第一話 その2 ヲタク二人
第一話 その2 ヲタク二人
俺は泉輝、地元の企業に就職し社畜としてはや20年以上、人生の折り返し地点を過ぎた今でも会社では激務に追われ結婚はおろか出世もままならず今に至ってしまった。
本日も早めに切り上げたのに既に23時!そんな希望のない毎日の中でも今から向かう毎年恒例となっている霊峰スーパースピードウェイでの自動車レースに少しだけ心躍らせて絶賛急いで帰宅中なのであった。
急いで風呂、食事を済ませ持ち物を愛車に積み込むと自宅の裏庭兼駐車場に向かう!
そこにはすでに到着している相棒のシルバー色の軽箱バンが一台だけ止まっていた。
「かなり遅くなってしまった…」
相棒との待ち合わせは努力して22時位には、と約束していたのだが既に1時間以上過ぎてしまっているのだ…
コンコン…
ストレスにならない程度にそっと箱バンのスライドドアを叩いた。
少しの間をおいてスライドが開いた。
「遅いンゴw~」
冗談交じりに少し怒りを含んだ声で布団からもぞもぞと這い出して来る姿があった。
こいつは岩間健。
彼の描くへんてこなイメージキャラクター?の名前からあだ名はちゅん助。
「悪い悪い!残業が長引いちゃって」
「今から出発してあっちに着くのは6時前位だお!」
「イズサンの車で座って朝を迎えたらわしの虚弱体質では死んでしまうんゴw~!」
40半ばにして某巨大掲示板語の連発は如何なものか?とは思うもののちゅん助の言い分はもっともだった。
というのもちゅん助は数年前大病で長期入院を喫しており元々健康に自信がある方ではない彼の身体は増々無理が利かなくなっており、そのせいで正規社員を外れ出世とは縁遠い生活をさらに離れて送っているのだった。
彼が軽の箱バンに乗っているのも経費が掛からない事もあるが、今みたいに布団を積んでさえおけば夜が更けたらサービスエリアでも道の駅でも好きな場所で寝られる、そういう理由があったからだ。
もっとも彼は投資家としてある程度成功している様であり
「買おうと思えばちょっとしたキャンピングカーでも!」
「キャッシュで買えるお!」
などといつも豪語しているのだが、何故そうしないか?と尋ねると
「金持ちは税金を敵に回さないんだお!」
と答え、金持ちなのに?とさらに問うと
「なのに!」
「ではない!」
「だから!」
「金持ちなんだお!!!」
と応えるのが常だった。
ちなみにこの軽バンは最低20万km、目標30万km乗るつもりらしい…
一方で自分はと言えば至って普通の健康状態で少々の無理が利いてしまうため今日みたいな残業と激務を強いられる事が常だった。健康、この点について二人は対照的であったが、40歳超えるとなかなか堪える事が増えて来てちゅん助の言い分も分からんではないのだった。
「待たせて済まなかった、支度してくれ」
「わしの準備はとっくに済んどるわ、荷物二つ載せ変えるだけなんだお」
そう言ってちゅん助はリュックと大きめのバッグを俺の車に積み込んで即座に乗り込んだ。
「見せてもらおうか!ミスモのガソリン発電電動コンパクトカーの性能とやらを!」
「いや、お前、何回も乗ってるだろ!」
「こういうのはふいんきが大事なんだお!ふいんきが!」
オタ趣味と掲示板に毒されているらしいちゅん助が乗るたびに今回も同じ事を言った。
深夜の国道をしばらく走ると程なくして高速道路に入る。
「どうだい!我がミスモ自動車の高速の乗り心地は!モーター駆動でスムーズだろ!」
「乗り心地が良いのは……貴様のその車の性能のおかげだという事を忘れるなお!w」
「負け惜しみを!w」
オタク二人のいつもの会話だ。
「今日の予選、明日の決勝、どこが獲るかお?」
「ミスモの本野のポールトゥウィン!」
「は?させるかお!アルザス自動車のエース立脇の記録更新だお!」
「GTレースの観戦者の半分はミスモのGT-VRの勝利を見に来てるんだよ!」
「ニッポンのシェア4割はアルザスなんだお!」
「ミスモ!」
「アルザス!」
殊好みに於いて全く違う二人のいつも通りの言いあいだ。
「さておきちゃーんと今年はラヴァー新劇場版の完結編公開してくれるんだろうなお?」
ちゅん助の話題はいつも唐突にあさっての方向に飛んでいくのが常だ。既に明日のレースの話は頭にないらしい。
「そりゃ年末公開決定!ってプレスリリースしたからには大丈夫なんじゃないか?」
「アスカは!我がアスカはちゃんと活躍するんだろうなお?」
「そりゃ監督じゃなきゃ分からんだろ」
「はよう!はよう!ちゃんと監督仕事してクレメンス!」
「まあ追い込みには入ってるだろうけど?」
「アスカちゃんと活躍させてクレメンス!」
「だから監督の思惑でそんなのどうにでも…」
「活躍させてクレメンス!」
「わしアスカ派極右政党党首!茅波派の抹殺を決意!」
「好き嫌いで殺すな!」
「はよう!はよーう!アスカ活躍させてくれないと…」
「活躍させてくれないと…」
「わしは…」
「わしは」
「わしは!」
「わしはおっさんになってしまうんだお~~~www!!!」
「いや、もうなってるから…」
毎度毎度のちゅん助のこのネタももう30回以上。いい加減に飽きているのだが…ちゃんとツッコまないとちゅん助が拗ねるので優しい俺は見捨てず毎回付き合ってあげてるのだ…
第一話
その2 ヲタク二人
終わり




