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更新停止中 イズちゅん  作者: ちゅん助の!
第七章 天令の勇者 vs 白き魔王 羽はどちらの天秤に
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第七話 その1 戦いのあと

 第七話 その1 戦いのあと


 涙が零れる。熱い熱い大量の涙が頬を伝って…


 熱い…涙が…


 熱い涙が!


 熱い?


 涙が…?


 泣いている…


 泣いているだと!?


「ちゅん助!!!」


 俺は自分の発した言葉で目を覚ます!


 目を覚ます…だと!?


 俺は飛び起きる様に、しかし上半身だけを起こすと慌てて周りを見渡す!


「こ!これはッ!」


 俺が目を覚ますと既に陽が高く、とっくに夜が明けていた。


 目を覚ました場所は決戦場となっていた時計塔広場であった。

 俺はどう考えても死んでいたはずのあの場に、こうしてこのまま居るのだ。


 俺を捕らえていた青大将は!?目の前に居た白い核蟲は!?


 大量のグソクの群れは!?見渡すとそのどれもが居なかった。


 正確に言えば、大量のグソクの死骸だけが周りにあった。

 街は酷く荒廃し、あちこちで起こっていた火事はようやく鎮火していた様だったが所々でまだ細く黒い煙が上がっていた。


「痛てっ!」


 俺はようやく立ち上がると全身の痛みに気付いた。

 痛みがあるという事は生きているという事だが、その実感がまるでない。


 だが、身体の痛み、あらゆる場所が破壊された街並み、大量のグソクの死骸、犠牲者を悲しむ声、生き残れて良かったと生の喜びを分かち合う人々。

 あらゆる事象、光景が先程まで行われていたはずの戦闘が夢ではなく現実であった事を俺に教えていた。


(どういう事…どういう事だ!一体どうなってる!?)


 戦いは明らかに終わっていた。勝ったのか負けたのか、それすら分からない。

 いや生きているのだから負けてはいないのだろうが、それすら実感が湧かない。

 理解できないこの光景に俺の頭は付いていけてないらしく、喜びも悲しみも安堵感といった感情すら湧いてこない。


 ただただ、ひたすらに


(どうなってる!?どうなっているんだ!どうなったんだ!)


 その思いだけがあった。


「勇者様!貴方のお陰で私は!私たちは!街は救われました!」


「え!?」


 街の住民らしき人が煤と血にまみれた顔をクシャクシャにして俺に握手を求める。

 理解が追いつかない、俺は強張った表情で、ああ、と答えながら握手に応じるのがやっとだった。

 足を引きずりながら広場を彷徨っているとそんな事が次々と続く。民の表情を見ると間違いなく戦闘は終わっているらしかった…


「どういう事なんだ!」


 あの時、俺達はあと一歩の所まで核蟲を追い込んだ。確かにその記憶と感触はある!

 だがあの時、あと一押し!と言うところで俺達の進撃は核蟲無しのダイオウグソクが現れて無残にも蹴散らされたのだ。


 勝ち誇ったかの様なあの魔王のギィーギッギッギッギッギw!という耳障りな鳴き声は鮮明に耳にこびり付いている。


 あの後、奴と目が合った。あの凶悪な眼光と…あの瞬間、俺は敗北を悟り、身体は死を確信し視界が閉ざされたのだ。

 少なくとも俺が辿れる記憶の上で、あの戦いは俺達の負けだったはずだ…


 それなのに広場には核蟲の姿どころか青大将もダイオウの姿さえ消えていた。あるのはこの足元に転がる大量の死骸のみ。

 だが死んでいるのはグソク達だけではない。至る所に民の死体が転がっていた。


 その上で俺は生きている。


 何故だ?


 勝ち負けより本当に今生き延びられているのかより、この状況の説明が欲しかった。


「勇者様…」


 不意に後ろから呼びかけられる。

 振り返ると立っていたのは、何度も窮地を救ってくれたあの勇気ある少年だった。


「うわああああん!勇者さまーーーーー!」


 大きな泣き声を上げて少年は俺に抱き付いてくる。


「しょ、少年!お前!生きていてくれたか…」

「うわあーーーん!」


 俺は少年を抱きしめると少年は俺の腹で大声で泣き続けた。

 少年の涙が呼び水となって俺の目からも涙が流れ落ちた。


 目が覚めてから初めて俺に訪れた感情は俺以外に一人でも知り合いが生き残っていた喜びだったのか、友は亡くし俺だけ生き残ってしまった悲しみだったのか、少年の涙に感化されただけなのか…自分でも説明がつかないものだった…


「うう…勇者…さま…僕はやったんです、僕達はやったんです!うわーん!」


「ああ…ああ!そうだな!少年!」


 少年の言葉を聞いてその少年の涙は勝利と俺が生き残った事に対する喜びの涙だと俺は勘違いしていた。


「やったんです!僕達はやったんだあ!」

「父さんも!ちゃんと使命を果たしたんだあ~!うう、うわ~ん!」


「!?」


「勇者様!父さんは無駄死にじゃないよね!勇敢だったよね!うわーん!」

「少年!?お前!まさか…」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「みんなー!勇者様を!勇者様を助けてよ~!誰かーーー!」


