第六話 その4 隊長の矜持
第六話 その4 隊長の矜持
「ゆ、勇者サマッ!」
「お前は離れてろ!」
クソ!なんてこった!
青大将を追い抜いて少年を突き飛ばしたまでは良いが、バランスを崩した途端、奴が加速したように見えた。少年に狙いを付けたこと自体が罠だったのかもしれない。
ちゅん助を盾にされた時、斬りかかれなかった俺の行動を見て少年に狙いを付ければ俺が庇いに走る、そう予測したのだろう。
ご丁寧に突撃のスピードまで調節して俺が奴の前に出るのを謀っていたのか!?
なんとか剣を奴の体に突き立てそれを梃に喰われないよう、もがいてはいるものの、口に運ばれるのは時間の問題だった。ダイオウに比べて脚の力が弱い分、僅かに寿命が延びている…
「くそっ!離せよ!」
奴の体を蹴飛ばしたり、身をよじらせてなんとか必死の脱出を試みるが無数の脚に半身を捕らえられては自由が利かない!
超巨大なダイオウ状態に比べ、やや小型で細身になった青大将はその分、力が落ちたのか、速度重視のためなのか、はたまたちゅん助の地雷のせいで魔王もダメージを負ったためなのか、ダイオウに比べて引き寄せる力が弱いのは幸いだった。
もしダイオウと同じだけの力があったのなら掴まれた瞬間、俺は絶命していたはずだ!
つまり!
まだ運はある!
この運を引き寄せたのは間違いなくちゅん助の地雷攻撃なのだ!
ドン!ズシャア!
「ぐう!」
青大将は引き寄せられないと見ると俺を建物や樹木にぶつけなんとか引きずり込もうと試みた!
僅かに動かせる半身をさらに掴まれないようにギリギリの線で青大将の懐に収まりながら、なんとかダメージを最小限に抑えるがこの攻撃はキツイ!自分一人で耐え凌ぐのはまず無理だろう。
かといって増援に着た奴等はオロオロするばかりで全く頼りにならない。
いよいよ
いよいよ、ここまでなのか…?
そんな考えが頭をよぎって仕方がない。下らない正義感でしゃしゃり出てしまって、このザマ…
「みんなー!勇者様を!勇者様を助けてよ~!」
「誰かーーー!」
どこからともなく少年の必死な叫びが響いていた。これだけの人数が居ても、状況を理解し事態を打開しようと必死になっているのはあの少年だけか…
俺は振り回され、打ち付けられ、引きずられながら必死になって身の空間を確保するが、確実に限界は近付いてくる。
付かず離れず生と死のほんのギリギリの空間を維持しなければ激突でやられるか、引きずり込まれて喰われるか?
この状況で耐え凌ぐのはどだい無理な話なのだ!
(ここまでか…)
唯一の救いは少年によって、どうやらちゅん助の安全は確保されたであろう事だった。
もし先に彼がやられるような事態になっていたら俺は死んでも死にきれない。ちゅん助なら体力さえ回復すれば、彼一人ならば誰の助けも借りずこの事態を上手くやり過ごす事が出来るはずなのだ!
それだけは、そう信じる事だけは死にゆく者として救いであるかのように感じられた。
(ダメだ!腕が!体が痺れる!引き寄せられる!)
「勇者様ッ!今助けに参りますぞ!」
「!?」
突然の加勢の声!
その方向に思わず目をやると声の主はガレッタだった。猛然と俺の方へ向かって走って来る。
瞬間的に彼の表情から決死の覚悟が読み取れるような気がした!
(イカン!)
そう感じた俺は咄嗟に制止の声を飛ばした。
「隊長!何をするつもりか!」
「下がれ!」
「アンタがやらなくちゃいけないのは周りの奴等と共に態勢を立て直すことだ!」
「俺を助ける事では!」
必死に説得を試みたがガレッタは聞く耳を持たなかった。鬼気迫る表情で青大将に斬りかかる!
「うおおおおお!」
ズバアアアアシューー!
ドン!
「うわっ!」
大上段の構えから繰り出された渾身の振り下ろしの剣撃は俺を捕らえた青大将の脚を見事に斬り払い、彼の体当たりによって俺は青大将の拘束から逃れることに成功した。
しかし!
「勇者様…街を…街を頼みます!ぐわっ!」
ブシュウーーーーー!
代償はあまりに大きかった!鮮血が雨となって俺の身体に降り注ぐ。
「うう!」
何という事だ…自らを犠牲にして俺を逃すとは…俺の中で二つの想いが交錯した。
一つはあの頼りないガレッタがなんと!自らを犠牲に俺を救った事。正直、真面目なだけで頼りにならない、使えない男…という印象しかなかったがそんな男が命を賭けて俺を救ったという事実に驚愕した事。
最後に俺を見た眼は悲壮感の中でも使命を忘れず、俺に街を託す気高い意志が宿っていた。
あの眼はどこかで見た事がある、そうアリセイで自らを囮にして俺達を逃がそうとしたトニーガ、あの時の彼と同じ眼だった。実力こそ雲泥の差があれ隊長としての矜持を守る、そういう意味では同じだったかもしれない。
街の奴等の情けなさは隊長譲りかもしれない、そんな風に考えていた自らを恥じた。彼もまた自分の責務を果たそうと必死だったのだ。
もう一つは、お前がやる事はそれじゃないだろう!そんな思いだ。
彼には申し訳ないがこっちの思いの方がより強かった…
今この状況に於いて、彼の最も重要な役割は隊員達や他の戦力に指示を出し、敵を倒すことだ。いわばこちら側の大将と言って良いのに、よりにもよってその大将が俺一人を助けるために最前線に身を晒し散ってしまったのだ。
これから先、誰が指示を出し、態勢を整えられるというのか?
