第七話 その3 崖上の迷走者(ワンダラー)
第七話 その3 崖上の迷走者
「ハアハアハア!急ぐわ!急ぐわよ!」
少女が襲い来るグソクの群れを左右に躱しながら急斜面を猛スピードで翔け降りていた。
ジグザグに駆けているのに、その影響を感じさせないスピードだった。
程なくして少女は麓まで一気に駆け降りると、今、崖山から降りて来たばかりのはずなのに何故か西隣の連山へと足を向け今度は険しい斜面を駆け上がり始めた。
「ご主人サマ!また登ってるっぽ!?」
「このまま逃げるんじゃあぴゅう?」
「逃げるですって!?ありえないわ!」
「アイツは運が無かったって、そう言ったっポ!」
「そうだっピュ!」
「ええそうね!」
「だったら何でまた登ってるっポ!?」
「アイツの無い運の分は、この私の腕で補ってやりゃあいい!」
「そう言う事でしょ!」
「!」
「!」
「ご主人サマ!流石だっピュッ!」
「ふん!おだててないで手伝って!」
「急ぐわ!フロート!」
「ピュッ!」
ピョーン!
「次!」
「ピュッ!」
ピョーン!
「次!」
「ピュッ!」
少女が叫ぶと険しい崖の急斜面にウィンドミルが空気の塊の様な足場を数m間隔で階段状に造る。
少女はその塊を蹴って次々に駆け上がり更なる猛烈な勢いで西の連山、崖山を登っていく。
急斜面の今にも崩れそうな崖足場を駆け上がるより遥かに速く、そして確実に登って行った。
「風連図!街の方向に出して!」
「ぴゅう!」
駆け上がりながらも少女は魔法陣の望遠鏡を要求し視線をガリンの街へと向けた。まだこの位置からは時計塔広場を覗くのには高度が足りなかった。
「もう少し登る必要があるわね」
「一気にてっぺんまで行かないのかっぽう?」
「頂上に出ればさっきの崖と同じ高度があるから射角は十分取れるわ!」
「でもわざわざ一番西の端から登ってきたのはアイツが完全には白い奴をこっちに向けられない!」
「そう踏んで!」
「そん時のために、こっちが少しでも角度を稼いでやるためよ!」
「でも…」
「この場所は街から離れすぎてる…」
「こっちが削ってやれる角度なんて数度もない…」
「稼いでやれるのはアイツが怪物をこっちに向けるまでの」
「わずかな時間くらいのもんだけどね!」
「流石だっピュ!」
「は!?アイツが言ったんでしょ!各自で考えて角度を稼げ!ってね」
「アイツ!この私に命令するなんていい度胸してるわ!」
「あれは周りの奴らに言ってたんじゃないのかっぽ?」
「いいえ!映像の向こうでアイツは確かにこっちに向かって言ってた!」
「生意気よ!ま、でも今回だけはお望み通りやってやろうじゃないの!」
「やったるぴゅうw!」
「ええ!だから急ぐわ!」
「あの様子じゃあのデカ物を真横に向けるのさえ難儀してた!高さと角度、ギリギリの場所でやるわ!」
少女はどんどん加速し高度を上げていく。
「ここね…」
少女が足を止めた場所は西崖山の中腹であった。魔法陣はガリンの街の防壁を越え、時計塔広場をギリギリ射抜ける高度の映像を映していた。
「デカ物は!」
「凄いッポ!」
「もう少しでこっちを向く位置まで動かしてるっポ!」
「でも、思った通り動きが遅い…高度を保って一番角度を稼げる限界位置はここよ!」
「もう、ここしかない!」
「もう少し!もう少しだッピュウ!」
少女は真剣な眼差しで魔法陣を見つめ続ける!
「ご主人サマ!た!大変だっッポーーーー!」
「なに!ファイアン!」
後方を警戒していたファイアストンが上げた悲鳴に少女が反応した。
「や、奴らがもう追いついて上がってきてるッポーーーーー!」
「なんですって!?」
「ここも!ここもッピュ!?」
「距離はッ!」
「もう800mを切ってるっポ!」
「何て事!」
「あれだけ引き離してきたのに!予め配置してたか、読まれたわね…」
「なんてしつこい奴等だっポ!」
「数が多すぎるんだっぴゅう…」
少女は灰色達が追って来るであろう闇の中と魔法陣の映像を交互に見比べていた。
映像にはイズサンが必死に抵抗し指示を出している様子が映し出されている。
青大将回頭の進捗は遅い…確かに遅いが先程の崖上と比べると送られてくる映像で見るイズサンはもう横顔が見える位置まで動いていた!
もう少し動かせばあの白い核蟲の姿も捉えられるはず!
しかし…
(側面…奴の側面では駄目!駄目なのよ…)
(正面を…どうしても白い奴をこっちに向かせてくれないと…)
(私は…私達は射程と精密射撃には絶対の自信がある!)
(でも…)
(精霊石無しでアレをやるとなると…)
(正確な距離を掴む必要がある…)
(距離感…)
(私達はどんな相手にも負けない射程と命中精度には絶対的な自信がある!)
(でも逆にそのせいで距離感を意識する必要が無かった…)
(だから正確な距離を測るのは)
(逆に大の苦手なのよ!)
(おまけに精霊石のサポートは無いと来た…)
(でも、あそこまで届かせるとなるとほぼ威力に全振り!)
(その上、極限の集中状態で…果たして距離を間違えずやれるの……?)
(数十cmでもズレたら効果範囲を外れる…)
(これだけの距離を…)
(できるの?)
(出来るの…私…)
少女は明らかに迷っていた。
「ファイアン…ここが埋め尽くされるのとアイツがこっちに向かせるの!」
「予測ではどっちが速い!?」
「それはっぽぉ…それはぁ~ぽぅ~」
小炎が言葉を濁した。
「ハッキリ言いなさい!」
「わ、僅かにッポ…」
「僅かに間に合わなそうっぽう…」
「……」
少女は根拠を聞かず黙って映像を見つめた。小炎の予測には信頼を置いているのだ。それが間に合わないというのならきっと間に合わないのだろう。
相変わらず映像は必死に抗うイズサンの様子を伝えて来ている!
そして今こうしている間もこの場の安全はどんどんと無くなりつつあるのだ。
(急いで!)
しかし、それを彼に伝える術はないのだ。
急げ!
そう伝える術が無いのだ…
少女は目を閉じてしばしの間、考え込んだ。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
西の崖山の中腹は一瞬の静けさに包まれる。
静寂…
しかし、少女の中には狂おしい程の葛藤が支配しているであろう事が容易に想像できた。
静寂…
不意に少女が目を開け、そして言った。
「ファイアストン…ウィンドミル…」
第七話
その3 崖上の迷走者
終わり
エンドカード!
イラスト絵師 亜夢様
「果たして!少女は狙撃を決意するのかお!!!」
「決意するのか!じゃ!ないわよ!」
「あんた!またなんで私を無駄に脱がしてるのよッ!」
「美少女よ…」
「美少女の露出にはPVを突出させる性能があるのだお!」
「気の毒だが(と思ってないおwww)」
「しかし美少女!無駄脱ぎではないお!」
「変仮面付けて訳の分からない事言うなッ!」




