第六話 その20 武器屋の矜持
第六話 その20 武器屋の矜持
ズズ…
「いいぞ!動いてる!確実に動いてる!動いてるのを感じるぞ!」
しかし、その歩みは悲しい程、時に腹立たしい程、ゆっくりとしたものであった。
残された時間と戦力は殆どない。少年が武器屋と増援を引き連れてやって来るような幸運な展開は、もうまずないだろう。
つまりは今ここに居る人員で何とかしなくてはならないのだ。誰一人、欠けてはならない(とは言ってもこれだけの乱戦、また一人また一人と欠落する様子が窺えるが…)
それだけにこの場に居る奴等の士気だけは下げてはならない!
俺は必死で檄を飛ばした!
「諦めるな!もう半分近く!半分近くも動いたんだ!」
「出来るぞ!俺達なら出来る!」
「きっと出来る!諦めるな!」
諦めるな!正直言ってその言葉は周りに対してというより俺自身に向けてだった。諦めてほんの一瞬、力を抜けば俺の人生はそこで終わるのだ。
きっと出来る!そんな自信も周りへの信頼もまるで無かった。
つまりは俺は嘘をついていた。
だが!嘘も方便!
希望のための嘘なら許されるだろう!
いいや正直に言う!俺は助かりたい!繋いでくれた命、無駄には出来ないのだ!
ちゅん助やガレッタ、数々の犠牲者が繋いでくれた命!その命でどうしても、どうしてもこの白い奴を倒したい!倒したいのだ!
その後ならこの命!くれてやってもいい!なんて言わん!倒して生き残りたいんだ!
ズズッ!
そしてまた10度!
さらに10度!
「ほぼ半分まで来たああアアアアアアア!」
「やってる!お前ら!良くやってるよ!」
「凄いぞ!」
「半分行けたなら!」
「もう半分!」
「必ず!行ける!」
「行こう!」
「いいや!必ず行くんだ!」
「やれる!やれるな!?ユニコーーーーン!」
俺も興奮混乱して最後はちゅん助病が発症してしまっていた!
だが!俺の檄にオオ!という歓声がこれ以上ない勢いで飛んだ!
これ以上ない一体感!
グソク達の圧倒的物量攻勢に対して常に守勢だったこの街が今、一体となって攻勢に転じ確実に勝利に向かっている!
そんな実感が街の人間を奮い立たせているのだ!
動け!動け!動け!
5度!
5度!!
行ける!
休んでる暇など無いぞ!このまま一気に行くんだ!
ッズズシ!?
「!」
(なんだ!?今、重くなった?)
「ゆ、勇者のあんちゃん!」
武器屋の親父が狼狽した様子で声を掛けて来た。
「なんだ!?」
「オヤジ!なんで動きが鈍くなってる!!!?」
「それが!こいつ!灰を補充に充てはじめやがって!」
「なんだとッ!?」
(クソ!)
先程までのペースなら、あと数分と掛からないペースでこのデカ物を時計塔方向に向かせる事が出来たはずだった。
それが急に吸い付く様に重くなったのは、核蟲はこのままでは不味い!と青の群れの補充を諦めて灰色を補充し始めたのだ!
質より量!
向こうもなりふり構わず抵抗しているのだ!
「オヤジ!なんとか、補充を!合体だけは防いでくれ!頼む!」
「や、やってるんだが!手が回りきらねえ!」
青大将の回頭をようやく半分を超えた時、核蟲の新たなる一手によってその歩みは止まり、またも均衡状態となってしまった。
核蟲は俺達を即時殲滅出来ないと踏んで、圧倒的数的有利を活かして持久戦に持ち込むつもりなのだ。
先程までの核蟲の選択が手下たちを攻撃に振っての戦法なら、どうにかしてでも敵本丸が動く!この点に於いて僅かであるが希望があった。
しかし、ここまで双方が消耗戦の様相を呈して、いったいどれほどの時間が過ぎたのだろうか?
ここに来て…ここまで来て!この期に及んでの核蟲の持久戦選択!俺達の戦力は補充が利かないのに、奴らはほぼ無限!
さらには核蟲を時計塔に向けての神魔弓士の一撃!というこちらの最後の唯一の希望の一手さえ封じてしまえば、時間が経つのをじっと待つだけで勝手に勝利が転がり込んでくるのだ!
クソ蟲め!ほんとに余計な知恵ばっかつけやがって!
「親父!なんとか壁を!壁を作って奴等の補充を防いで…くれッ!」
「壁?壁つったってよ、そんなもん…」
「頼む!何とか!何とかしてくれ!」
「ちゅん助達が放った火の部分には補充が出来てないんだ!」
「アイツらの作ったチャンスを無駄にしないでくれ!」
「火!?火だって!?そこには近付けない…そう言う事だな!?」
「クソッ!何でこんな簡単な事、気付かなかった!あんちゃん!待ってやがれ!」
武器屋の親父は周囲へ何か指示を飛ばすと、数人を引き連れて広場から離れていく。その姿は逃げる様子ではなかった。
何か策があるのか?