勇者様街を頼みます、だと!?
アホか!
俺の今現在の苦戦ぶりを見れば、俺に何か特別なる力などない事くらい誰でも判断がつくだろう。
ちゅん助じゃないが何の実績もない勇者に救いを求めるなんてどいつもこいつもアホ、ここで続いて俺がやられたらガレッタの死はまさに犬死と言って良かった。
いいや!それは過程だけの話であってグソク達の膨大な戦力の前では街全体が全滅!という結果の前には何をやっても無駄な足掻きだろうか?
ひょっとしたら街の連中はそれをうすうす感じ取って、もはや積極的に戦うのを諦めていたのだろう。どれだけ檄を飛ばそうが無駄な訳だ。
(しかし!)
簡単に諦めるつもりはなかった。まず街の奴等にこの状況を分からせる必要がある。
ガレッタの死によって俺の中に使命感の様なものが湧きあがったような気がした。それだけでも彼の死は無意味ではなかったのかもしれない!
ウソでもハッタリでも!何でも使ってやってやる!その役目を担うはずのちゅん助は、もうここにはいないんだ!
ならば!
俺がやるしかない。
「お前ら!ゆでガエルの話を知ってるか!?」
「水の中にいるカエルは温度が少しずつ上がると変化に気が付かずゆで上がって死んでしまう!そういう話だ!」
「だがな!俺らが浸かってるのはもうぬるま湯じゃねえ!熱湯だ」
「押すなよ!絶対に押すなよ!って言っても絶対に押されるからな!」
「そうやって遠巻きに見たり灰色相手に遊んでりゃほんの少しだけ長生き出来るだろうよ!」
「しかし!戦いは大将を落とすまで勝利はない!終わらん!」
「灰色を何万匹とやっつけようが無意味だ!」
「敵の大将はアイツ!青い巨体の中に埋もれてる白い奴だ!」
「あれを倒さない限り、みんな死ぬ!」
「みんな死ぬんだぞ!」
「助けなんて来ない!」
「ここに居る奴等で何とかしない限り、みんな死ぬ!例外なく!」
「ガレッタ隊長は勇敢に散っていった!」
「お前らも覚悟を決めろ!」
俺の叫びにいくらかの隊員と周囲の奴等の表情が変わったような気がした。勝負所かもしれない。
ここで皆を鼓舞しなければ確実に負け!全滅なのだ!
ウソでもハッタリでも!鼓舞し続けなければ!
「天令を受けし勇者!泉輝が命ずる!」
「戦え!死にたくなければ敵大将を落とせ!」
「それ以外に生き残る方法は!」
「ない!!!!」
天令の勇者、その影響力は俺が考えてるよりかなり大きかった様だった。
あんなのただの乱発SSRラベル貼りだと思っていたが、この状況、あんなんでも希望なのだろうか?いやこんな状況だからこそあんなものでも希望の光なのかもしれない。
ええい!
どっちでもいい!
とにかくここに居る奴等で何とかしなければ!
それだけは間違いないのだ!
周囲に覇気が宿ったように感じる!
うん!?そうか!
こいつらは考えてみたら前面に出て戦わされてる俺を普通の青年としか思っていなかったのだ!あの少年がふれ回ってくれてはいたが、俺が天令を受けている事はおそらく完全には伝わってなかったのだ!
先程、俺が大声を出したおかげで天令の勇者は、今この場でグソクに対抗する旗印となったのだ!
いける!?
行けるかもしれない!
本意ではないが…勇者ブランドを前面に押し出していけば!上手くいけば雑兵どもをコントロールできるかもしれない!
日本だってそうだった!
大したことない製品でも有名ブランドのロゴ一つ
人気キャラクターのシール一つ貼ってあれば!
明らかにステマと分かっていても有名人が推しさえすれば飛ぶように売れるのだ!
そう!日本では民衆はいつだって買う理由を探していた!
ここだって戦う理由が欲しかったんじゃないか?戦う意思の統一を欲しがっていたんじゃないか?
そうか!
なら俺が与えてやる!
しかし勇者だからと言って俺にはちゅん助みたいな途轍もない能力とか必殺技の類は全く与えられていない…もらってるのはブランドだけ…
だったら!
そのブランド!使い倒したるわ!
人生ある物で勝負するしか無いのだ!
「クソ蟲!見てろよ!」
第六話
その4 隊長の矜持
終わり




