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第14話 フレンドと友達





 黒崎加恋視点



 だけどいつまでもこうしてはいられない。

 即座にLEINへの送信。


『騙された』


 すぐに複数の既読が付いて返事がやってくる。


『どうしたの加恋?』


『何か問題でもあったか?』


 白々し過ぎる【ゲーマー美少年捜索隊】の友人たち。

 私は感情のままにLEINへと文字を打ち込んだ。


『ピー音と問題しかないんですけど!?』


 百合が【DOF】内でカナデさんとやり取りする下ネタを交えた会話。

 それに危機感を覚えなかったと言えば嘘になる。

 あの優しいカナデさんも画面の向こうでは内心思うところがあるんじゃないかって不安になることもあった。

 百合の【りんりん】がリアルよりは控えめなものとは言え、カナデさんにそっち方面の話題を振るたびにこちらは現実で冷や汗ものだったのだ。

 いくら優しいカナデさんでも……なんて思ったり。

 しかし、これはレベルが違う。

 次元が違うなんて言葉が生易しく思えるほどの超超超超高難易度クエストだった。

 報酬は美味し過ぎるけど、私一人が背負わされるには荷が重すぎた。


『言いたいことは色々あるけど……例えばこの『これからそのピ―――にたっぷりピ――――!』って台詞だけど』


『ピーピー言われても分からないけどたぶん私のかな? 囚われのヒロインって興奮するよね』


『なら……えーと『この変態がッ!』って台詞とか』


『それは私。やっぱりシンプルな言葉責めが一番グッと来るんだよね』


『この変態がッ!』


『いや、加恋じゃなくてカナデさんに言ってほしいんだけど』


 私はスマホを窓から投げ出したくなった。


『加恋、落ち着きなさいって』


 むしろ私はなんで皆がそんなに落ち着けてるのかが分からない。

 さすがにこれは無理だ。

 カナデさんだってこんなこと言わされたら怒るに決まってる。

 それが私たちみたいな女の欲望のために利用されるのだって絶対嫌なはずだ。

 いや、今更ではあるんだけどさ。

 だけどこれはいくらなんでも度を超えている。

 すると百合が言ってくる。


『じゃあ加恋はどんな台詞を?』


『『大好きですよクロロンさん(はぁと)』とか』


『…………』


『…………』


『…………』


『何か言ってよ!?』


『言われてみれば確かに難しいよね』


『カナデさんの言葉が断片的過ぎても繋げれないしね』


『加恋一人に押し付けたのはそりゃあ悪いとは思うけどさ』


『スルーもやめて!?』


 冷静になると無性に恥ずかしくなった。 

 慌てて先ほどの台詞を送信取り消ししてLEIN上から削除した。


『加恋って何気に純情なところあるよね(* ̄з ̄)ププッ』


『はぁとwwww』


『www』


 私は手で顔をパタパタと扇いで顔の熱を落ち着かせる。

 先ほどの発言を誤魔化すように本題に入った。


『こんな言葉言わせたらほんとに嫌われちゃうかもしれないんだよ? それでもいいの?』


 カナデさんのいない【DOF】。

 男の人ってだけだからじゃない。 

 あの優しいフレンドさんがいなくなった【DOF】を想像して胸にぽっかりと穴が開いたような虚しさを感じた。

 グループの皆もそれは分かっているはずだ。

 少しだけLEINの時間が止まった。


『言いたいことは分かる、でも私だって何も考えてない訳じゃないよ』


『というと?』


『チャットHでも分かった通りカナデさんはエロに寛容だよ』


 うん、それは分かる。

 少なくともチャット上での抵抗感は見られなかった。


『だから加恋に確かめてほしいの。カナデさんがどれだけ許容してくれるのかを』


『……確かに、相手が優しいからって調子に乗ってたらいつか不満爆発、なんてこともあるかもしれないしな』


『現実でもあり得るけど、ネットゲームは顔も見えないし』


『チャットは文字だから相手がどんな感情でやってるのか分からないもんね』


 そう言われて私は咄嗟に動けなくなった。

 百合は何も考えてない訳じゃなかった。

 むしろカナデさんと真剣に向き合っていたのだ。 

 それはいっそ私よりも。

 ただのオープンな変態だと思ってた。

 でも違った。

 偏見だけで友人を見ていた自分が恥ずかしく……あれ? でもちょっと待ってよ?


『下ネタをやめたらいいんじゃ……?』


『それはできないの……私が私である限り、ね』


 前言撤回。

 それらしいことを言っただけでやはり変態だった。

 

『だけど一理はあると思うぞ』


 LEINに表示された晶の言葉を見て確かに……と、感じた。

 カナデさんは優しい。

 だけどさっきも言った通りどんな人なのかが顔も知らない私には分からない。

 私たちが女であることをカナデさんがどう思ってるのか。

 性別が違うことがいつか致命的な事態を生むんじゃないかと。

 それを私は考えないようにしていたのかもしれない。


『できないならそれでもいい。だけど私は知りたいの……カナデさんの優しさが嘘じゃないってことを信じたい。カナデさんが素の私たちとのチャットを心から楽しんでくれてるって思いたいの』


 ネットゲームは怖い。

 いくらフレンドなんて言葉を使っても現実とは決定的に違う関係性。

 フレンドと友達は別物だ。

 そう割り切ってる人もいるんだろう。

 向こう側に生身のプレイヤーがいても現実とは違うんだと。

 所詮はゲームだけでの関係だって言う人もいるんだと思う。

 だけど私にとってそれは現実となんら違いはない。

 カナデさんは大事なフレンドで友達だ。



――クロロンさん、こんにちは~!ヾ(´∀`)ノ



 あの優しい言葉が偽りじゃないことを信じたい。

 カナデさんだってそれを望んでいるんだと思いたい。

 ボイスチャットなら声が聴ける。

 カナデさんの気持ちを感じ取ることもできるかもしれない。

 そして、きっとこれは皆も同じ気持ちなのだろう。

 私はスマホを持つ手に少しだけ力を込めた。


『分かった、やってみる。絶対カナデさんに聞いたこともないような下ネタ言ってもらうよ』


『ここシリアスシーンなのかどうなのか分からなくなってきたw』


『酷い字面だ』


『駄目だちょっと面白いww』







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