!カタリスター!」
「ピュウ!」
少女と旋風が集中を開始する!風の精霊が触媒となり少女の集中を加速させる!
程なく少女の身体は荘厳なオーラに包まれた!
黄金のオーラ!
キィィィィィィイイイイイイイン!
少女の集中が高まるにつれ手にした弓が共鳴音を放ち、何らかの強大なエネルギーを溜めているであろう事が見て取れた。
少女の美しい黒髪が天を衝く様に舞い上がった!
ギュイイ!
矢はつがえない!しかし少女は構わず弓を引き、和弓の発射位置まで弦を引き絞った!
集中!
集中!
超集中!
黄金のオーラは、輝くその姿は
まさに弓の女神!
女神アルテミスを彷彿!
虚空無葬!発射体勢!
キィィィィィィイイイイイイイン!
少女が完全な発射体勢を整えた時,灰色の追手が続々と姿を現した。
「お前らの相手はボクだっポウ!1匹も通さないっポウ!」
ボッ!
ボッ!
ボッ!
少女とのリンクが切れ全く力が出ない状態で小さな火炎放射を武器に小炎は自らの小さな身体の10倍以上の体積がある灰グソクに勇敢に立ち向かっていく!
必死に追手達の前進を抑え込むがジリジリとその防衛ラインは下がっていった。
少女の足元数mに迫る!
「さがれ!下がれっポウ!」
ボッ!
キィィィィィィイイイイイイイン!
少女にはもう周囲がどうなっているかには全く、意識を向けず、ただただ発射へ
その時を待つ…
スコープの映像は遂に白色の魔王を捉えつつあった。
(見えた!)
(そのまま!そのまま正面まで持ってきなさい!)
(真正面よ!)
(少しでも横を向いていては駄目!距離が測れない!)
(真正面!)
(これだけは…)
(これだけは!)
(ただの1度もまけてあげられないわよ!)
(あとほんのちょっと!ちょっとちょっと!よ!)
キィィィィィィイイイイイイイン!
「キー!」
小さな炎の防衛線を破って1匹の灰が少女の脚目掛けて襲い掛かる!
「こ!コイツ!させないッポ!」
ボッ!
必死になって焼き払い、追い払うがその小さな体、炎では荷が重い!
1匹追い払ってもまた1匹!次々と少女の最終防衛ラインに侵入してくる!
(来る!)
少女がその時を直感した!あと数度!たった数度で完全に狙点に捉えるのだ!
キーーーーーーーーーーーーーン!
風切り音がさらに一段と高いものに変わる!
しかし!
(うッ!)
スコープの向こう側で突然、少女の予想外の展開が起こった!
武器屋の親父が命を賭して放った炎の壁が思いのほか…
高い!!!
白の核蟲はおろかイズサンと青大将の姿すら包み隠してしまった!
なんたる皮肉!
(何て事ッッ!!!???)
キィィィィィィイイイイイイイン…
風切り音が一段低いものになった…
(マズイ!)
(これでは駄目!これでは全く距離が測れない!)
(目視しないと!完全に目視出来ないとダメ!)
(ダメなのよッ!)
第七話
その5 皮肉な壁
終わり