「もたない…冗談置いて、こっちはもうもたないぞ、親父…早く!早くしてくれ!」
核蟲の狙いが場の均衡である以上、犠牲者の増えるスピードも緩やかとなった。それは救いであったが、あくまで緩やかとなっているだけなのだ。
確実に死が全滅が近付いている事には変わりがない。武器屋が何を企んでいるのかは分からなかったが、信じて待つしかない。
「ギッギッギッギ!」
目の前の核蟲が不気味な、そして余裕を含んだ鳴き声を発する。
お前もしぶといな、お仲間は逃げて行ったようだぞ?そろそろ諦めたらどうだ?
ちゅん助が居たらそんなでたらめな訳をしていただろうか?
「待たせたな!あんちゃん!」
武器屋達数人が広場から姿を消して数分の後、彼らは木箱を抱えて約束どおり戻ってきた!
「壁を!壁を作ってやるぜ!」
「お前ら怪物の周囲に向けて叩きつけろ!」
「オオ!」
パリン!パリーン!パリーン!パリンッ!
周囲で瓶の割れる音が鳴り響いた!この匂いは?酒?酒なのか?
青大将を囲む様に酒の円が描かれた!
「親父!酒なんか撒いてどうするつもりだ!」
「あんちゃん!この酒はな!最近この街に入った、とんでもなくつええ酒なのよ!」
「おお!」
「そう言う事よ!あんちゃん!おちびちゃんに負けてらんねえ!今!炎の壁を!作ってやるよ!」
「ナイスだ!ナイスだ!親父イイ!頭使えってのは!そう言う事だろ!」
「おおよ!」
言うと武器屋は上着を脱ぎ青大将のケツで燃え盛る炎を上着に移すと酒の円を目掛けて突進していく!
「おらあ!火いつけるぜえええ!」
グサッ!
「ウグッ!」
ブシュ!バチャバチャバチャ!
「オヤジィイ!」
武器屋が地面に撒かれた酒に数mと迫った位置でグソク側でいち早く対応した奴がいた!
青ムカデ!
敵側で最速を誇るソイツは一直線に鋭い青い槍となって武器屋の右脇を深く抉った!
血液の貯蔵庫肝臓の位置!
大量の血液が噴出し周囲に飛び散った!
致命傷!!!
誰が見ても即死!
助かるはずは無かった…
「おやじい!オヤジイイ!」
俺は必死に武器屋に呼びかけるが腹を抉られた彼はうずくまって動けない。跪いた状態で顔だけをこちらに向け言った。苦し気に…
「ブホッ!」
「あんちゃん…下手こいた…ぜ…」
「だがな!おちびちゃん達もあんだけやったんだ…」
「お、俺も負けちゃいられねえ!」
「おい!親父!何するつもりだ!?」
「ぶ、武器屋が武器売るだけの能しか無いなんて言わせねえぜ…」
「親父!いいんだ!下がってろ、誰か!彼をッ!」
「俺様を!」
「舐めんじゃあ!」
「ないぜ!」
「そう言う事だろ!?勇者様!」
「な!なにを!?」
バリーン!
ボォワッ!
彼はそう言うと酒瓶を自分の頭に打ち付けた!
大量の酒が頭を伝い火の付いた上着に滴ると即座に全身を覆うほどの大火に包まれ火だるまとなった!
「ウオオオオオオオ~!」
咆哮一閃!業火を纏った武器屋は雄たけびを上げながら猛進し決死のダイブ!企みに気付いた青ムカデが一瞬、彼を阻もうと試みたが武器屋が纏った炎に…
いいや!
彼の纏った気迫!に圧されタッチの差で届かない。
火ッ!
ブォオワッ!
着火アアアアア!
「オヤジィイイイイイイイ!」
命を賭したタッチダウン!
見事な…
あまりに見事な!神風であった…
武器屋の造った炎の防御壁が周りを覆う!次々と流れ込んで来ていた灰が熱から逃れる様に炎壁から距離を取り出す!炎壁とグソクの群れの間に空間が生じていく!
「おやじい!オヤジイ!」
俺は涙を溢れさせながら叫んだ。しかしてその涙は悲しみの涙ではなかった。
ガレッタ、ちゅん助、武器屋の親父…次々と自らを犠牲にしてまで使命を果たそうとする彼らの姿に俺は感動すら覚えていたのだ!
(泣いている暇はない!)
溢れる涙は止まる事を知らなかったが、この感動は彼らが俺に与えた勇気でもあるのだ!勝機は!最後の勝機は!
今!この時をおいて他は無い!
「聞けええええええええええええええ!!!!!!!!」
「ガリンの民よ!」
「天令の勇者が!」
「最後の!」
「最後の命を出す!」
第六話
その20 武器屋の矜持
終わり