 少年の必死の呼びかけが広場に木霊していた。


「ガ、ガレッジ!お前は教会に行っていたのではないのか!」

「どうしてこのような危険な場所に来た!」


 少年の呼びかけにただ一人、応える者があった。


「あ!と、父さん!僕は勇者様を追ってきて!」

「それより!大変なんだ!勇者様が!勇者様があのバケモノに捕まって!」


「なに!?」

「オオ…何という事だ、灰色の化け物に続き、またしてもこのような!」


「父さん!このままでは勇者様が食べられちゃう!」


「息子よ!分かっておる!」


「……」


「ガレッジ!よく聞きなさい。街のこの散々たる有様、その責任は私にある」

「元防衛隊長として不甲斐ないばかりに…」


「そんな!父さんは毎日頑張って働いていたじゃないか!」


「物事の責任は頑張ったから!と言って認められる、許される、そういうものではない!」


「そんな…」


「お前達家族に黙っていたが私は天令を受けている」


「天令…?」


「そうだ、私が受けた天令は奉仕者…今、その意味が分かった!」


「奉仕者?」


「息子よ、お前も男なら、この父の姿をよく見ておけ!」


「なにするつもり!父さん!何するつもりだよ!」


「いいか!息子よ!」

「よく見ておれ」

「男が!」

「責任を取るとは!」

「こういう!」

「事だっ!」


「父さ~ん!父さ~ん!!!」


「勇者様ッ!今助けに参りますぞ!」

「うおおおおおおお!」


「父さ~ん!おとうさーーーーん!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




(少年…お前、そういう事だったのか)


 この少年は父の無残な死に様を目の当たりにしても、幼い身を危険にさらし続けてあのような大車輪の活躍を見せていたのだ。

 10歳に満たない様なこの少年がそれをしていたのだ。


 翻って俺が10歳の時は何をやっていたのか?ファミコンで遊ぶことに明け暮れていたのではなかったか?同じ年齢の時、この少年と同じ様な勇気を胆力を持てていたであろうか?


 問うまでもなく答えは否であった。


 俺は年端も行かない、この少年に何度も助けられたのだ。



「少年…勇者が…居るとしたら…それはお前や父上の方だった」

「父上と君の尽力にこの上ない感謝を…」

「いや、言わなくてはならないのは謝罪の言葉だ…」

「父上を…」

「助けられなくて…」

「済まない…」

「ごめんなさい…」

「許してくれ…ううっ…」


「ううっうわーん!うわーん!」

「オオ…オオオオオオオ!」


 泣いた。46歳の男が少年と一緒に大声で…

 果てることなく…


 泣いた…



 二人でひとしきり泣きに泣いた後、少年は俺から何も言わずに離れてゆき、教会の方へと歩いて行った。


 俺は少年の後姿を眺める事しかできず、それ以上何も声を掛けることが出来なかった。


 一般人なら何もないのによくやった!とひょっとして英雄扱いされてもおかしくない成果なのかもしれないがあの訳の分からない天令とやらのお陰で俺の罪悪感はこれ以上ないものとなり心が晴れなかった。

 この世界に神様が居るなら全く不愉快なレッテルを貼ってくれたものだ。こんな事ならSSR称号みたいなのはちゅん助にでも与えてくれれば…


「……ちゅん助!?」


 おい!そうだった!


 ちゅん助は!ちゅん助はどうなった!


 彼はあの決死のダイブの後、蠢く灰達の真ん中に飲まれていったのだ!

 彼は!彼は!どうなったのだ!?

 俺は慌てて広場を見渡す!


「確か青大将に捕まっていたのはこの辺のはずだ!」

「武器屋の親父がこの辺で…」

「記憶が確かならここからこの方向へ…」


 ちゅん助が着地したと思われる方向へ視線を動かす。

 どこもかしこもグソク達の死骸、住民の亡骸が転がっていて同じ状況に見える、が、灰色が積もっているエリアがいくつかあった。

 方向的にあの辺か?俺はその場所に足早に駆け付けた。


「どけよ!どけよ!」


 灰色の死骸を掘り返すように必死になって埋もれたはずのちゅん助を探した。


「生きてる!生きてるよな!生きててくれ!」


 アイツがそう簡単に死ぬはずないのだ!しぶとく、しぶとく生き残ってくれているはず!そう信じなければ、いいや!そう言い聞かせて俺は1匹、また1匹と死骸を取り除く。


 カチーン!


「ああ…」


 百匹以上取り除いただろうか?地面に近い場所の1体を持ち上げると弾みで何かが引っ掛かり、広場の石畳の地面に落ちた。


 緑色に光る風の精霊石をベースにして加工された美しく輝く石。


 ちゅん助の通信石であった…


 石にはちゅん助の悪戯でちゅん助の顔が刻印してある…他の誰かの物ではない、間違いなくこの世界でたった一つのちゅん助の通信石であった。


「ああ…ああ!アアアアアアアアアアアア!」

「どけよ!どけどけどけ!どけよおおお!」


 俺は狂ったように残りの死骸を取り除き払いのけ投げ捨てる。

 通信石が落ちた一帯全ての死骸を完全に除去したが体液にまみれた石畳が露出面積を広げるのみで、そこからはなにも…何も出てこなかった…


 ドサッ

「ああああああああああああああ!!!!!!」


 思わず膝が折れ、地面に額をこすりながら俺は大声を上げるが、その声は虚しく石畳に反響するのみだった。


 第七話

 その1 戦いのあと

 終わり

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